●よこやまのステージ千一夜●
5月10日(火)に初日を迎えた新国立劇場演劇「鳥瞰図」。
この作品を5/12(木)に拝見しました。
「鳥瞰図」は、3月に げきぴあ"舞台のウラ話 from サスペンデッズ"で
コメントも寄せてくださったサスペンデッズの早船聡さんの作品。
2008年6月に新国立劇場の企画「シリーズ・同世代」の
三作品連続上演の1本として初演され、
今回は再演。
演出は前回と同じ松本祐子さん。
町の面積の3/4が埋立地という東京湾岸のある町。
そこで女将の佐和子(渡辺美佐子)と息子の茂雄(入江雅人)は、
三代続いている釣り船宿を営んでいる。
この船宿は心に何かしら欠落感を抱えながらも明るく前向きな地元の常連客が集まり、
日ごと賑わいを見せている。
暑い夏の日、ミオ(野村佑香)と名乗る少女が船宿を訪れ、
聞けば彼女は家を出ていった佐和子の長女の娘だという。
その来訪を機に失われた町の様子や彼らの触れられない過去が露になって......。
撮影:谷古宇正彦(以下同)
出演は
渡辺美佐子さん、入江雅人さん、野村佑香さん、八十田勇一さん、
弘中麻紀さん、浅野雅博さん、佐藤銀平さん、品川徹さん。
入江さんは初参加、他の方は続投です。
東日本大震災から2ヵ月。
今なお収束の見込みがたたない福島第一原発の事故もあり、
「鳥瞰図」は初演の2008年より過酷な現実下で上演されています。
しかし、初演よりも状況の厳しい現在のほうがより、
意義深い作品になったかもしれません。
震災により家族の重要性を皆が噛み締めている今日このごろですが、
この芝居で登場する人たちはことごとく、まともな結婚生活を送っていません。
どこか欠落した部分がありながらも、揃いも揃ってお茶目さんばかり。
人の噂話に夢中になったり、会社を適度にサボったりする、
下町の愛すべきダメ人間たちの物語です。
唯一、お茶目じゃなく、いつも顔がこわばっているのがミオ(野村佑香・写真中央)。
ミオの登場が皆に波紋を広げていきます。
ミオとその母である佐和子(渡辺美佐子・写真右)の長女とのわだかまり、
長女と佐和子の関係が露になったり......。
息子・茂雄(入江雅人・写真右)の隠し事が明らかになったり......。
自分の母が写っている古い写真の撮影場所をミオが探すのを、
船宿で働く勇太(佐藤銀平・写真右)と、
かつては地元の漁師だったが今では漁業仲間に総スカンを食らっている峰島(品川徹・写真左)が手伝ったり......。
とにかく、いろいろな問題が噴出しますが、
佐和子扮する渡辺美佐子さんの表情が物語っているように、
この作品は、今、皆が欲しいと思っている"救い"があります。
東日本で起こっていることをはじめ、
現実はより過酷で救いがあることなどほとんどありませんが、
芝居でちょっとした夢が見られます。
芝居は船宿を中心とした人間模様が綴られていきますが、
時々セリフのなかに
「タワーマンションに住んでいる」
「ディズニーランドに行ってきた」
「美浜」
「埋め立て」
という言葉が入ることによって、
観客は時間の経過とともに鳥の目の視点で、
頭の中に船宿付近の地図をざっと描けるのも面白いですね。
......だから『鳥瞰図』!?
個人的に、8人の登場人物のなかで一番の「お茶目大賞」は、
佐和子役の渡辺美佐子さんです。
本当に笑顔が可愛らしい!
どんなに過酷な状況でも生きていくには
やはり"お茶目"な人間であることが大事!?
"お茶目"な角には福来る!?
...そんなことも考えさせられました。
『鳥瞰図』の東京公演は、5月22日(日)まで新国立劇場 小劇場にて。
その後、5月28日(土)に兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、
6月3日(金)・4日(土)には岐阜・可児市文化創造センター 小劇場にて上演。