【演劇ニュース】
3月2日(水)から東京・新橋演舞場で上演される『新橋演舞場 三月大歌舞伎』に出演する中村吉右衛門、市川染五郎、尾上菊之助が今週、記者会を開催し、公演に対する意気込みを語った。
昼の部は『恩讐の彼方に』『伽羅先代萩』『曽我綉侠御所染』、夜の部は『浮舟』『水天宮利生深川』『吉原雀』をそれぞれ上演するが、中でも注目は夜の部の『源氏物語 浮舟』。戦後、主に菊五郎劇団により劇化され好評を博し、上演される機会も増えた『源氏物語』だが、これに対抗し当時の吉右衛門劇団が上演したのが、北條秀司が『宇治十帖』に材を取り書き下ろしたシリーズ。"北條源氏"と呼ばれる一連の作品のうち、『浮舟』は第一作目であり再演を繰り返す人気作だ。光源氏の栄華を受け継ぐふたりの貴公子、薫大将と匂宮、そしてふたりから思いを寄せられる浮舟の狂おしい三角関係を、人間の心の葛藤にスポットを当てて描く物語に今回、吉右衛門、染五郎、菊之助がそれぞれ初役で挑む。
吉右衛門は、演じる好色で闊達な匂宮のことを「いやな面もありながら、かわいいところもあるし、また、一途に女性に惚れこんだり、わが子をあやす父性愛の側面もあります。とても人間臭い、いつの時代にもいる人物」と語り、「特に浮舟と関係を持つ場面では、一途に愛しているところ、浮舟が一時でも心を動かすほどの魅力が必要。匂宮としての大きな見せ場です」と意気込む。また現代語で上演される歌舞伎であることを「初演当時(昭和28年)は斬新だったと思いますし、それが今でもいい雰囲気を出しております」と話し、「源氏物語の世界でありながら、いつの時代も変わらない人間臭いドラマ。北條先生は、この作品で男女の本性を書きたかったのではないか。これからも後に残る芝居にしたい」と作品の魅力を語った。
また清浄な心を持つ薫を演じる染五郎は「薫大将は純粋な男性で、理想的な人物。この作品には、男女の恋愛の機微やストレートな感情表現など生々しい面もありますが、薫の純な部分を出して『源氏物語』の夢の世界をきれいに演じたい」と意気込みを。東国育ちの自由奔放な乙女から、ふたりの男に挟まれて女として成熟していく浮舟を演じるのは菊之助。「田舎育ちの快活な、純粋な乙女が、どういうふうに都の文化に触れて成長し、心が揺れて、入水するまでに至ったのかという過程を今は一所懸命考えております。心揺れる女性像をどういうふうに演じるか研究している最中です。世界は『源氏物語』ですが、現代社会の女性像に通じるところもあり、多くの方々に共感して頂けるのでは」と話していた。
公演は3月2日(水)から26日(土)まで。チケットは発売中。