■見なきゃ損!話題の公演■
02年の初演以来、『エリザベート』に続くウィーン発ミュージカルとしてヒットを続けている『モーツァルト!』。
4度目の再演となる今回は、初演から主人公のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを演じている井上芳雄に加え、これがグランドミュージカル初主演となる山崎育三郎がダブルキャストで参加。24歳の初々しさそのままに、「念願だった」という本作に全力投球している。市村正親、山口祐一郎といった大ベテランを始め、島袋寛子、涼風真世、香寿たつき、高橋由美子ら実力派が舞台上にひしめく本作。今回は山崎ヴォルフガングによる東京公演を観た。
1768年のウィーン。ザルツブルクの宮廷楽士レオポルト(市村)は、5歳にして作曲の才能を示す息子ヴォルフガングと共に貴族の館で演奏会を開く。数年後、成長したヴォルフガング(山崎/井上とWキャスト)は、幼い頃の自分"アマデ"を傍らに感じながら作曲活動を続けていた。やがて領主であるコロレド大司教(山口)の支配を息苦しく感じ始めた彼は、レオポルトと姉ナンネール(高橋)の制止を振り切って出奔。パリで活動を開始するが、全く芽が出ず生活は地の底に。その才能を認めるヴァルトシュテッテン男爵夫人(涼風/香寿とWキャスト)に、ウィーンへ行くことを勧められたヴォルフガングは、新天地でコンスタンツェ(島袋)と結婚する。運命はようやく好転したかのように見えたが...。
ミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(作曲)というゴールデンコンビによるウィーン版を、小池修一郎が演出する形式は『エリザベート』と同様。"死"という観念を黄泉の帝王トートとして具現化した仕掛けは、『モーツァルト!』では"才能"を示す小さなアマデとして登場する。売れっ子になると同時に大切なものをすり減らしてゆく青年ヴォルフガングの横で、ひたすら楽譜に向かう無垢なアマデ。1幕の最後、ヴォルフガングの腕をアマデがペンで刺す衝撃的なシーンは、青年の初期衝動と相克を伝えて鮮やかだ。それは創作者だけのものでなく、我々の誰もが覚えのある感覚だと、痛いほどに伝える点にこそ小池演出の妙味がある。
円熟の市村に緩急自在の山口、前回からの続投で表情や歌声に一層の艶が増した島袋を後ろに、舞台中央に立つ山崎。歌唱力と演技力で若手随一の実力をもつ彼が、緊張も露わに持てる力の精一杯でヴォルフガングとして生きる姿は、今回の公演ならではだろう。現在進行形の山崎の格闘が役のそれと自然に重なるのも、生である舞台の醍醐味。それだけに、「なりたいものになるため」旅立てと歌うヴァルトシュテッテン男爵夫人(涼風)の温かい歌声が胸に迫った。
文:佐藤さくら