緻密な心理戦を立ち上げる『物理学者たち』の現場【稽古場レポート後編】

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スイスの劇作家フリードリヒ・デュレンマットによる戯曲を、ノゾエ征爾の上演台本・演出で立ち上げる『物理学者たち』。げきぴあ編集部は、この稽古場をリアルタイムで"リモート見学"し、後日動画でも視聴しました。

稽古場レポートの前編では、タイトルロールの"物理学者たち"が入院するサナトリウムの院長マティルデ・フォン・ツアーントを演じる草刈民代さんの登場シーンをお届け。後編はその翌日に行われた稽古の様子をお伝えします!

▼『物理学者たち』について
                            
■INTRODUCTION
とあるサナトリウムを舞台に、自らをニュートンやアインシュタインと名乗る精神病棟の患者と、院長をはじめとする施設スタッフの会話で構成される本作。第二次世界大戦での原爆被害も記憶に新しく、ベルリンの壁建設や水爆ツァーリ・ボンバの爆発実験など世界
情勢が緊迫した1961年に執筆され、時代背景にあった"科学技術"や"核"をめぐる人間のモラルと欲望が描かれます。

■あらすじ
舞台は、富裕層向けのサナトリウム「桜の園」の精神病棟。ここに入所する自称ニュートン(温水洋一)、自称アインシュタイン(中山祐一朗)、「ソロモン王が現れた」と言うメービウス(入江雅人)の患者3人はいずれも"核物理学者"だ。

ある日、自称アインシュタインが若い看護婦を絞殺してしまう。数ヵ月前には、自称ニュートンも看護婦の命を奪ったばかり。院長のマティルデ・フォン・ツアーント(草刈民代)は「放射性物質が物理学者である彼らの脳を変質させた結果、常軌を逸した行動を起こさせたのではないか」と疑う。

そんな中で起きる第三の殺人によって、事態は思わぬ方向へ。彼ら3人はなぜこのサナトリウムに入所しているのか、タブーを犯すのか──。

詳しくは、翻訳を手がけた山本佳樹さんによる"作品解説"をご一読ください。

▼稽古場レポート後編
                               
8月30日。セミの鳴き声が背後に聞こえる稽古場では、2場面のブラッシュアップが行われていました。外の猛暑に負けないほど熱いキャストの演技に、画面越しながら手に汗を握ってしまいます!

①メービウスとモーニカ
サナトリウムの精神病棟に入院している物理学者の一人、メービウスに扮するのは入江雅人さん。長らく彼の世話を焼いてきたと思われる看護師モーニカ(瀬戸さおり)との応酬は、1幕ラストの急展開を飾る迫力に満ちたものでした。

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患者と看護師の関係性を超えた結びつきを感じさせる二人。精神病棟で起こった2件の連続殺人をきっかけに担当を外れることになったモーニカは、メービウスと離れがたい様子です。演出を手がけるノゾエさんは、モーニカ演じる瀬戸さんに「メービウスのペースを
崩しているように見えるといいね」と声をかけました。

●後せとDSC_0082.JPG

その最たる例と感じたのが、いきなり放り込まれるモーニカの英語。椅子の上に乗ってメービウスへの想いを高らかに宣言するひと幕では、ノゾエさんから「I Love You, I Love You, I Love You!!!!!と3回くらい続けて言ってみて」と指示が飛びます。これを受けてすぐ実践した瀬戸さんは、2回も増量して応戦。毎回ニュアンスを変える変幻自在の「I Love You」に、入江さんがアドリブで「I Love You"Too!!!"」と返すと稽古場は爆笑に包まれました。

モーニカの勢いに圧される様子を、入江メービウスとノゾエさんは巧みな動きで表していきます。後ずさりのタイミングを緻密に計算したり、モーニカの耳打ちから逃れるような仕草を取り入れたり。二人の心理的なマウント合戦が観客にしっかり伝わるほど、1幕ラ
ストでメービウスが見せる激情が映える構成になっていることに気づきました。本番でも固唾を飲んで見守ることになりそうです。

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②物理学者3人(ニュートン・アインシュタイン・メービウス)
続いて行われたのは、物理学者たち3人が一同に会するシーン。殺人が行われた現場で食事を楽しもうとする自称ニュートン(温水洋一)のもとに、気が滅入った様子のメービウスが現れます。やがて自称アインシュタイン(中山祐一朗)も加わると、次第にそれぞれ
が唱える説を戦わせる不穏な展開に──。

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ここで論じられているのは、科学者の責任について。内容が少々難しいということもあって、ノゾエさんは「流してしまわず、キーワードになりそうな"責任"や"自由"って言葉を立てて発してください」と3人にオーダーします。続いて「黒板を使って議論してみましょう」と言って温水ニュートンと中山アインシュタインに実践させると、何のアクションもない状態より長ゼリフが耳に残るような気がしました。

中山さんは、時間を見つけては一人セリフをそらんじる姿を見せるなど準備に余念がない様子。常にいつの間にかその場に現れる、飄々とした自称アインシュタインのたたずまいは、こうした地道な努力から生まれているのかもしれません。ノゾエさんとのやりとりにも、信頼関係を感じさせます。

しまいにはメービウスの存在をめぐる緊迫感あふれるシーン。にもかかわらず、食事と殺人が並列で語られるなどシュールな"不協和音"が鳴り止みません。彼ら物理学者たちは何者で、本当に狂ってしまっているのか、いないのか──。真相はぜひ劇場でお確かめを。

●後DSC_0132.JPG

取材・文:岡山朋代
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ワタナベエンターテインメント DiverseTheater『物理学者たち』

2021年9月19日(日)~26日(日)
本多劇場
[作]フリードリヒ・デュレンマット
[上演台本・演出]ノゾエ征爾
[プロデューサー]渡辺ミキ、綿貫凜
[出演]草刈民代、温水洋一、入江雅人、中山祐一朗、坪倉由幸(我が家)、吉本菜穂子
、瀬戸さおり、川上友里、竹口龍茶、花戸祐介、鈴木真之介、ノゾエ征爾

稽古場プレトーク配信中!
温水洋一×入江雅人×中山祐一朗
前編 https://youtu.be/MpNJwkkKSyo
後編 https://youtu.be/2Zb6tYjrY6U
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