この日はプロローグから5場までの初めての通し稽古。舞台となるのは、抽象画家・禅定寺恭一郎(山口)の自宅アトリエだ。創作に励む恭一郎のもと、家政婦の好子(保坂)がお茶を持ってくる。そこに来訪者のチャイムの音が。息を荒げて入って来た青年・須藤冬馬(浦井)に「弟子にしてください!」と言われ、いぶかしがる恭一郎だったが......。
場が進むにつれて、微妙に変化していく3者の関係から目が離せない。「愛」をテーマにと引き受けた絵が、なかなか描けない恭一郎のために、好子は冬馬を助手にすることを提案するが、彼女には何か思惑がある様子。
冬馬もまた事情を抱えている。何気ないやりとりを通して、一筋縄ではいかない3人の人生が見え隠れする。
ストレートプレイの経験も豊富な山口は、緩急自由自在なせりふ力でミステリアスな恭一郎を表現。保坂は声色ひとつでできる家政婦から複雑な女心までを伝え、浦井が演じる冬馬は攻撃的だが、どこか憎めない純粋さを感じさせる。クスッと笑わせられつつ、それぞれの真意を推理したくなる、新感覚のコメディー。その結末はぜひ劇場で見届けて欲しい。
以下、稽古を終えたキャストのコメントをご紹介
浦井 「稽古場ではソーシャルディスタンスをしっかり取りつつ、ぎゅっと密度のあるお芝居が生まれています。今日は演出の山田和也さんの手綱によってガラリと芝居の色が変わって驚きました。と同時に瞬時にそれができる先輩方のすごさをあらためて実感しました」
保坂 「お芝居がこんなに変わるのだなって。現代劇でリアルな話だからこそ、すごく繊細なお芝居なのだなと思いました。初日までもっと深めていけるように頑張ります」
山口「初めて本読みをした段階で、もう立ち稽古ができるのでは、と思うくらいでした。3人ともがそれくらい準備して臨んで、今の時点でここまでできているものを、さらに練り込んで魅力的な作品になればいいなと願っています」