新国立劇場オペラパレスにて、子どものためのバレエ劇場2020「竜宮~亀の姫と季(とき)の庭~」が開幕した。
オペラパレスでの公演は、2月26日のバレエ公演(『マノン』)以来5カ月ぶりの再開。
初日を前に公開されたゲネプロの模様をレポートする。
久しぶりに多くの観客を迎え入れる劇場は、マスク着用の要請はもとより、サーモグラフィによる検温、
アルコール消毒液による手指の消毒、客席には1席おきに空席が設けられ、トイレの前には順番待ちの人が密にならないよう立ち位置の目印が記され──と、
観劇時の安心につながるさまざまな配慮が施されている。
そんな中で上演される「竜宮」は、コンテンポラリー・ダンスのダンサー、振付家として知られる森山開次が手がける、
子どもも楽しめる新作バレエ。「森山開次がバレエを?」という話題性もあって、広く注目される舞台だ。
モチーフは「浦島太郎」だけれど、皆の知っている昔話とひと味違うバレエであることは、冒頭から登場する「時の案内人」(貝川鐵夫)の存在で強く印象付けられる。
バレエ化にあたって森山が注目したのは、「御伽草子」(室町時代から江戸時代初期にかけて成立した物語草子)に語られる浦島太郎の物語。
それは、私たちが子どもの頃から知っている昔話とはちょっと違って、
助けた亀が実はプリンセスで、玉手箱を開けた浦島はその後鶴に変化、亀の姫とともに夫婦明神として島の守神に。
また、竜宮城にあるという四季折々の風景を見せる不思議な庭の存在も、森山の心を捉えた。
森山は、浦島太郎「時の物語」と捉え、これをもとにオリジナルのストーリーでバレエを創り上げた。
この物語へと私たちをいざなうのが、顔は白塗り、紋付袴をアレンジした衣裳で現れる時の案内人。
あらゆる場面のそこここで活躍する、狂言回し的存在だ。
主人公、浦島太郎(井澤駿)は心優しい朗らかな青年。彼が亀を助け、翌日海の中からプリンセス亀の姫(米沢唯)が現れて竜宮城へ招く──。
そこはまるで昔話の絵本が立体化したような美しい空間で、亀の甲羅の柄のチュチュをまとったプリンセスの上品な愛らしさ、
群舞のダンサーたちによるダイナミックな波の踊り、映像を巧みに用いた潜水シーンと、退屈する間はない。
振付家・森山開次のバレエへのリスペクト、憧れはいたるところに見え隠れするけれど、
その一つが、第1幕後半の竜宮城のシーン。そこに登場するのは、全幕バレエで活躍する各国の踊り手たちのような、個性たっぷりのキャラクターたち。
たとえば、イカす3兄弟はキレのいいタンゴ、サメ用心棒たちはラテン系のエネルギッシュなダンス!
さらに、亀の姫はバレリーナの美しさを存分に表現し、バレエってこんなに素敵なんだと思わせる説得力だ。
第2幕も、日本の四季折々の美しさが表現される「季(とき)の部屋」やクライマックスの太郎の変身シーン、
主役二人のデュエットなど、バレエらしい見どころが満載で、大人も思わず感動だ。
何よりも、子どもも大人もすんなりと寄り添える物語の強さと、バレエだからこそ味わえる楽しさ、美しさが大きな魅力。
これから多くの子どもたちが、劇場に足を運び、何の不安もなくこのバレエを楽しめるようになればと思うと同時に、
緊急事態宣言下の活動休止状態を挟んでの創作に、ダンサーとすべてのスタッフに拍手を。
公演は7月31日(金)まで、新国立劇場オペラパレスにて。
(取材・文 加藤智子)