2020年初頭から全世界を巻き込み、私たちの日常を一変させた新型コロナウィルス。
この影響で、エンタテインメント界も多大なる大打撃を受けてしまっています。
演劇では、2月26日に政府が出した「大型イベントの自粛要請」以降、3月末に発令された「緊急事態宣言」を経て3~4ヵ月、ほとんどの公演が中止に。劇場は休眠してしまっています。
この業界に関わる者は個人、団体、企業、すべての人間が経済などの面で、大小の差はあれどダメージを受けています。
そんな演劇界を支援しようと、いま、様々な動きが多数立ち上がっています。
そのうちのひとつ、<舞台芸術を未来に繋ぐ基金>、通称<みらい基金>は、活動停止を余儀なくされた舞台芸術に携わる出演者・クリエーター・スタッフに対して今後の活動に必要な資金を助成する公益基金。
スタート時はクラウドファンディングでの支援を募りますが、その後も長期的に活動を続けていく基金であることが公言されています。
200人(団体)を超える俳優、スタッフ、関係者が<賛同人>として名を連ねるこの基金では、その多彩な賛同人たちが無償ボランティアで出演するオリジナル配信プログラム、MiraiCHANNEL(YouTubeにて配信)が活発なのも特徴。
その内容もまた、演劇の基本的知識(ex:制作とは?舞台監督とは?)からオンラインレッスン、演劇と社会のかかわりの上で必要なもの(ex:法律)とバラエティに富んでいます。
みらい基金発起人のひとりであるconSeptの宋元燮さんによると、<MiraiCHANNEL>自体は教育バラエティチャンネルで、「楽しみながら学んでもらう」ということを目的としているそう。楽しく学んで<みらい基金>へ繋がれば、ということですね。
このコロナ禍で演劇界でも様々な配信、新しいチャンネルが誕生していますが、「ただ楽しむだけではない」というところがあまり他ではみられない特徴です。
このMiraiCHANNELの6月特番に、俳優の井上芳雄さんが登場。
内容は、以前より井上さんが提言していた「日本にも、トニー賞のような賞があればいいのに!」ということをテーマにゲストと話し合うもの。
6月27日(土)13時に初回配信、その後もアーカイブで見ることができます。
今回げきぴあはこの収録の様子を取材。
ひと足先にその内容を、チラリとご紹介いたします!
まず井上さんが<みらい基金>の賛同人として手を挙げたことについて。
ご自身も『桜の園』『エリザベート』と、2本の公演が中止になり、ほかにもコンサートが延期になるなど大きな影響がある中「自分もいろいろ考えた」と井上さん。
「特に若い出演者やスタッフの皆さん、もちろん自分たちも含め、困った人も多くいただろう」と語り、その中で何かできないかと思っていたことと、この基金の活動が一致したので賛同した、と話します。
一方でこの事態を受けて、打撃を受けた演劇界が世の中に対し声を上げたことに対し「世間の声がシビアだった」とも話します。
「自分たちが日ごろから社会との関りをもっと持っていれば、もう少しなんとかなったのでは」と分析。
トニー賞のような、大きく話題になる演劇賞があれば「今年の賞は誰がとったの?」と話題になる、世の中の認知度もあがる。世の中と演劇界が繋がっていけるのでは。
......そんな思いも井上さんは冒頭で語りました。
さて、そんな思いも抱いての提言であった「日本版トニー賞への道」、ゲストに登場するのはこのお三方。
金山 麻衣子氏(株式会社WOWOWプロデューサー)
萩尾 瞳氏(映画・演劇評論家・賛同人)
今井 朋彦氏(俳優・演出家・賛同人)
トニー賞特番を毎年放送しているWOWOWプロデューサー金山さん、日本のみならずブロードウェイなど海外の演劇に詳しい評論家・萩尾さん、そして日本の数々の演劇賞を獲っている俳優・今井さん。
この演劇のプロたちが、トニー賞の歴史や、すでにある日本の演劇賞の仕組み、あるいは課題点などを語りました。
番組ではかなり多岐にわたったトークが展開しましたが、私が「なるほど」と思った話をひとつだけご紹介しましょう。
それは萩尾さんがトニー賞、そしてその仕組みを模して作ったという読売演劇大賞の利点であり危険な部分でもあると語った点です。
(読売演劇大賞では)選考委員がノミネートし、その作品を投票委員が票を投じ、最終的には賞が決まります。
投票委員はスタッフやプロデューサー、ジャーナリストなど様々な人がいて、この2段階での採択は(色々な意見が反映できるという面で)「よくできているシステム」と萩尾さん。
ただ「観ている人が多い作品が強い、108人中30人しか観ていない作品は弱い」という「ポピュリズムに偏る危険性」も孕んでいる、とのこと。
実際に、選考委員会で圧倒的に1位になったものが大賞を獲るとは限らない、とも話されていました。
......ほかにも、「日本の演劇賞はエンタテインメント系が弱い」「コメディ作品はなかなか賞につながらない」といった課題や、「ファンが選ぶ賞があってもいい」「ゆうばり映画祭のように、地元密着型で地元を巻き込む賞もアリなのでは」などなど、興味深いお話がたくさん登場しています。
また事前に募った「勝手に演劇賞」の結果(たくさんの票が投じられて集計が大変だったらしいです......そしてなんと、その集計、今井さんも手伝ったとか......)も発表されますので、ぜひ配信をご覧ください!
そして収録後に井上さんにインタビューも敢行してきました!
◆ 井上芳雄 INTERVIEW ◆
―― オンライン番組収録であり、オンライン討論会のようになっていました。今日の体験はいかがでしたか?
「少しずつ歌う仕事は再開していますが、まだ劇場があいておらずお芝居する機会が少ない中、最近は "話をする" "話を聞く" という体験が多かったのですが、今日も新しい話を聞くことができました。3人のゲストの方が加わってくださったことで、ひとりで考えているだけでは出てこないアイディアがたくさん聞けて面白かったです。リモートで話をするって、発言が被ってしまったら聞こえないとかの難しい点は色々ありますが、こういうメンバーでこういう話ができるというのは、今だからであり、このチャンネルだからこそ。とてもいい機会になりました」
――もともと井上さんは「日本版トニー賞作りたい」という夢を折にふれ話していらっしゃいましたが、この<みらい基金>のチャンネルでこのテーマのトークをしたいというのは井上さん発案なんでしょうか。
「僕は<みらい基金>に賛同し、賛同人として手を挙げているのですが、名前を出しているだけで実際には何の働きもしていないというのも居心地が悪いし、何かできれば、と当初から発起人の宋さんにはお話していたんです。それで「何かありますか」と言われたときに、日本版トニー賞の第一歩となるようなことができれば、と思いました。もちろん、賞を作るためにみらい基金に賛同をしたわけではないですよ(笑)。でも今回試験的にやった「勝手に演劇賞」の投票数もそうですし、SNSの反応を見ても、思った以上に皆さんが興味を持ってくださっているんだなとわかったのは、嬉しい驚きでした。あとは実際以上に僕が本気なんじゃないかなって思われるのが心配......いえ、もちろん本気なんですが。あくまでも僕は俳優で、俳優業がメインですので。賞の設立に命をかけているんじゃないかと思われていない!? って(笑)。......そう心配してしまうほどの反響だったんです」
――(笑)。番組では、様々なアイディアも飛び出しました。ほかの方からの視点で生まれた新たな気づきがあれば教えてください。
「たくさんあったのですが......実はもうすべて要素(下地)はあるんだな、と思ったことでしょうか。今回の「勝手に演劇賞」もそうですし、WOWOWさんがやっているほとんど同じ名前の「勝手に演劇大賞」もそうですし。読売演劇大賞がトニー賞の仕組みを模しているという点もですし。皆さんのお話を聞いていて、もしかしたら新たなものを生み出すというより、"繋げる"ということなのかな、と思いました。今まで「トニー賞のようにしなければ」「授賞式はテレビ放映しなければ」と思っていたところもあったのですが、フレキシブルな価値観になったというか。すでに色々な要素が存在していて、それをうまく繋げればもう来年くらいからすぐできるんじゃない!? という、希望を感じました。まぁ、希望的観測ではありますけれど(笑)」
――具体的なアイディアや課題も出て、実現するために本当に実のある第一歩という内容のトークでしたね。
「そうですね。演劇界自体が世の中的にメジャーなのかマイナーなのかわからないのですが、僕が日本版トニー賞をやりたいと言っているのは、どちらかといえば「メジャーにしたい」から。でも今日お話ししていく中で、実は「マイナーと呼ばれるものに対する評価をちゃんとしたいから、メジャーとも繋がりたい」ということなんだと感じました。一方でマイナーだからカッコいいというものでも、決してない。相反するところもあると思うのですが、本当に設立ということになったらその理念も考えたいですし、うまく繋げることができたらいいなと思いました。でも演劇やミュージカル自体に魅力があるので。やり方によっては絶対可能だと思っています」
取材・文:平野祥恵
舞台芸術を未来に繋ぐ基金とは?
この公益基金では、寄付による原資を使い、新型コロナウイルス感染症の拡大防止によって活動停止を余儀なくされた舞台芸術に携わる出演者・クリエーター・スタッフ(個人、団体問わず)に対して今後の活動に必要な資金を助成します。
★クラウドファンディングでの支援は→コチラ
【番組詳細】
●番組名
MiraiCHANNEL 6月特番 井上芳雄の「日本版トニー賞への道」
●放送予定日:6月27日(土)13時
※初回放送後はMiraiCHANNELにてアーカイブ配信
https://www.youtube.com/c/butainomirai