「すべてのカテゴリーに属し、属さない曖昧な眩さ」を掲げ、1996年に結成されたダンスカンパニーDAZZLE(ダズル)。ストリートダンスとコンテンポラリーダンスを融合した独自のダンススタイルを武器に、これまで数々のダンスコンクールで優勝の栄冠を獲得。さらに、ファジル国際演劇祭での審査員特別賞・舞台美術賞の二冠獲得を始め、世界の演劇祭でも受賞暦を重ねている。そんな輝かしい功績を持つDAZZLEのカンパニー結成に至った経緯から、新作公演「NORA」のみどころまで、主宰の長谷川達也さんと飯塚浩一郎さんにお話を伺った。
─DAZZLEとはどのようなカンパニーなのでしょうか?
長谷川 今年で結成から24年目を迎えるダンスカンパニーです。元々はストリートダンスの世界で名をあげたいと思い結成したのですが、当時はストリートシーンで抜きんでた存在になるのは容易ではありませんでした。そこで、色々考えた末に独自性が重要なのではないかと思い、物語を軸にしたダンスパフォーマンスを長尺の舞台として披露するというスタイルをとるようになったんです。
─ストリートダンスを長尺の舞台で魅せるのは、かなりの挑戦だったのでは?
長谷川 そうですね。でも踊るだけではなく、音楽であるとか、ファッションや空間や照明、美術であるとか、そういった要素を組み合わせると無限に可能性は広がっていきますよね。その選択の仕方で自分たちらしさを見出していけると考えたんです。とはいえ、ストリートダンスというのは見ていて高揚感はあるものの、長尺で魅せるには難しいことは早い段階で気づきまして、コンテンポラリーダンスの芸術性を組み合わせることでそれが叶うと辿り着きました。
飯塚 僕はDAZZLEが初めて長尺の舞台公演をやるというタイミングでカンパニーに加わったのですが、一番の魅力だと感じたのはダンスに関する考え方の違いでした。ストリートダンスはダンスそのものが目的ですが、DAZZLEは踊ることによって何を伝えるかが重要なんです。その一つとして、物語のキャラクターになり、ダンスを感情表現として取り入れるというスタイルをとっているのですが、これが面白いなと。これならばダンスが好きな人だけではなく、ダンスを知らない人にも見てもらえますよね。
長谷川 そうなんです。結成当初からダンサーとしてだけではなく、アーティストとしても活動していきたいと思っていましたので、これまで通りダンスが好きな人だけに向けて踊るだけではダメだと思ったんですよ。より多くの人に共感してもらうために、ダンスを知らない人にもダンスの魅力を伝えたいという想いが強くなって、違う方向にも視野が広がっていった結果が独自性にもつながりました。
─結成から24年が経つと、お客様にも変化があったのでは?
長谷川 そうですね。最初はダンサーに向けて踊っていましたので、お客様もダンサーがメインでした。それが今ではダンスは知らないけれど舞台は好きという方が興味を示してくださって、今ではダンスを知らない人の方が多くなりました。
飯塚 確かに、以前はダンスが上手い人の踊りが観たいという人が多かったのですが、今は自分も舞台に出たい、もしくは自分も舞台を作りたいと考えている方も多いと感じています。
─これまでにはないジャンルですから、多くの人が興味を持たれるのもわかります!
長谷川 はい。より多くの人の心が動く表現を目指して活動していますので、その思いが伝わっているのなら嬉しく思います。
─さて、3月に行われる新作「NORA」ですが、どのような舞台なのでしょうか?
長谷川 未来の東京をイメージしたお話です。規律が厳しくなった社会構造の中で人々が抑圧されながら生きている現実世界と、それとは対極する非現実的なオンラインゲームの世界があって、その2つの世界が主軸になっています。このゲームというのが配信停止のいわくつきのゲームで、そのゲームは誰が何の目的で作ったのかという謎に迫る物語です。
─オンラインゲームをテーマにした理由は?
長谷川 僕自身がゲームが大好きということもありますが、抑圧された世の中でオンラインゲームってそれを解放できる場所なんですよ。それが面白かったり、恐ろしかったりというのを僕自身が感じていて。例えばゲームの世界なら人を殺しても、銃を打ちまくってもいいですよね。そういう本能を解放する場所というところに魅力を感じてテーマとして取り入れました。
─今回はマルチストーリーということですが、舞台で実現するというのは珍しい試みですよね?
長谷川 そうですね。僕も見たことはありません(笑)。ゲームの場合はキャラクターを人が操るわけですが、舞台の場合は人が人をコントロールします。この面白さだったり、恐ろしさを体感する中で、何か感じるものがあったら面白いかなって思って挑戦してみようと思い立ったんです。
飯塚 3年前からイマーシブシアター(体験型公演)という、建物のいたるところで演者が動き、観客もそれについてまわるという、観客と演者が一体になる作品を作ってきたのですが、舞台上でもそれに近い感覚のものが作れるとまた、舞台作品というものが新たなステージに行けるのではないかと思ったんです。一番は、観客を傍観者ではなくしたい、と思って。自分はこっちだと思うんだけど、違う選択をする人もいて、その度に自分が否定されたり肯定されたりっていう多数決の中で、観客の皆さんもきっと傷ついたりとか「あ、自分は多数派だったんだ」という思いが起こる舞台はなかなかないと思うので、今回の作品で新しい体験をしてもらえると思います。
長谷川 前作(20周年記念公演「鱗人輪舞」)では選択は結末だけでしたが、その選択肢を増やしたのが今回の作品です。従来の舞台では主人公の選択に対して観客が干渉することはできなかったのですが、今回は観客が選んだ道に主人公が進んで行く、しかもリアルタイムに物語が変化していくというのが面白いのではないかと。ゲームなので、誤った選択をするとゲームオーバー...とまでは行きませんが、あらぬ方向に進んでいくという仕掛けがあります。
─では、エンディングもグッドエンドとバッドエンドが存在しているんですか?
長谷川 はい。いくつかの分岐点がありますので、観客の皆様の選択次第で主人公の運命が変わってしまいます。
─ますます面白そうですね!
長谷川 その分、もしかしたら選ばれないシーンもあるかもしれませんが、なんども足を運んでいただき、全てのシーンをご覧いただけると、作り手としてはそうあってほしいという思いはあります。
飯塚 でも練習は地獄です(笑)。
長谷川 練習量は倍どころではないですからね。でも挑戦には痛みが伴うものですし、それを乗り越えることで新しい表現が見つかるかもしれないし、舞台の世界の可能性が発見できると考えているんです。もし世界で初めてだったら凄いことだし価値があることですから!
─そもそも舞台鑑賞は映像作品にはない没入感が楽しめるものですが、またそれとも異質な興奮がありそうですね。観客も翻弄されるというのも是非体験してみたいです。
長谷川 ぜひ。刺激を得るというのは感覚を豊かにしていく行為ですから。例えば、動物図鑑を見るのか、実際に動物を見るのかくらいの違いがあると思うんです。動物図鑑は視覚的な情報しかないですが、実際の動物園に行くと匂いや音や温度とか色々な情報が入ってきますよね。人生を振り返って、どちらが印象に残っているかといえば、実際に動物園にいった記憶だと思うんです。それは刺激の量が多いから。
飯塚 2つは似ているけれど、全く違うものだと思います!
長谷川 今は在宅のまま楽しめるコンテンツが充実していますから、ますます舞台を観に行くハードルは上がっているとは思うんですが。そんな時に、舞台へ行く重要性、面白さというのは、人間が生で踊っていたり演じていることのエネルギーを感じたり、そういったものを刺激として得られるというのは感覚がより豊かになると思うんです。そういう意味でも価値があることだと思うので、だからこそ観に来てほしいなと思います。
─これまでの舞台でも様々な分野のゲストが出演されていますが新体操グループのBLUE TOKYOがご出演されるとのこと。コラボに至った経緯は?
長谷川 実はBLUE TOKYOの結成当社から作品の振り付けを僕が担当しているんです。以前、青森で開催された「BLUE」という新体操の舞台の演出を担当させていただいたのですが、そこで物語と新体操を掛け合わせるというおそらく世界初の試みに挑戦したことがあったんです。そこで世界最高峰の身体能力を誇る彼らの迫力と美しさを目の当たりにしまして、彼らが参加することで、例えるなら平面が立体になるくらいの変化が出てもっと面白い舞台が作れると思い、出演をお願いしました。
飯塚 僕らは振りが揃っているとか、動き自体が美しいことを考えながらダンスをしてきたんですが、彼らはまた違う形の美しさを持っていて勉強になる部分と真似できない魅力もあって。だからこそ一緒にやる価値があると思っています。
─一見、新体操とダンスには交わりにくいものに感じるのですが、これまでの信頼関係で乗り越えるというか、融合しているところが大きいのでしょうか?
長谷川 最初に新体操と一緒にやると決まった時に、とにかく新体操の演技をたくさん観たんです。DAZZLEの舞台構成は緻密に人の配置を動かしていくのですが、そこに共通するものを感じて「あ! 合うんじゃないか!」と、すぐに感じました。実際にスタートしてみたら、彼らは演技に対する精度が物凄かったんです。僕たちはそこまでの精度のものはできないけれど、舞台に立つものとしての演じる想いは強いので、そこを融合させて、彼らが『演じる』ということを獲得したらもっと高いクオリティーの作品ができると思ったんです。
─想像ができないのでとにかく早く観たいという思いが高まりますね!
飯塚 ありがとうございます。昨年はDAZZLEで浅田真央さんのフィギュアスケートの振り付けもしたのですが、それもいい経験になりました。そもそもスポーツとダンスは身体能力の高さという点では共通していますし、今後は競技とエンターテインメントの融合というのが、もっともっと面白くなっていくんじゃないかなと思っています。
─最後に『NORA』の見所を教えてください。
長谷川 最高の身体能力を誇るBLUE TOKYOが参加してくれるというのは大きな見所の一つですし、マルチストーリーや、感情を揺さぶる物語性も見所になっています。観客の皆様の選択次第で物語が分岐していくという世界でも稀有な作品になると思うので、皆様にも、ぜひ体験していただきたいと思います!
飯塚 DAZZLEのダンスが他と違うのは、そこに伝えたい想いがあること。物語やキャラクターの感情を伝えることプラス、メンバー自身、自分に中にあるものを踊りとして表現することをすごく大事にしています。だからこそ、言葉の通じない海外でも想いが伝わっているのだと実感していますし、それが僕らの舞台の見所だと思っています。みなさんの心を動かすためにダンスしていますので、ダンスを知らない人、見たことがない人もぜひ観に来てください。
ダンスの躍動感、心を刺激するストーリー。この2つの要素が着火剤となって観るものを興奮の炎に包みこむDAZZLEの舞台。ダンスに興味がない人でも不思議と虜になってしまう魅惑的な世界観に、今回さらに新体操とマルチストーリーという要素も加わり、天井も底も見えないほどその魅力は無限大に広がっているように感じた。
新作「NORA」は、観客をただの傍観者にさせないアグレッシブな体験型舞台。自分さえ知らなかった自分の本能があけすけになるかもしれないスリリングな経験をぜひ多くに人に味わっていただきたい。
取材・文・撮影:浅水美保