■ミュージカル『SMOKE』2019年版 vol.8■
昨年日本初演され、その濃密な世界観と美しい音楽でたちまち話題となり、多くの熱狂的ファンを生み出したミュージカル『SMOKE』。
20世紀初頭に生きた韓国の天才詩人、李箱(イ・サン)の遺した詩と彼の人生にインスパイアされたミュージカルで、たった3人のキャストが、ミステリアスで奥深い世界を作り上げていきます。
初演から1年で早くも再演となった『SMOKE』ですが、今年は6月の池袋・東京芸術劇場バージョンを経て、いよいよ7月25日に初演の地・浅草九劇の〈ORIGINAL CAST〉バージョンが開幕しました!
浅草九劇の〈ORIGINAL CAST〉バージョンは、3つの役どころそれぞれがトリプルキャストです。
「超」...大山真志、日野真一郎、木暮真一郎
「海」...大山真志、日野真一郎、木内健人
「紅」...池田有希子、高垣彩陽、元榮菜摘
※初演で「海」を演じた大山さんと、「超」を演じた日野さんは、今回は「海」「超」の二役を演じます
濃厚な三人芝居を、その日ごとのキャストが魂を叩きつけるように熱演している九劇版『SMOKE』。
そんな皆さんの開幕後のリアルな心境や、ちょっと突っ込んだ内容をお伺いしたく、インタビューを数回にわけてお届け!
初演は「海」をシングルキャストで演じ、今回は「海」と「超」の二役に挑戦中の大山真志さんをホストに、出演者の皆さんの現在の心境、作品に対する思いなどをお伺いする通称「真志の部屋」、第2弾は日野真一郎さんとの対談です。
2019年バージョンでは「海」と「超」の二役に挑戦しているふたりの、ディープな対談をどうぞ!
▽ 大山真志(超)、日野真一郎(海)
▽ 日野真一郎(超)、大山真志(海)
◆ about『SMOKE』 ◆
李箱(イ・サン)の作品「烏瞰図 詩第15号」にインスパイアされ、その詩のみならず彼の人生やその他の作品群の要素も盛り込み作られたミュージカル。
イ・サンは、才気ほとばしる作風が讃えられる一方で、その独自性と難解さゆえに酷評もされた、両極端の天才詩人。結核をわずらった後、日本に流れつき、そのまま異国の地・東京で27歳の若さで亡くなります。
このミュージカルでは、彼の精神世界を謎めいた筆致で描き、誰も想像できなかった物語が繰り広げられます。
登場人物は、
詩を書く男「超(チョ)」、
海を描く者「海(ヘ)」、
心を覗く者「紅(ホン)」
の3名のみ。 俳優の実力も問われる、スリリングな作品です。
★インタビュー中、一部ストーリーの展開に触れています。ご注意ください。
◆ 大山真志&日野真一郎 INTERVIEW ◆
●「超」と「海」、どっちが大変?
―― 初演は大山さんが「海」、日野さんが「超」を演じ、この再演ではふたりとも「海」と「超」の二役に挑戦しています。おふたりの対談は初演の時にもやっていて、その時も「大変な作品」とお話していたかと思いますが、大変さが2倍になったのでは。
大山「ひとつ言っていい?......「思い知ったか」って思ってるよ(笑)。キツイよね!? 「海」やったあとって、プール上がったあとの感覚に似ているよね、小学校とか中学校の」
日野「本当にそう思う...」
※このインタビューは日野さんが「海」、大山さんが「超」をやった公演のあとに実施しました
――「海」の方が大変ですか?
大山「百倍くらい大変!」
日野「俺は...体力的には「海」の方が大変だけど、精神的にキツイのは「超」だな。「超」をやるとちょっと病んじゃうもん...。苦しみや苦痛を全部背負っているから。俺の「超」の作り方が特にそうなんだと思う」
大山「まじかー。ちょっと意外」
日野「もちろん「海」は出ずっぱりで、そういう意味では大変なんだけどね。「超」は、ひきずる。家に帰っても「はぁ...」ってなっちゃう」
大山「俺の場合は、俺の「海」の作り方かもしれないけれど、結局「超」も全部「海」なわけで。だから、「全部自分のせいだ」って背負い込むのが「海」だと思っていたから。やっているときの精神面では、そこが一番くるかな。あと「超」は「紅」に甘えられるところは甘えられるってのもある」
―― 日野さんは二役やるのは初めてですか?
日野「初めてです」
―― 楽しいですか?大変ですか?
日野「いや、今は楽しいです。でも稽古中は僕、本当に毎日 "プール上がり" でしたね(笑)。もちろん、一度「超」をやっていたので、初めて作品に挑むよりは免疫はついていたと思うんですが。でも最初に「海」をやっていたほうが、理解するのは早かったのかな。どうなんだろう(笑)」
大山「どうだろうね。ただ俺は、いま「超」をやっていて、「海」の時に思い描いていた、こうであってほしい「超」像を演じている感じなの。そういうところない? 自分の思い描いていた「海」像を投影してやっている、みたいな」
日野「あー、なるほどね。どうかなあ...。でも自分が二役やることで、「こういえば刺さるな」「こう言えば超はなびくな」というのがわかる。二役やる良さはそういうところにあるなと思います。前回「超」だけをやってた時は、あくまでも「超」としてしか反応していなかったから。逆に言えば、あの時のこの言い方ではたぶん「海」には伝わってなかったな、とか、けっこうある。今回はそこをなくしてやれていると思う。でも相手によっても、日によっても違うから、毎日同じ言い方をしてももちろんダメだし。ただ、根本的なものがわかれば、それをベースに「今日はこっちの方向でいってみよう」とか、そういうセッションが出来ますよね。だからいま、二役やれてすごく楽しいです」
―― 大山さんは逆に、前回はシングルキャストで「海」をやっていらした。俺だけの「海」だったのに...みたいなところはないでしょうか(笑)。
日野「いやあるよ、絶対あるでしょ(笑)!」
大山「あーーー...、でも今回「海」役が3人になりましたが、それこそひとりでやっていた時は、作品自体を俯瞰的に見れなかったんですよね。そういう意味でも作品への向き合い方が変わったし、今回、ひとのやる「海」を見て、やっぱり自分にないものや表現方法を学べてよかった。...悔しいと言えば悔しいですけどね(笑)! でも、今回の37公演、シングルでやれって言われたら「無理です!」って言うと思う(笑)」
―― でも前回、全36公演をひとりでやっているじゃないですか。
大山「いや、これは正直、いまだから言える話ですけど、15公演目くらいで「死のう」って思いました(笑)」
日野「ははは! 頑張ったよね~」
大山「本当にもう辛くて。体力的はぜんぜん大丈夫だし、俺、たぶん風邪ひいても、明日死ぬような病気だったとしても『SMOKE』は絶対やるって言ってると思うんですけど。でものど的に辛かった...。前回は正直、自分ののどが持つか、持たないかってところで戦っちゃっていた部分がある。これだけたくさんの人に来ていただいて、しかもすごく作品を愛してくださるお客さまが多く、この劇場で同じ時間を共有したいと思ってくださっている方たちに対して、その状況が申し訳なくて。今回は1日1公演全力投球でお客さまと向き合ってやれている、見ている方の心に響くか、響かないかってところで勝負できている。役者として幸せなことだと思いながらやっています」
日野「いやー本当、よくやったよね、ひとりで。えらかったよねー。だってこの前、「本番を初めて観る」って言ってて! 今までいっぱい機会あったじゃんって言ったら「シングルだったから、観れなかったんだよ...」って」
大山「そうなんです。初めて客席から『SMOKE』を観て、楽しい~!って思いながら(笑)」
―― どうでしたか? 初めて観た『SMOKE』の感想は。
大山「あの...人がのたうちまわってる姿って楽しいなって思いました(笑)」
日野「わははは!」
大山「でもその姿に心打たれるんだよ。伝えたいことがあるじゃない、やっぱり。大劇場の良さもあるけれど、この(浅草九劇の)距離だから伝えられるものがある。本気でもがき苦しんでいる人間の姿を伝えられるって、なかなか贅沢な空間だなって思いました」
日野「みんな全力でやってるから、伝わるものがあるんだよね」
大山「あとは、お客さんがどこで何を感じ取っているのか、というのは、やっぱり演じている側では把握しきれていない部分もあって。それを肌で感じて、感動しました。嬉しかった」
―― 前回やっていた大山「海」、あるいは日野「超」に影響されちゃったり、引っ張られちゃったりする部分はないですか?
大山「芝居はあまりないけど...歌が(笑)!」
日野「そうだね(笑)」
大山「前回やってた譜割と今回の譜割が実はちょっと違っていて、これは前回のインタビューでもお話したのですが、前回歌っていた「海」のメロディは実は「超」のメロディだったりするので。それをオリジナルのパターンに戻した今回、もう、ぐちゃぐちゃになっちゃって...」
日野「自分のパートがわからなくなったり、同じ歌でも(役によって)歌詞が違うので、混乱する(笑)」
大山「相手のセリフ言っちゃったり。そこは大変でした(笑)」
▽ 大山真志(超)、日野真一郎(海)