作・飯島早苗、演出・鈴木裕美によって、'93年に「自転車キンクリート」で初演された『絢爛とか爛漫とか』。これまで、さまざまな演出家、キャストによって上演されてきた名作ですが、この夏、21年ぶりに鈴木裕美演出で上演されます!
昭和初期を舞台に、4人の若き文士たちの姿を描く本作の出演者は、安西慎太郎、鈴木勝大、川原一馬、加治将樹。
どんな作品になるのか、鈴木裕美さんと4人の出演者にお話をうかがいました!
<あらすじ>
処女作以降、2作目が書けず悩む新人小説家・古賀(安西慎太郎)の部屋に集う批評家志望のモダンボーイ・泉(鈴木勝大)、自称耽美小説家の加藤(川原一馬)、非凡な才能を持ち、破天荒で自由に生きる諸岡(加治将樹)。
移り変わる季節のようにゆれうごく夢と才能、理想と現実の葛藤の中で、友情や恋にもがきながら、それぞれの道を探していく。
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――今回『絢爛とか爛漫とか』を演出すること、出演することへのご感想をお聞かせください。
鈴木裕美(以下、裕美) 『絢爛とか爛漫とか』の初演は26年前なのですが、それは安西くんが生まれた年で、他の3人も赤ん坊だった頃です。そんな、人ひとりが大人になる時間のあいだに私は演出家としてどのくらい大人になれたのか、進歩できたかなって。今回、自分自身が試されてしまうと思います。この作品が好きなので、緊張するところもありますが、せっかく新しい方たちとやれますし、新しい本の読み方もできるんじゃないかと思っています。飯島はもしかしたらそうは書いていなかったかもしれないけど、今の方々が読むとそう読めるんじゃないかっていうような発見もあったらいいなと思っていますし、とても楽しみにしています。
安西 26年前に初演されたこの作品に出られることを、すごく嬉しく思います。個人的には裕美さんとやりたいという思いがずっとありまして、今作でそれが叶う。それに素敵なキャストさんが揃って、とてもワクワクしています。いろいろな思いを込めて「おもしろい作品」だと思うので、カンパニーでセッションして、楽しく、おもしろがりながら、つくっていけたらなと思っています。
鈴木勝大(以下、勝大) 昭和の初期のお話で、時代も職業も今の僕とは違うのですが、読んでいると、友達の会話を聞いているような気持ちになるというか。このうだうだしている様や、目標とか夢があるのになかなか手を伸ばせなかったり、言い訳をしていたり、そういう姿がすごく身近に感じているので。早く稽古で皆さんが役を演じている姿に会いたいなと思っています。
川原 僕は去年、『宝塚BOYS』で裕美さんの演出を受けたのですが、そのときに「俺ってこういう役もできるんだな」ということを初めて感じて。それで今回、本を読んだときに、もしかすると裕美さんが「この役、一馬にいいんじゃないか」と思ってくださった部分もあるのかなと感じました。......4人で自主練して、がんばっていきたいと思います!
加治 自主練メインなの?(笑) 本を読んで、昭和初期といえども現代にも通ずる男像の代表的な4パターンがしっかりと描かれているなと思いました。僕は自由にやらせていただけそうな役どころですし、年齢も一番上になるので、裕美さんと4人のキャストで遊びながら、令和に通ずるこの作品をお届けしたいなと思います!
――裕美さんが各キャストに期待することは?
加治 こわい! なかったらどうすんのやろう。ある前提で言ってるけども!
一同 (笑)
裕美 お仕事をご一緒したことがあるのは一馬だけですが、4人ともそれぞれ違う場所でお目にかかっている人たちで。皆さんご一緒させていただきたいと思っていた人たちなので、とても楽しみです。まず一馬は、ちょっと変態の役(加藤)なので、ぶっちゃけ合うだろうなって(笑)。
川原 ありがとうございます(笑)。
勝大 変わっているんだね。
川原 多分、外面は普通だと思うんですけど、中は......
裕美 ちょっと変わっている。
一同 (笑)
裕美 加藤の変態でやさしい、みたいなところが合うんじゃないかな。あとね、安西くんと鈴木くんの配役(安西:古賀、勝大:泉)は実は逆もいいかなと思っていました。私は、泉はものすごくカッコいい役、古賀はダサい役だと思うのだけど、ふたりとも多分どっちの要素もあると思うんです。泉って非常に頭が良くて冷静で場が読めて、ときには奇怪なバイオリンを聴かせたりとか、やさしいですし。今で言う、山ちゃん(南海キャンディーズ)的な!
一同 ああ~。
裕美 そういうカッコよさがあるじゃない。逆に古賀はすごくグズるので。どっちがグズるところもおもしろそうだし、悩んだんだけど、結果こうなりました。諸岡は「生き抜く強さ」というものが欲しい役なのですが、加治さんは、以前一緒に飲んだことがあって。非常に強いし明るい。私と全然一緒に仕事してないのに、俳優が呼んだらひょこひょこやってきた。
加治 (笑)
裕美 そういう「生きる強さ」みたいなものがある方だなと思っています。
――キャストの皆さんは、裕美さんとご一緒することはどう感じていますか?
安西 僕は今回やるにあたり、改めていろんな方から裕美さんについての情報を入手したのですが、そこで言われていたのは、演劇を熟知していて、今なお挑戦し続けている方ということと、あとは怖いっていう...(笑)。
裕美 (笑)
安西 どういう怖さかわからないですが、いい厳しさがある方なのかなと思っているので、今すごく稽古が楽しみです。
鈴木 裕美さんとは以前、オーディションでご一緒させていただいたのですが、そのときの裕美さんの言葉、それは僕だけでなく他の方にかけたものも含め、今でもすごく心に残っていて。今回、そういうものを密度の高い関係のなかで体験していけるんだと思うと楽しみです。怖い部分もありますが、すごくワクワクしていますし、自分にとって大きな約2か月になるんだろうなと思っています。
川原 前回、裕美さんの演出を受けたことで、僕自身の心が浄化されたことがたくさんありまして。裕美さんって絶対的に信じられる演出家さんなんですよ。絶対に見捨てないし、裏切らない。その責任感を持ってらっしゃる方で、僕はそれはすごく重いことだなと思っています。面白い作品になるのは僕ら次第、僕次第だなと思っています!
加治 僕次第!?責任重大!
川原 (笑)。がんばります!
加治 僕は、裕美さんもお話されていた通り、裕美さんの作品に出ていた友達に「ご飯食べてるからおいでよ」と言われて行ったのが初対面なのですが、そのときの印象は「すごくよく喋るお姉さん」という。
裕美 (笑)。飲んでるときだからね!
加治 そのイメージのまま今日まできて、裕美さんの公演は観ていますが、稽古場にいる裕美さんは見たことがないですが今も怖い怖いと言われているので(笑)。でも、僕が聞いたなかでは「裕美さんと出会って変われた」という俳優が100パーセントなんです。そして「絶対裕美さんとやったほうがいい」ということをいろんな先輩から言われてきた。念願だったので、ものすごく楽しみです。怖さも楽しみながら、作品をつくれたらいいなと思っています。
――「怖い」というお話が出ていますが、実際に稽古場での裕美さんをご存知の川原さん、どうですか?
川原 僕だけ「怖い」というワードは出してないですよ!!裕美さんは単純に怖いっていうんじゃなくて、意味があることなので。ただ、追い込まれていくと、思ってもないことを口走ったり、よくわからない行動をしたり、さらにダメになるっていうことはあります(笑)。そういう泥沼化する日が、前回は稽古期間中に何回かありました。そういうことですね、怖いっていうのは。
裕美 私は過去に3回、セラミックの歯が割れてるんですよ、稽古中に。頭きて。
一同 (笑)
裕美 それで歯医者さんが「あなたはまた割るから、もうセラミックは入れてあげない。お金がもったいない」と言われて金歯になったんですけど。そのときは、そういう稽古場でした(笑)。
川原 見ているときはわかるのに、いざ自分が立つと見えなくなるんですよ。今回はそうならないように、みんなで自主稽古しようね!(笑)
一同 (笑)
――裕美さんが稽古場で大切にされているのはどんなことですか。
裕美 「ちゃんと観る」ということですね。見てたふう、聞いてたふうにしない。そして、嘘をつかない。俳優さんという種族、特に才能のある方たちはすごく勘がいいので、嘘を見抜くんです。人に会って5秒とかで自分の敵か味方かわかるような、そういう感覚のある人たちなので、嘘をつかないようにしています。だから、盛ったりもしないし、気に入らないときは気に入らないと言う。そうしないと信頼を得られない。そうやってなにか言うためにも、「ちゃんと観る、ちゃんと聴く」ということはしようと思っています。
――現時点でなにかプランはありますか?
裕美 初演がTHEATER/TOPS(2009年まで新宿にあった劇場)で、あそこは155席だったのですが、今回のDDD 青山クロスシアターも180席くらいなんですよ。男たちがぐずぐず喋ってあーあっていう、小さいところがいいに決まっている芝居なので。デフォルメするよりもそのまま、覗いているみたいにお客様に思っていただけたらいいなと思っています。
――いいサイズ感ですよね。
裕美 あのサイズだと、例えば蚊取り線香の煙の臭いもお客様全員が感じられるし、火鉢の上の鉄瓶の湯気が見える。そういう距離感なので、すごく贅沢でいいんじゃないかなと思っています。あと衣装はね、楽しいですよ。この時代の服は本当にかわいいから。あんな手ぬぐいもってやがるぜ、とかも(笑)。それぞれの衣裳がとても素敵だと思います。
――では最後にメッセージをお願いします。
安西 この『絢爛とか爛漫とか』に出演することをとても嬉しく思っています。芸術とは?という話になりますが、僕は演劇とかお芝居とかって人間が生きるうえで必要な成分なのかなと思ったりしていて。それをこの作品に強く感じました。裕美さんをはじめ、スタッフの皆さん、キャストの皆さんと、お客様に必要な成分になるような作品をつくっていきたいと思いますので、ぜひ劇場にお越しください。
勝大 この作品は見どころも、なにかしら感動するポイントも......
一同 !?!?
裕美 ゆるいな!(笑)
加治 なにかしら、ね!
裕美 なにかしらある!
勝大 (笑)。おもしろいと思えるポイントが人それぞれになりそうな作品なので、好きに観ていただければなと思います!
川原 僕はすごくこの本が好きになりまして、そして裕美さんの演出に、このメンバー。この夏、この作品をやれることにワクワクしています。僕らが今、この年代でこの作品をやるということを、楽しみに来ていただけたらなと思います。僕次第だと思います!よろしくお願いします!
加治 最後まで責任重大だな!(笑)僕も今、何を話すか考えていたのですが「なにかしら」がものすごいいい言葉だなって。
一同 (笑)
加治 なにかしら楽しめると思います!(笑)
裕美 この4人は「役者だな」と思う人たちなので、本気でガッツリ芝居したいです。ガチでやろうと思っていますし、それをやってくださると思う。そこを圧倒的に見せられるものにしたいですね。
『絢爛とか爛漫とか』は、8月20日(火)から9月13日(金)まで東京・DDD 青山クロスシアターにて上演。