注目の若手俳優、木内健人さん&百名ヒロキさんが主演するACT×DANCE『ダブルフラット』の稽古場を取材してきました。
創世記第四章、いわゆる「カインとアベル」の物語をベースに、兄弟の愛憎を繊細な筆致で、そして多彩なダンスと素敵な音楽で描いた作品。
2017年の初演も話題でしたが、キャストを一新し、待望の再演が今月末に開幕します。
タイトルに「ACT×DANCE」とあるように、身体表現もふんだんに使う作品ですので、主演のふたりをはじめ、5人のキャストは踊りまくり!
少数精鋭のキャストが集中してまっすぐに作品と対峙している、気持ちのよい稽古場でした。
ちなみにダンス公演というわけではなく、オリジナル曲・カバー曲あわせ歌もたくさんありますので、ミュージカルファンにもぜひ注目して欲しい作品です!
舞台には、白い積み木のような箱がいくつか。
これをキャストが動かし、形を変えることで、シーンが変化していきます。
兄・カイ=木内健人さん。
好奇心旺盛で、目に映るものすべてが不思議でならないピュアな気持ちを持っています。
兄は弟に「なぜなぞ」という問題を出すのが日課のようです。
演じるのは、近年めきめきとミュージカル界でも注目度急上昇中の木内さん。
『グランドホテル』『パジャマゲーム』『タイタニック』とトム・サザーランド作品常連、ほかにも『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』『グレート・ギャツビー』などの話題作に次々と出演。実力の証!
しかし、こんなに踊る木内さんを見られるのも、珍しいと思います!
弟・ベル=百名ヒロキさん。
ひたすらピュアで、まるで天使のようなベル。そしてカイのことが大好きなベル。
百名さんも『マタ・ハリ』、『タイタニック』をはじめ、ミュージカル、ストレートプレイと話題作で鮮烈な印象を残す注目株。
イノセントなベルは百名さんにピッタリです。
兄弟は仲良し。
今年は『宝塚BOYS』『タイタニック』と共演が続いた木内さんと百名さん、息もピッタリです。
ふたりのボイスパーカッションなんてものも飛び出します!
こちらはセト役、柴原直樹さん。
セトは物語の語り部。
そして創世記第四章に従うと、セトもまたアダムとイブの息子ですので、つまりカイとベルの弟(劇中ではっきりと語られてはいないようですが...)。
兄たちの記録を、すこし離れた立ち位置からセトが語っていく...という構造になっているようです。
柴原さんはほかに、兄弟の父親役なども演じていきます。
妖精スール役、宇月颯さん。
スールは、兄弟の確執の原因になってしまう存在です。
そう思って見るせいなのか、純粋だけれども、ちょっと残酷さもあるような......。
宝塚歌劇団月組の人気男役だった宇月さん、5月の退団後、これが初の舞台出演です!!
人間たちの世界とは違うところにいるスール、足取りは常に軽やか。
宇月さんのバレエも素敵です!
兄弟の母、リュンヌ=月影瞳さん。
月影さんの醸しだす優しさ、柔らかさは、兄弟だけでなくこの作品世界全体を包み込んでいるよう。
後半でリュンヌが歌うナンバーは、聖歌のような荘厳さでした。
コミカルで楽しいシーンも!
ちなみに筆者の私見ですが、「兄弟の物語」という印象が強かった初演に比べ、今回の再演では「5人の物語」という面が強くなった印象です。
5人のキャストのバランスがとても良い!
そして「ACT×DANCE」ですので......踊る、踊る!
リフトも!
赤坂RED/THEATERの密な空間で観ると、圧倒されること間違いなしの迫力で皆さん踊っています。
クラシカルなバレエから、火花が散りそうなタンゴまで。
様々なジャンルのダンスが登場します。
ちなみに使用される音楽も、聞き覚えのある楽曲がチラホラと。
タンゴシーンで使われるのはピアソラ。
構成・演出・振付の小野妃香里さんの厳しい目が光ります...。
小野さんは「それじゃ、ただ歩いているだけだよ。そこに何があるから、歩いているの?」等々、"ACT"に沿った"DANCE"を追求しているよう。
(そしてお気づきでしょうか、1回通している間に木内さんはTシャツ3枚目!)
さて、「カインとアベル」の物語。
改めて説明の必要はないかもしれませんが、"最初の人間" であるアダムとイブの息子たちであり、そして兄カインは弟アベルを殺し、人類史上の "最初の殺人" を犯す人間でもあります......。
描かれるのは兄弟の愛と、罪と、悔恨。
前半のピュアな笑顔から一転、苦しげなカイの表情に引き込まれます。
悲しげなベルの表情にも......。
演出にも想像力が刺激されます。
タイトルの「ダブルフラット」は、フラット(♭)をふたつ重ねる、音楽記号。
半音を下げる♭をふたつ重ねるのなら、一音下げればいいのでは?
......しかし「ダブルフラット」が必要である意味が、ふたり寄り添うようにいた兄弟の姿とシンクロして、浮かび上がってきます。
兄弟の切なくも美しい物語、ぜひ劇場に目撃にしに来てください!
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
12月26日(水)~30日(日) 赤坂RED/THEATER(東京)