毎日深夜0時に店を開ける、一軒の食堂。
目にワケアリそうな切り傷があるマスターが出す料理に、やってくる客が満たされるのは、空腹だけじゃない......。
ドラマ、映画も大ヒットとした安倍夜郎による漫画『深夜食堂』が、今度はミュージカルとなって日本初登場します!
オリジナルのドラマシリーズが製作されるほど『深夜食堂』人気がある韓国で生まれたミュージカルが、本家・日本に逆輸入される形です。
マスターを演じるのは筧利夫。
演出はミュージカルらしい華やかさの中に、繊細な人間心理を織り込むことに定評のある荻田浩一が手掛けます。
げきぴあでは、いよいよ今週末に開幕するそのミュージカル『深夜食堂』 の稽古場を取材してきました。
キャストは10名ですが、体感としては20人くらいいるんじゃないか、というエネルギーが稽古場には満ちていました!
稽古場に入ると、まず目に付くのが「めしや」のカウンター。
稽古場の段階で、すでにリアル!
マスターを演じるのは筧利夫さん。
メニューは豚汁定食だけですが、お客が注文する料理は、出来るものは作ってくれます。
寡黙で、でもあたたかそうなムードが "らしい!" です。
映画・ドラマでは小林薫さんが演じていましたね。
彼の作る料理とこの店の雰囲気に惹かれ、集まってくる客たちを演じる皆さんも、個性的であり、バックボーンもバラバラの俳優さんたちがそろいました!
40代の常連客・忠は藤重政孝さん。
噂好きで、ほかの客ともよく喋るし憎まれ口もポンポン叩く、こういう人っていますよね。
ストリッパーのマリリンのファンでもあって、ファンモードの顔はとっても可愛い。
そして藤重さん、ロックテイストな歌声がカッコイイです!
ゲイバーを経営しているゲイ、小寿々を演じるのは『レ・ミゼラブル』でマリウスを長年務めてきた田村良太さん。
田村さん、誇張されたいかにもなゲイバーのママ的な演技ではなく、抑え目に、しかしキッチリ物腰の柔らかさとママらしい強さを出しています!
原作では小寿々さんは40代後半という設定ですが、実際の舞台姿がどうなるのかも気になるところ。
暴力団の幹部・剣崎竜は、小林タカ鹿さん。
小林さん、ヤクザらしい凄みと、相反するコミカルな顔、ギャップも素敵です。
後半ではもうひと役、別のエピソードのキーマンにも扮しますよ。
竜さんと小寿々さんのほんのりロマンスはもちろんこのミュージカル版でもちゃんと登場。
そんな竜の舎弟・ゲンは碓井将大さん。
若手ながら様々な名だたる演出家の舞台に立っている実力派・碓井さんは、さすがの柔軟さ。
もうひと役、目立つ役どころを演じていますが、どちらもチャーミングでした。
こちらは竜さん&ゲンコンビ ↓
ここからは女性陣をご紹介。
人気ストリッパー、マリリン松嶋を演じるのはミュージカル界のディーバ、エリアンナさん。
「男が変わるたびに食べ物の趣味も変わる」という恋多き女・マリリンですが、エリアンナさんのオープンな雰囲気で、明るく力強いマリリンが生まれています。
マリリンのシーンはミュージカルらしさも満開なようで。
他のキャストを従えて、一大ショーシーンが繰り広げられそうです...!
音楽も演歌調だったり、タンゴチックだったりとバラエティ豊かでキャッチー。
作曲は、日本でもお馴染み『あなたの初恋探します(キム・ジョンウク探し)』のキム・ヘソン。
皆さんの表情も最高!
シンガーソングライター(原作では演歌歌手ですね)の千鳥みゆきを演じるのは、ガールズバンドChelsyのドラマーとして活躍していたAMIさん。
みゆきは他の常連客とはほとんど絡まないのですが、それゆえに少し不思議な、心に残る存在感。
マンガやドラマ同様、それぞれの客のワケアリエピソードがマスターの料理とともに語られていくのですが、ひとつのエピソードが散りばめられることで、単調なオムニバスになっていないのが、このミュージカルの上手いところ。
みゆきのエピソードも前半と後半に差し込まれることで、とても印象深いものになっています。
AMIさんの可憐な歌声とあいまって、私にはみゆきが天使に見えてきました...。
そしてにぎやかな3人組、"お茶漬けシスターズ"はこの3人!
鮭:谷口ゆうなさん
明太子:愛加あゆさん
そして、梅:壮一帆さん!
いつも決まったお茶漬けを頼むことから、"お茶漬けシスターズ"なんですね。
"嫁き遅れ3人娘"なんて言われていますが、恋に悩み、人生に悩み、愚痴を言って時にはケンカして、でも顔を上げて帰っていく...という彼女たちの姿は、働く社会人の共感を得そうで、とても愛おしい存在です。
また、シスターズが歌って登場し、そのまま「めしや」のシーンに繋がるところなどは、ミュージカルとして上手くできてるなあ......と思うポイント。
そう、「あの『深夜食堂』をなぜあえてのミュージカル!?」と思う方もいるかと思いますが、これ、1曲でキャラクターの心情や感情を伝えられるミュージカルという手法は、様々な登場人物が入れ替わり立ちかわりやってくる本作にはとても合っていると思いますよ!
梅と明太子の壮さん&愛加さんは、言わずと知れた、元宝塚雪組のトップコンビ。
コンビを組んだトップ同士が退団後に同じ舞台に立つ、というのもなかなかレアですが、しかも当時とはまったくかけ離れた"嫁き遅れ"の友人同士という関係性。
ズバズバ言いたいことを言いあうし、時には男を取り合っちゃう!
しかしこれが、さすがの丁々発止のやりとりで最高!
ふたりのケンカシーンも見ものです。
......でも結局は、もちろん仲直り。
料理がふたりの仲を仲裁する、それも深夜食堂らしい。
梅と明太子以外にも、愛加さんは忠ののんだくれの母親役だったり、
壮さんは元アイドル歌手だったり...と、味のあるシーンがありますので、そちらもご注目を。
登場人物たちには、それぞれ「お気に入りの食べ物」があり、それを食べて元気になったり、時にはその「好きな食べ物」を交換することで、交流をしたり、仲直りしたり。
こんな素敵なお店、あったら行きたいですよね。
心がほっこりする人情味溢れるミュージカル、まもなく「開店」します!
お見逃しなく。
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
10月26日(金)~11月11日(日) シアターサンモール(東京)