『マイ・フェア・レディ』の通し稽古を見学してきました。この日のイライザ役は朝夏まなとさん、ヒギンズ教授は寺脇康文さん。2013年にG2演出になり、訳も演出も一新、より女性の物語として響くようになった気がします。
まず、音楽の豊かさがこの作品の魅力。「じっとしていられない」「だったらいいな」「君が住む街」など、誰もがああ、知ってる!と頷ける名曲揃いです。曲が脳内をぐるぐる回って、帰り道には思わず口ずさんでしまう。日本初演55周年の今年、グランドミュージカルの定番として、長く愛されて来た理由がよくわかりますね。
朝夏さんは、宝塚退団後の初ミュージカルとなりますが、彼女のイライザはのびのびしていてまっすぐ、実にチャーミング。太陽のような朝夏さんの個性がそのまま活きています。特に1幕の冒頭、花売り娘の時は粗野でおてんば、手がつけられないくらいワイルドで思わず笑ってしまったほど。演出のG2さんが「狂犬のように」と話したそうですが、確かに野生の獣感なんですよ!同時にどこか愛らしくて魅力的、目が離せません。それに対して寺脇さんのヒギンズ教授はスマートで自信に満ち溢れた紳士。暴れん坊のイライザを自分なら教育し、手なづけられると確信している様子が見てとれます。
では2幕冒頭から、ちらりとその模様をお伝えしましょう。
↑いよいよイライザが、大使館の舞踏会デビューを果たします。控えの間にて、ピッカリング大佐(相島一之)がヒギンズ夫人(前田美波里)に、人々のイライザに対する反応を報告。イライザのファンになりつつあるヒギンズ夫人は、上手くいっていることを知り、ワクワクを隠せません。ヒギンズ教授と賭けをしている大佐でさえガッツポーズ!二人ともいいお顔。
↑「イライザ・ドゥーリドル」と名前を呼ばれ、突然現れたゴージャスな美女!扇を持つ手も決まっていますね!イライザは花売り娘の頃とはまるで別人、堂々たる立ち居振る舞いです。稽古ですら、プリンセスにしか見えません。
↑トランシルバニア女王(伊東弘美)がイライザの可愛さに惹かれて、「チャーミング!」と思わず頰に触れます。その女王を見上げるイライザの瞳の可憐なこと!
↑家政婦のピアス夫人(春風ひとみ)はイライザを心配し、興味津々に大使館の様子を聞きます。ピッカリング大佐、いい表情!
↑イライザの身元を疑い出したハンガリー人の言語学者カーパシーが、正体を暴いてやる!と息巻きますが、イライザは落ち着いたまま。見事に彼を騙し切り、みんなにプリンセスと認められます。
↑踊りつつ、思わず笑みが溢れるイライザ。キラキラして、心から楽しそう。ダンスのキレはさすが、朝夏さん。この先、イライザには輝かしい未来が待っているに違いない!
↑イライザが見事にレディを演じ切ったことで、賭けに勝ったとご満悦のヒギンズ教授。それを祝う大佐と使用人達。美しいコーラスが気持ちよく、最高です!この作品は大人数による重唱と群舞、ステージングが実に上手く、目も耳も幸せ〜になれますね。
↑ところが、浮かれるヒギンズ達に対して、自分は賭けの対象でしかなかったことを悟り、ショックを受け、呆然とするイライザ。ああ、切ないこの表情。稽古場なのに泣けてきました...。
一体、何が起こったのかわからず、訝しむ堅物ヒギンズ。(悔しいけど、寺脇さんがカッコいいです!)
↑なぜイライザが怒っているのか、全く見当がつかないヒギンズはチョコレートをすすめて、なだめてみたり(小さい子供じゃないのよ、と、観ていてイラッ!)。
↑誰のおかげだ!と脅してみたり。このヒギンズの空気の読めなさに、男ってしょーもないっ!と、イライラが徐々に怒りに...。
↑自分がいじめたのかな?疲れたのかな?誰かと結婚すればいいんじゃない?イライザに対して、まるで子供を扱うような態度のヒギンズ。この二人の温度差が半端ない。
↑「お前は猫か!八つ当たりはよせ」と、イライザは再び野生の王国状態。いやー、女心が全く読めないヒギンズめ!(『奇跡の人』ではありません)
↑こんなにイライザが怒っているのに、「何が気に入らないんだ?」と、全くわかっていないヒギンズ。これだから男って!(また言ってしまいました。プンスカ)
↑毅然とした態度で、ヒギンズにもらった指輪を返すイライザ。言葉遣いが丁寧になった分、迫力が増しています。自立したレディに見えますが、心のうちは大失恋?!この後、ヒギンズは寝室へ。イライザは家を出る決心をします...。と、この丁々発止のやり取りだけでも、ゾクゾクするわけですが!
↑登場人物のキャラがそれぞれ際立っているのも、この作品の楽しい点。平方元基さんが演じる青年フレディは、いかにもお坊ちゃんぽい。よく恋愛ドラマで、優しくてイケメンだけど、恋では二番手になってしまう...という切ない役回りがありますが、フレディはまさにそれ!
↑今井清隆さん演じるイライザの父親ドゥーリトル。人の良さそうな下町のお父さん。コメディ部分をしっかり背負い、歌やダンスでバッチリ魅せてくれます。今井さんのステップの軽やかさ、必見ですよ。
ああ、ぜひ神田沙也加さんイライザ&別所哲也さんヒギンズ教授組も観たいなぁ!きっと全然違う雰囲気を楽しめるはず。
ミュージカルの真髄を味わえる名作、ガチおすすめです!
(取材・文/三浦真紀)