■夢幻朗読劇『一月物語』特別連載 その1■
芥川賞作家・平野啓一郎の代表作を、音楽・バレエを融合したあたらしい形の朗読劇として上演する夢幻朗読劇『一月物語』 が3月に上演されます。
作品は、明治の日本・十津川村を舞台に、格調高く流麗な文体で綴られた幻想的な物語。
幽玄の世界と、その擬古典的文体があいまって、「現代の神話」とも称される名作です。
構成・演出を手がけるのは、「斬新な手法と古典的な素養の幸せな合体」(永井愛)と評された、ポップでロックで文学的な創作スタイルで、脚本・演出ともに幅広く評価を受ける 谷賢一。
出演には、朗読という表現方法にも積極的に取り組んでいる、元宝塚雪組男役トップスターの水夏希、世界的バレエダンサーの横関雄一郎ら実力派が揃い、さらにミュージカル、ストレートプレイ、コンサートと幅広く活躍するかみむら周平の音楽が、その世界を彩ります。
2月末の某日、この作品のキャスト・スタッフが一堂に会する「顔あわせ」を取材しました。
●あらすじ(オフィシャルより)
明治三十年、奈良県十津川村。
神経衰弱の気鬱を逃れ、独り山中をさまよう青年詩人・真拆は、老僧に毒蛇から救われ、山寺に逗留する。
俗世から隔絶された奇妙な時空の中で、真拆は、いつしか現実と夢界の裂け目に迷い込み、運命の女と出逢った。 それは己の命を賭けることでしか成就しない愛、だが、刹那に失われる運命の愛だった......。
古典的風格さえ漂う端麗な筆致で描かれた聖悲劇。
これまでに音楽朗読劇『ヴォイサリオン』、リーディングドラマ『サンタ・エビータ』、『パンク・シャンソン~エディット・ピアフの生涯~』など "朗読" というジャンルに果敢に挑戦している水夏希さん。
今回は日本情緒溢れるこの世界で、どんな声を聴かせてくれるのでしょう。
水さんは、この作品の要といえる地の文を担当するとともに、謎めいた女・高子を演じます。
物語をダンスという切り口で描いていくのは、横関雄一郎さん。
言葉にスポットがあたる"朗読"と、言葉を使わない身体表現がどう融合していくのか......。この舞台の肝になりそうな横関さんの存在です。
青年・真拆(まさき)は、Wキャスト。
彩吹真央さんと...
久保田秀敏さん。
同一人物を、男性と女性のキャストで演じる。
これもまた、面白い試みです。
劇中、真拆が出会う様々な人物......車掌や老婆、和尚などを演じていくのが榊原毅さん。
シアターコクーン『禁断の裸体』などに出演している榊原さん、深みのある低い声が、明治時代の山奥での物語にとてもマッチしています。
作品の重要なパーツである音楽を担当する、かみむら周平さん。
そして、構成・演出は、作家として、演出家として、幅広く活躍する谷賢一さん。
『ETERNAL CHIKAMATSU』では "大近松" と自らの文章を見事に融合させた戯曲に圧倒されました!
皆さんの「はじめまして」になったこの場で、谷さんはご挨拶を超えた熱い決意表明も。
この作品を「原作が饒舌で、言葉自体は修飾語が多用された典雅な文体ですが、その文体を通じて、むしろ言葉で捉えられなかったり、理性で捉えきれないようなものを、原作の平野先生は描こうとしているのではと思った」と話し、
「僕はストレートプレイの人間ですので、演劇をやってると音楽やダンスというジャンルに嫉妬することがある。これらは抽象的な表現が出来るし、お客さんの想像力をジャンプさせるバネになってくれる。もともとリーディングの素晴らしさもそこに近いところがあり、今回の朗読・音楽・ダンスというのは、一気に抽象性が開いていく、すごくいい組み合わせ」
と話します。
さらには「原作を読んで、大好きになって、ワクワクしてやる気にみなぎってしまって、忙しい間を縫って、(原作の舞台である)熊野古道、十津川村に行ってきました」とまで!
手には、「熊野古道に行ってきました」という(ベタな?)お土産も...(笑)。
十津川村へは東京から最速で8時間以上かかるとのことで、その道中の苦労や、さらに実際、熊野古道を歩いたエピソードも披露。
曰く「街道というイメージで行ったら、ほぼ登山」「秘境中の秘境です」。
「何の音もしない。風のそよぎすらしない。バカバカしいけど、次の角を曲がったら、おかしな人がとび出てくるんじゃないかとか、ガサっと音がしたら、熊が来て僕は死ぬんだと想像したり......。"何もない" っていうのは、こんなに想像力をかきたてるんだなという恐ろしい体験をした。そういう、想像力のかきたてられる世界に、真拆という人物もいたんだなと思いました。自分のなかの想像と問答がどんどん加速する、そういう精神世界を生きていたんだな、と」。
さらにキャスト陣には
「直感にしたがって、やってみようと思ったことは、どんどん投入してください。僕もそうします。
頭で考えて正解を探していくと何の答えも見つからない本。直感で思ったことをどんどん投入していくことでしか、こういう非理性的で、幻想的な作品は出来ないんじゃないかなと思います」
と、作品を作っていく上での姿勢を話しました。
谷さんの熱意が伝わり、これはただならぬ作品が生まれるに違いないという期待を抱かざるを得ません!
夢幻朗読劇『一月物語』の誕生をお楽しみに。
▽ 谷さんのお土産「熊野古道に行ってきました」
▽ そのお土産を手に、水さんにカメラ目線いただきました!
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
3月7日(水)~12日(月)
よみうり大手町ホール