演劇集団キャラメルボックス2017ウィンターツアー『ティアーズライン』の開幕は12月15日!
成井豊さんが手がける劇団公演新作は1年半ぶりということで、そういった点でも期待している方も多いのではないでしょうか?
間もなく初日を迎えるわけですが、今回は先日行われた"通し稽古"の様子を演劇ライターの川口がお届けします。
この『ティアーズライン』、実は現状ほとんど具体的な内容が明かされてません。はっきりしているのは、成井さんが映画『恋人はゴースト』にインスパイアされた物語、だということ。
これはいち早く、その片鱗をみなさまにお伝えして期待度を上げねば! と意気込んで稽古場に到着。あえて事前に情報を入れず、まっさらな状態で通し稽古を観始めたのですが......。
終わったあとに、まず思ったこと。それは、、、
「面白い! 面白いけど......すいません、書けないことが多すぎます!(泣き笑い)」
どこまでネタバレしてよいものか、しかし作品の面白さは伝えたい、というジレンマ! とはいえここで終わってはライター失格なので、ネタバレにならない程度に頑張ってお伝えすることにします。
その1:謎、めちゃくちゃ多いです
物語のスタートは、とある部屋。畑中智行さん演じる主人公・横手道郎が、阿部丈二さん演じる謎の男・十文字に遭遇、襲われたあげく監禁されてしまいます。道郎の仕事は調査会社の調査員、十文字の仕事は「殺人代理業」、要は殺し屋ですね。
なぜ十文字は道郎を襲う? そもそもこの部屋はどこ? 道郎はなぜこの部屋に来た? 2人が探している「鯉川」って誰?
スタートして10分も経たないうちに、観客の頭には山ほど「?」が浮かぶのでは。2人の会話と回想からその謎が明かされていくさまは、まるでハードボイルドミステリー!......と思いきやそこはキャラメルボックス、それだけでは終わりません。
十文字は命乞いをする道郎に「死にたくない理由」を話せ、と言います。そこで道郎は今抱えている「とある事情」を説明します。それは「海外で危篤状態のはずの母親・克子(大森美紀子)が目の前に現れた」というにわかには信じがたいもの。
そして同時に、友人であり同僚でもある鯉川(多田直人)がとあるトラブルに巻き込まれたことも。道郎がここに至るまでの経緯を説明するうちに、徐々に十文字との関係もわかってきて......というストーリー。
物語に秘められた謎は、けしてシンプルではありません。登場人物のほとんどがそれぞれの事情を抱え、彼らの持つ"謎"が複雑に絡み合った今回の作品。なので、書けないことが多いんです(涙)。これはぜひ、劇場で確認していただきたい! ミステリー好きの方も楽しめるのではないでしょうか?
その2:"超"ジェットコースター演劇!
というわけで、片時たりとも目が離せない今回の新作。展開の怒涛さ加減はまさに"ジェットコースター演劇"です。主人公演じる畑中さん、またも汗だくで走り回ります(あと監禁もされます)。
ただ、息詰まるような場面ばかりではなく、合間にはホッとできるような場面もたくさん。道郎の務める調査会社の社長を演じるのは西川浩幸さん。
時に厳しく、時にコミカルに道郎たちを見守ります。また、道郎の妹・理世(大滝真実)とその夫・隆志(元木諒)のバカップルぷりも良いスパイスに。
その3:「活劇」要素もたくさん
道郎は元ボクシングの学生チャンピオンという設定。いつもならその実力でさらっとトラブルを解決するのでしょうが、今回彼が巻き込まれたトラブルは一筋縄ではいかなそうで......。十文字との場面だけでなく、アクションシーンもたっぷり盛り込まれてますよ! また、役によって動きの系統が違うのがまた面白いところ。アクションからそれぞれの役のバックボーンを推理する、なんていうマニアックな楽しみ方も。
その4:成井作品ならではの、俳優たちの輝きに注目!
近年は原作ものの舞台化が多くなったキャラメルボックスですが、書き下ろし作品の醍醐味は何と言っても「あて書き」ができること。なので、どの俳優にもこの『ティアーズライン』という作品ならではの魅力が詰まっています。また、多田直人さん、阿部丈二さんといった近年劇団の主軸を担ってきた実力派俳優陣が主人公にどう絡んでいくかも見もの。
多田さん演じる鯉川のトラブルが物語の発端になるわけですが、インパクト大の登場シーンは要注目ですよ! 飄々としてトラブルメーカーっぽい彼ですが、実は......という後半とのギャップも。
ギャップといえば、阿部さん演じる十文字もかなりのものです。脳内に浮かんでいたのは前半「うわこの人面倒くさい、というか演じるの大変そう...」→終盤「ズルい! ズルいって!」でした。これもぜひ、劇場でお確かめください。
森めぐみさん演じる麻衣は、道郎の恋人。道郎というキャラクターを理解する上で、欠かせない人物です。
また、今回の作品の主軸となるのは"母と息子"の物語。つまり物語の鍵をにぎるのは、大森さん演じる道郎の母親・克子です。明るく、愛に満ちた克子は、これはもう大森さんにしか演じられない役ですし、成井さんだからこそ描けるキャラクター。長年のファンの方ほど、グッと来るのではないでしょうか?
坂口理恵さんが演じる成美は、"文部科学大臣の妻"という役柄。彼女もまた、"母と息子"の物語を担う一人でもあります。いやしかし坂口さん、さすがの迫力。
通し稽古終了後はダメ出しタイム。円になって座り、成井さんとともに1つ1つの場面を確認していきます。
驚くのは、俳優陣たちからも積極的に提案が飛ぶこと。ちなみにほぼ本番に近い状態に仕上がった通し稽古とはいえ、俳優陣たちからはアドリブや新たな試みが時折見られ、稽古場に爆笑が巻き起こる場面も。緊張感を持ちつつも、初日に向けて少しでもいいものを作ろうと全員が必死に取り組む、ポジティブなエネルギーに満ちた空間でした。
この日、成井さんが一番力を入れてチェックしたのはとある場面の演技。「あそこはまだ、その伏線を張らないで」......そう、セリフは同じだとしても、ちょっとした演技のニュアンスでその後の展開の伏線となってしまう。そういった細かい部分が山のように詰まった、まさに精緻なパズルのようです。
とはいいつつも、そこはクリスマス公演。観終わった後に温かな気持ちになれるのは保障します。なんというか、"盛りだくさん"なんです、この作品。
というわけで、間もなく開幕するクリスマス公演。2017年を締めくくるエンタメ作品を探している方、ぜひ劇場へ!
取材・文:川口有紀
舞台写真:上野由日路
【公演スケジュール】
キャラメルボックス 2017ウィンターツアー
2017/12/15(金) ~ 2017/12/25(月)
会場:サンシャイン劇場 (東京都)
2017/12/28(木)~ 2017/12/29(金)
会場:明石市立市民会館 大ホール (兵庫県)