グラインドボーン音楽祭提携公演『ばらの騎士』セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)、リチャード・ジョーンズ(演出)来日記者会見

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セバスティアン・ヴァイグレ(東京公演指揮)

「『ばらの騎士』は、本当に大好きな作品のひとつです。愛について、人生について、時間、そして人間関係について...およそ、オペラの要素になるべきものがすべてこの作品の中に見られます。
リヒャルト・シュトラウスは、それまで『サロメ』や『エレクトラ』のような尖鋭的で進歩的な作品を書いていました。しかし、『ばらの騎士』は、それらとはまったく異なるコメディです。美しいメロディーに溢れ、そして、ウィンナ・ワルツの舞踏曲――作品舞台の設定された時代にはなかったものですが――が織り混ぜられています。聴く人の様々な感情、体験を呼び起こす、すばらしい作品です。
日本でこの作品を作ることは、私にとって特別です。なにしろ歌手はみな日本人で、その多くは初役です。このようなシチュエーションは今までなかったことです。私は、日本の音楽スタッフのみなさんを称えたい。みなさんは長い時間をかけて本当に準備をしてきてくれました。今、私たちは、最終的に目指す『ばらの騎士』の世界の空気や、台詞の裏にこめられた特別な意味あいなど、色合いをつけ、演出家とともにこのよき挑戦に取り組んでいるところです」

jonesコピー.jpgリチャード・ジョーンズ(演出)

「作品のコンセプトを、ということですが、基本的に、私は'美しいこのオペラの物語を語りたい'と思っています。『ばらの騎士』は、自分がずっとやりたかった作品です。まず強調したいことは、各3幕はそれぞれ異なった社会が描かれているということです。古き良きウィーンの伝統的社会の第1幕、そして新興貴族と裕福な社会の第2幕につづいて、第3幕ではアウトサイドな社会も描かれます。それらを体現する舞台装置や衣裳は、18世紀をベースにしながら、現代的意匠を採り入れています。
そして、またこの作品は、台本がすばらしい。本当にファンタスティックなコメディです。モリエールなどの綿綿たるヨーロッパの劇作家の影響を受けています。例えば、様々な場面で、やってはいけないという行動が許されているのだけれどある人にそれがばれてしまってはいけないという状況が描かれます。
また登場人物もバラエティに富んでいます。とりわけ、オックス男爵は特徴的な存在で、下品でありながらも華麗であり、そして正直者です。
ずっと来たいと思っていた日本に、今回初めて来ることができてとても嬉しいです。そして、今回の『ばらの騎士』が東京だけでなく、愛知、大分でも上演されることも、さらに喜ばしく思っています」

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Q.グラインドボーン音楽祭と「東京ヴァージョン」との違いは?

ジョーンズ:
「演出そのものが変わるということはほとんどありません。それはキャストが(稽古場に)持ってくるものに大きく依ります。たとえば、昨日の稽古では、2幕のファーニナル役の歌手のやっていることを新たに採り入れました。他にも、オックス役の2人は持っているコメディのセンスや動きが違うように思われましたので、それぞれのキャラクターを出してもらえるように作っていきたい。このように、劇は異なる歌手との相互作用の中で生まれてくるものなので、それはごく自然なことだと思っています」

Q.この歌手は特別だと思った歌手はいましたか?

ジョーンズ:
「どの歌手も本当にすばらしく、しっかりと準備をされているので、この人が特別ということはありません。その意味で、答えは『ノー』でしょうか。それよりも、通常はヨーロッパの人とやっていることが、今回は様々なところで文化的な違いが見られるというのはとても興味深い。また、みなさんのパフォーマンスのディテールがすばらしいです。テキストもしっかりと読みこんでいて、言葉の意味が分からないと動けばすぐわかるものですが、そういうところもありません」

Q. 『ばらの騎士』は日本では上演機会の少ない演目のひとつですが、ヨーロッパでのステータスはどのようなものと考えられますか?

ジョーンズ:
「最高級品です。
作曲、台本とも、扱う内容や時代の幅が広く、それでいて洗練されています。この物語は、3つの世紀に跨ったもので、複雑でありながらも、なにより美しく、ストーリーのテンポも早く、そして最後には内省的になるシーンがあるなど、驚きに満ちていて、初めて見る人でも、予備知識などなく面白く楽しめるオペラだと思います」

Q.先日、メトロポリタン歌劇場において、フレミングやガランチャら世界最高峰の歌手とともに、そして自身もまたこの作品の最高峰の指揮者として『ばらの騎士』を作ってきたばかりのヴァイグレさんにとって、「良いオペラを作る秘訣」とは?また、読売日本交響楽団との共演について。

ヴァイグレ:
「読売日本交響楽団とは昨年の成功がありましたし、再会をとても楽しみにしています。『ばらの騎士』の音楽は、軽やかさと明晰さ、そしてウィーンの舞踏の様式感が大切ですが、みなさんがひじょうによく準備をされていて、最初からどんどんよいパフォーマンスが生まれてくるでしょう。オペラで常によいパフォーマンスをする秘訣ということですが、もちろんよい歌手とよいオーケストラがいて、そこによい相乗作用があることでしょう。言葉で細かく音楽の指示を出すよりも、ボディランゲージだけでよりよく反応してくれる読売日本交響楽団との協働は、その意味でもとても楽しみなのです」

Q.より多くの人に『ばらの騎士』を鑑賞して楽しんでほしいと思っています。楽しみ方のコツは?

ジョーンズ:
「まずは音楽を楽しんでほしいということです。そして、このオペラには、追いつめられてしまって大変な状況からどうやったらうまく抜け出せるか、とか、コミカルな状況がたくさん出てきます。それもただ、オモシロオカシイだけでなく、同時に、胸を打たれるような感慨があります。そこが演劇的にとても大事なところで、その点を楽しんでいただけたらと思います」

Q.私はいつも最後の元帥夫人の姿を見て泣いてしまいます。女性が歳をとることの悲劇というテーマがこのオペラにはあると思いますが。

ジョーンズ:
「確かに、最後のシーンは胸を打ちますね。でも少なくとも私は、これはセンチメンタルとは違うと思います。元帥夫人はまだ三十歳台前半で、歳を取っていくことを予感はしていても、老いを悲しみ、愛の生活を棄ててしまうつもりはありません。これからも男性を愛するでしょう。そういった意味では、私は、センチメンタルには捉えていません」

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