コンテンポラリーダンス界で注目を集める、新進気鋭の若手振付家・北尾亘率いるダンスカンパニーBaobabが、まもなく第10回目の本公演を行う。
9/8(木)~11(日)吉祥寺シアターを皮切りに、北九州、京都、仙台の4都市で上演する。
タイトルは『靴屑の塔』。
チラシのビジュアルからも予想できるが、ただのダンス公演に留まらず、かなりコンセプチュアルな要素を含むようだ。
8月の終わり、絶賛作品創作中の稽古場にお邪魔して取材を行なった。振付・構成・演出を担当する北尾亘のインタビューを終え、まず伝えるべきは今作品のコンセプト/テーマだと思う。
★コンセプト/テーマについて
「前々から足下に関することの作品を作りたかった。」と北尾さん。
Baobabは当初より "土着的な振付"を掲げている。ダンサーの足下の感覚について思考を巡らせてきたのだそう。コンテンポラリーダンスは裸足で踊るのがスタンダード。昨今市民権を得ているストリートダンスは靴を履いて踊る。ジャズダンスならジャズシューズ、ラテンダンスならラテンシューズ。それぞれに持つ足下の感覚、そしてそこにあるドラマ。
私生活でも靴には相当のこだわりを持っているとのこと。女性とは違い、またスーツを着る職業でないため、靴のジャンルは幅狭い。幅狭いからこそのこだわりがある のだそう。靴を買うまでもかなり渋るが、買ってから新品を下ろすまでもかなり渋るそうだ。
「本当に今持っている靴が気に入っていて、新しい靴を下ろしたら 今の靴を履く回数が減ると予測できるから、新しい靴をおろすまでの間、今のお気に入りを愛でてあげる時間を作りたい。」と言う。...そこまで靴好きとは。
コンセプト/テーマに関しては、ただ「靴」や「足下」に終わらない。なぜ、今作品タイトルが「靴屑の塔」なのか、納得する話が聞けた。
ちょうど始発の出る朝5:00過ぎ頃、渋谷センター街の各店舗の通り沿いにゴミが並んでいる。そろそろゴミ収集車がそれを回収しに来る頃、ある靴屋さんの前に、靴箱が20箱ほど積み上げられていた。おそらくアウトレットにも流れることなく、廃棄されるたくさんの靴たち。靴箱の山の片隅に、ボロボロになった革靴が履き捨てられていた。その横には1つ空になった靴箱が。朝まで飲んでいたサラリーマンが履き替えて行ったのだろうか。いずれにせよ、履き替えようとするほどの靴がこんなにも棄てられている。
生産と消費について考えざるを得ない。生産と消費、そのメカニズムはどうなっているか。世界的にこの数十年間 日々テクノロジーは進化している。そして日本では人口がどんどん減っている。それなのになぜ、これほどまでに大量に生産し続けるのか?大量生産と大量消費をいつまでも繰り返している。生み出したものは、最終的には処理しなくちゃならないと、予め分かっていることではないのか?
「一度生まれたものには辿る道がある、その経緯がある、それを今回の作品で見つめ直したい。生まれたものの経緯を見つめてみたい。」 と北尾さん。
この話を聞いて、今作品タイトルの一字一句に納得した。
★Baobabのダンスは「パフォーマンス性の強い作品」とは言え、コンテンポラリーダンスらしくコンセプト/テーマに関してはディープな内容だが、身体表現に関しては至極ポピュラーだ。
「同時代性を意識して作品作りをしている。」そうで、今回は以前よりもストリートダンスの要素が強く、半分ミクスチャーなのだそう。
★期待を裏切らない!
Baobabを観たことがある人が口を揃えて期待してしまうというポイントが3つある。
まず「選曲」と「振付」だ。Baobabのダンスはコンテンポラリーダンスにカテゴライズされるが、要所要所に必ず " 音に乗る " 振付が展開される。...音楽に乗るというよりか寧ろ、ノリノリ!なのである。オリジナル曲も含め、選曲にもこだわりを見せる。筆者もやはり、観客としてこれを求めているんですよ。
そしてもうひとつが 「高度なダンススキル」である。高度なことをしているから、やはり観ている方は楽しい というのが筆者の感想だ。ここで言う「高度」というのは、基礎(クラシック)ができている上での、ジャズやHIPHOPやコンタクト・インプロ等を学び身につけたダンサーが踊っているということ。そういったダンサーが踊るからこそ見応えがある。
" 圧倒的な群舞 " もセールスポイントである。ここに注目して観てほしい。「集団の中に異物を入れてあげることにより正当化される」という発見をするだろう。
★信頼関係
そんな高度な技術を持つダンサー同士が稽古開始後に始めたワーク。2人ペアになって体重を預けていくワークをしていた。「相手がいなければ 自分は成立していない」(北尾さんの言葉) というところまで自分を委ねる。言葉よりも何よりも信頼関係が深まる。あぁ、これは本当に普段なかなか交わすことのない深い会話だな としみじみ思った。
実験的な動きもふんだんに取り入れる。
「何にでも言えることだけど、例えば血液型だったり、ジャンルだったり、風潮に従うばかりでは窮屈さがある。
定例・通例からはみ出させること。技術指向になると制限がかかりやすい傾向にあると思う。自制が効いた動きよりも、全員が通例からはみ出した方が よっぽど大きな塊になる。」 と北尾さん。
そんな稽古を見ていた筆者は、シーンが変わるその瞬間に、物凄くストーリーを感じた。まるで生命の進化論のようだった。 これがもしかすると「大きな塊」なのだろうか。
★振付・構成・演出担当の北尾亘について
北尾さんの作品作りは、ただ振付けして終わりではない。ただワークをして終わりではない。ダンサーそれぞれが身体で感じたこと、その感覚、それからそこに付随する感情を、丁寧に落とし込んでいく。ダンサーそれぞれに、落とし込んでいく時間を確保する。随所にこういった場面が見られた。お互いが支え合い、一緒に作り上げている感覚が増していくように見られた。北尾さんが一切動かなくとも、言葉を発するだけで作品は完成する。
コンセプト/テーマ、ポピュラーな身体表現、期待値、信頼関係、北尾亘の力量について書いてきたが、どうだろうか?もしまだBaobabを観たことがないなら、今回の第10回本公演ツアー『靴屑の塔』を本当におすすめする。ストリートダンスを踊る人、芸術家、クリエイター、ダンスなんて普段観ない人など、様々な価値観の人に響く作品となっている。
Baobab第10回本公演ツアー『靴屑の塔』
[振付・構成・演出]北尾亘
[出演]北尾亘 米田沙織 目澤芙裕子 久津美太地 傳川光留 (以上、Baobab)
福原冠(範宙遊泳) 岡本優(TABATHA) 村田茜(MOKK) 中川絢音(水中めがね∞) 中村駿
【東京公演】2016/9/8(木)~11(日) 吉祥寺シアター
[前売・全席自由]一般3,000円 学生2,500円※公演当日学生証 高校生以下1,000円※公演当日学生証
【京都公演】2016/10/7(金)~9(日) 京都芸術センター
[前売・全席自由]一般2,500円 学生2,000円※公演当日学生証 高校生以下1,000円※公演当日学生証
【仙台公演】2016/10/18(火)~20(木) せんだい演劇工房10-BOX box-1
[前売・全席自由]一般2,500円 学生2,000円※公演当日学生証 高校生以下1,000円※公演当日学生証
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