2016年4月にKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督に就任した俳優で演出家の白井晃が、
長年、上演を切望していたブレヒト劇「マハゴニー市の興亡」が9月同劇場で、ついにその全貌を現す。
初日を目前に控えた稽古場では、もとはオペラだった本作を、ジャズピアニストのスガダイローを音楽監督に迎えジャズテイストの音楽劇に再構築する、という白井の革新的な挑戦に、みなが煽られるように熱気にあふれた稽古が続いている。
「三文オペラ」などでブレヒトとの名コンビとして知られる作曲家クルト・ヴァイルのひねりのきいた音楽を、
主演の山本耕史が力強く歌い上げれば、ヒロインのマルシアがまるで語りかけるような説得力で歌声を響かせる。
中尾ミエ、上條恒彦、古谷一行という選りすぐりのベテラン俳優陣の芝居は作品に重みを加え、若き男性アンサンブルや女性ダンサーたちの動きも日に日にシャープさを増していた。
スガダイローが率いるバンドの奏でる音楽は、聴く者に挑みかかるような鋭利な感触を与えるのに、
一方で、妙に心の奥底が駆り立てられ、浮き立つような気分にさせることも。
それが、人間社会の愚かさや滑稽さを、情緒的な感情に引きずられずに描いていく叙事詩的なブレヒトの世界観に見事にフィットし、不思議な高揚感につながっていく。
■写真提供=KAAT神奈川芸術劇場
■撮影=伊藤大介(SIGNO)
俳優の身体が雄弁に存在する舞台、との定評がある白井がこだわるのは、俳優たちの動きと動きが互いに呼応して連動していくこと。
せりふの響き方一つにも細心の注意を払いながら、完成度を高めていくその様子は、実にアグレッシブで、情熱にあふれている。
KAAT神奈川芸術劇場に、いったいどんな「欲望の街」が出現するのか。
そして舞台上にもある客席「マハゴニー市民席」に座る観客らがどのように「参加」していくのかについても期待が高まる。
(文・阪清和)
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【公演情報】
「マハゴニー市の興亡」