ギリシャ悲劇に比せられるべきイプセンの傑作『幽霊』で、未亡人役に挑む元宝塚歌劇団雪組トップスター・朝海ひかるが作品への熱い想いを語ってくれた。
-戯曲を読んだ印象は?
重いテーマを扱った作品ではありますが、人間らしさが溢れていて、ドタバタコメディ的な部分もある面白い作品だと思いました。「よしっ!」と気合いを入れて読み始めたのですが、予想に反して楽しく読むことができました。また、イプセンの表現するきれいな言葉も魅力の一つだと思います。文章からは北欧ノルウェーのどんよりとした重い空気がイメージされます。そこで生まれ育った人物ですから、私たちより暗く陰湿な性格なのかなと思いましたが、読んでいてクスッと笑える人間臭さが感じられる部分もあります。ただ"重い"だけではないのが魅力ですね。繰り広げられていく心理戦が面白くて、物語にグイグイと引き込まれていきました。そして衝撃の最後が待っているという...。言えないのがもどかしいですが、最後は「あぁ...!」という感じですね。お客様には楽しみにして頂きたいです。
-ご自身の役について
今回、私は一人息子を持つ未亡人アルヴィング夫人を演じます。未亡人は独特の色気がありミステリアスで、様々な想像をかき立てられると思います。そんな未亡人を演じたいですね。夫の名誉を守る為に自分を偽り、体面を保つことに命をかけているのは衝撃的ですが、私にはその彼女の気持ちが分からなくもないなと感じました。表の顔と裏の顔というのは誰にでもありますし、体面を保つことは田舎の閉鎖的な空間ではなおさら必要ではないかと。そして彼女は息子を溺愛する母でもあります。息子のいる私の友達を見ていると、母と息子というのは誰も立ち入ることのできない強い絆で結ばれた独特の関係なのかなと感じます。この物語のような閉ざされた場所では、その絆はより深いものではないかと推測します。
-共演者について
皆さんとは初めての共演になります。息子役の安西慎太郎さんは、先日舞台を拝見したのですが、すごくピュアな雰囲気の魅力的な俳優さんで、共演するのが楽しみになりました。小山力也さんは声優さんでもあるので、稽古中にいろんなキャラクターの声を出して遊んでもらいたいです(笑)。皆さん大変実力のある方ばかりなので心強いですね。この5人でしかできない『幽霊』を創り上げたいと思います。練りに練って熟成させて、お客様に一番おいしいものを召し上がって頂きたいですね。
-演出の鵜山仁さんについて
鵜山さんとも今回初めてご一緒します。鵜山さんの作品はどれも骨太の素晴らしいものばかりで、始まってすぐにそのお芝居の中に観客を連れていってくれるという印象です。先輩の俳優さんたちも「鵜山さんとご一緒すると本当に勉強になるよ」とおっしゃっていて、ずっと鵜山さんの作品に出演させて頂きたいと思っていました。またこの様な戯曲をやりたいと以前から思っていて、その願いがこの作品で叶うのはとても嬉しいです。本当に貴重な機会ですので、貪欲に食らいついていきたいです。吸収できることはすべて吸収したいという、"ダイソンの掃除機"みたいな気持ちでいます(笑)。
-兵庫県立芸術文化センターについて
芸術文化センターでの公演はもう5回目となります。最初は2007年の宝塚退団後初コンサートの時です。「こんなに素晴らしい劇場が西宮にできたんだ!」と感動しました。舞台と客席との一体感がすごくあって、とても居心地のいい劇場です。昨年の『國語元年』で伺った時は、共演者の方々もみんな口々に「いい劇場だ」と言って、舞台も大変盛り上がりました。またその作品の演出家・栗山民也さんはお気に入りの劇場だそうで、自分の家であるかのように「いいだろ、ここ!」とおっしゃっていました(笑)。お客様の反応が直に演者に伝わり、演者はそれをエネルギーにして返すという相乗効果が起きて、より素晴らしい舞台が上演できる空間ですね。自分たちのできるベストを、劇場の力も借りつつ演じさせて頂ければと思います。
西宮北口の思い出は、宝塚音楽学校時代にタップの教室に通った事! 私、当時タップが苦手で、そのレッスンが嫌で嫌で...。北口駅に降りると、どんよりとした気分になっていました。芸術文化センターでの公演で久しぶりに西宮北口に行くと、きれいな街になっていてびっくりしました。おかげで昔のどんよりとした気持ちは払拭されました(笑)。
-お客様にひとこと
イプセンの傑作を演じさせて頂くということで、今、武者震いをしています。私たちのエネルギーをお客様にダイレクトに感じて頂けるよう頑張りたいです。お客様には肩に力を入れず、私たちの熱意とイプセンの世界を感じに来て頂きたいです。平日の公演ですが、皆さん今から休みを取って(笑) 是非お越しください! お待ちしています!!
【あらすじ】
ノルウェー西部、大きなフィヨルドに臨むアルヴィング夫人の屋敷では、翌日に控える孤児院の開院式の準備のため、マンデルス牧師が立ち寄っていた。愛する一人息子のオスヴァルもパリ生活から数年振りに帰省し、夫人はたいそう上機嫌である。
しかしそんな中で、夫人がおそれていた〈幽霊〉が屋敷に再び現れる。屋敷を出入りする指物師のエングストランや、夫人の小間使いのレギーネの屋敷との関係が徐々に明るみになっていく。夫人が長年ひた隠しにしてきた因襲の幽霊とは――?
リシャ悲劇に比されるべきイプセンの傑作を、数々の話題作を手掛ける鵜山仁を演出に迎え、描き出す!
【公演情報】
・9/29(木) ~ 10/10(月・祝) 紀伊國屋ホール
・10/13(木) ~ 10/14(金) 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール