世界で一番売れているマンガ『ONE PIECE』が歌舞伎になる!
現在発行されている第78巻までの累計発行部数は3億2000万部という、日本が誇る大ヒットマンガ『ONE PIECE』。これが、市川猿之助の「スーパー歌舞伎II」とコラボ、この秋、東京・新橋演舞場にて上演されます。
7月28日、この舞台「スーパー歌舞伎II『ワンピース』」の製作発表記者会見が開催されました。
すでに『ワンピース』が歌舞伎になる...ということは発表されていましたが、この日新たに配役も発表に。
こちらです。
ドーン!
市川猿之助...ルフィ、ハンコック、シャンクス
市川右近...白ひげ
坂東巳之助...ゾロ、ボン・クレー、スクアード
中村隼人...サンジ、イナズマ
市川春猿...ナミ、サンダーソニア
市川弘太郎...はっちゃん、戦桃丸
市川寿猿...アバロ・ピサロ
市川笑三郎...ニョン婆
市川猿弥...ジンベエ、黒ひげ(ティーチ)
市川笑也...ニコ・ロビン、マリーゴールド
市川男女蔵...マゼラン
市川門之助...つる
福士誠治...エース
嘉島典俊...ブルック、赤犬サカズキ
浅野和之...レイリー、イワンコフ、センゴク
猿之助さんがルフィ、ハンコック、シャンクスの3役!
右近さんが白ひげ!
巳之助さん、隼人さんという若手イケメンがゾロとサンジ!
そして福士誠治さんがエース!
さらに、今回歌舞伎化されるのが<頂上戦争編>だということも併せて発表されました。
楽しみですね。
原作の尾田栄一郎さんも
「演劇と歌舞伎の境界線はどこにあるのかと尋ねると「全ての所作が美しいのが歌舞伎です」と猿之助さんは言われました。
僕はONE PIECEを美しく描いたことはありません。
つまりこれは、海賊と美しさのコラボレーション。
歌舞伎というフィルターを通すと、海賊たちがどんな美しさを放つのか。
制作の片鱗を見せていただくに、すごいものになるという予感しかいたしません。
言わずもがな、市川猿之助さんという才能に超ご期待ください!」
と期待のコメントを寄せました。
脚本・演出を手がけるのは、劇団扉座主宰にして、これまでも『八犬伝』『新・三国志』をはじめ1990年代からスーパー歌舞伎を数々手がけている横内謙介。
自ら「自分で勝手に"澤瀉学校の留学生"と言ってます」と話し、「まさか二代にわたって猿之助さんにお仕えできるとは思ってませんでしたので、いままでのご恩がえしを含めてがんばらないと」と意気込みます。
「先代の猿之助さん(現・猿翁)がスーパー歌舞伎を作るときによく言っていたのは「3つの"S"」。まずわかりやすく現代的な"ストーリー"、そして"スピード"、それから"スペクタクル"。この3つをもってスーパー歌舞伎と言うんだと仰っていました。
今回『ワンピース』という素晴らしい原作がありますので、ストーリーはしっかりしている。
そしてスペクタクルという面では、猿之助の遺伝子を継ぎ、さらに発展させようとしている四代目の猿之助さんが、澤瀉歌舞伎をすべて継承なさっているので何の心配もないでしょう。
そしてスピード感は...今回の出演者は僕が最初に出会ったときは若者だったのですが、今は中堅になっちゃったのですが(笑)。とはいえもともと二十一世紀歌舞伎組と言っていた(勢いある)人たちと、それから浅野和之さん、福士誠治さんなどとても現代的なスピード感あふれる俳優さんたち。
まさにスーパー歌舞伎に相応しいものになるはずだと思っています」と、自信のほどを披露。
そして「ストーリーはほぼ、原作どおりにやろうと今、相談しています」と語り、「ただ、なんせ現在78巻も出ている長い物語。それを3時間ちょっとにする。それでいて、初めて『ワンピース』に触れるお客さんにも理解していただけるようにすることが私の仕事。
実は『ワンピース』をやると言われて、海賊の話だということは知っていたので、歌舞伎にぴったりじゃないか、それは面白い、と飛びついたのですが、実は全部を読んではいませんでした。決まってから読みましたが、読んで「失敗したな、こんなもの出きるはずないじゃないか」と思うところが多々あります(笑)。姑息な手段も...劇中劇にすることとか、色々考えましたが、やっぱりこれだけの神話的な、まさに世界的に愛されている巨大な物語。僕たちは逃げずに、たとえこの船が難破しようとも、先を目指して王道をいこうと今相談しているところです。できれば猿之助さんの"伸びる手足"になりたいと思って、まだ見ぬ秘宝を探しに今日から旅に出ます。...なんせ『ワンピース』ファンは全世界に何億人いるかわかりませんが"どっと"いて、日本には歌舞伎ファンが"どっと"いる。お互いの意見が合うはずがない(笑)と思うのですが、この仕事に臨む以上は大秘宝を見つける覚悟でやらなきゃいけない」と力強い意気込みです!
そして、スーパー歌舞伎IIの顔であり、今回主演、さらに演出も勤める市川猿之助。
「『ワンピース』というのは色々な仲間とともに冒険をするマンガ。(それにふさわしく)歌舞伎公演ではないくらい、今回は色々な企業に協賛、協力いただく。これも仲間だと思います。出演者も歌舞伎界にとどまらず仲間がいます。スタッフも仲間です。仲間と一緒に未知なる船出をします。今日記者会見することで、後戻りのできない航海に出発したんだなということを実感しました。まだまだわからないことだらけですが、どういうものができるか、わたし自身もお客さまとともに、この作品の誕生を楽しみに待ちたいと思います」と語ります。
ちなみに原作については「私は1巻目の10ページまでしか読んでいない。5月に明治座で共演した中村亀鶴さんがディズニーおたくなのですが、彼に原作を読まないほうがいいと言われたんですよ。本当に好きな者が作るとものすごいこだわってしまってオタク的になってしまう、『ワンピース』を知らない人の目線がなくなる。だからあえて読まないほうがいいと。で、横内先生は『ワンピース』の世界を精通しているので、(演出の)ふたりがあまりに精通してしまうと観客を置いてけぼりにしてしまう。なので私は素人的な疑問を大事にしようと思って、あえて触れないようにしています」と、まだ「おあずけ」状態のようです。
ただその序盤のみの感想としては「酒場にみんなが寄り集まってそこから旅立ちが始まる、日本でいうと『八犬伝』とかと同じ、大長編の冒険活劇の形。とても伝統的な物語の形式で、そこに新しい思想を注入している。完全懲悪みたいなところもあるし、悪がはびこって誰かが窮地を救って...みたいなところも、とても歌舞伎には向いているなと思っています。
この話をいただいたときに、仲間の歌舞伎役者をはじめ色々な人が「俺この役やりたい」「俺はこの役を」って言ってきたんです。それだけ愛されている。しかもその名前がかぶらない。ということは綺羅星のごとくキャラクターがいて、愛されているというのがわかった」と話しました。
演じるルフィは「そうだ、水が苦手なんでしょ。僕も水が苦手、泳げない。そこは非常に親近感あります(笑)。僕は悪魔の実を食べなくても、生まれながらに泳げないんだけどね。(かわりの特殊能力があるわけでは)別にないけど...歌舞伎ができるくらい?でもそこは親近感もってます」と、共通項があるようで、さらにフルネームで"モンキー・D・ルフィ"と"猿"つながりであることも指摘され
「そう! これも縁だなと。中には僕が"猿"之助だから"モンキー"役に選ばれたんですかという方もいるくらい(笑)。すごくシンクロしてる。ありがたいと思っています」。
さらに「(ゴム人間ということで)手が伸びなきゃいけない。...自分勝手ですが伸ばしたくない、伸ばす必要があるのかと訊いたところ、「お約束で伸ばさなきゃいけない」と(笑)。(ほかのキャラクターに比べて)かっこ悪いな~と思いましたが、どこかでは伸ばします。そこは歌舞伎的な手法を使うのか、現代的な手法を使うのか、そこはこれからの相談。ただ、火の戦い、氷の戦いというのはスペクタクルにやっていきたいですね」と話した猿之助さん。
会見後に行われた囲み取材でも、「(手を伸ばす)いいアイディアないですかねぇ。こういうの、いいかもね?」と、音声さんが持つマイクに興味津々でした...。
また、ルフィ、ハンコック、シャンクスの3役をひとりで演じることについては
「ルフィはあんまり頂上戦争で活躍しないんですよね。歌舞伎で言うと『義経千本桜』の義経のようで、主人公なんですがあまり活躍しない。じゃあ何か良い役はないだろうか、しかも早替わりができて、さらに僕は伯父と違って女形が主ですから、そういう特性が活かせないか...となった時に、横内さんがこれでいいんじゃないかと言ってくださった」という流れだったようで、「豪華なものも着たいしね。ルフィだと、裸にシャツ、短パンですからね。ハンコックやって、うさを晴らそうかなと!」というようなことも。
人気キャラばかりを演じることについては「知らないからできる、知っていたら恐れ多くてできないんでしょうね(笑)。でもそれよりも心配は、名前をカタカナの原作どおりやるので、歌舞伎役者ってカタカナ弱いので、セリフでごっちゃにならないかなっていうこと。最高齢は84歳ですから。シャンクス、なんて(発音を)言ったことないと思いますよ(笑)」。
また「猿之助の売りは、『獨道中五十三驛』で18役の早替わりをやったようなところにある。ただそれをやってしまうと、じゃあ「全部お前やればいいじゃん」となってしまうし、しかもできちゃうんでね(笑)。出演者ひとりのスーパー歌舞伎になってしまう。今回はみんなが活躍できる形でやる。私ももちろん主役をやって活躍をしますが、いつもだったら自分がやってしまう場を、次の世代にということで、たとえば巳之助くんや隼人くんに譲りまして、彼らにも大活躍してもらう、そういう試みも考えています」と構想を語りました。
また今回<頂上戦争編>をセレクトしたことについては、
横内さんが
「ひとつのエピソードだけを引き抜いてやるということで、いくつかプランはあったんです。しかし、『麦わらの一味の勢ぞろい』があった方がいいんじゃないかということがひとつ。勢ぞろいという言葉がすでに歌舞伎っぽいですし。そして勢ぞろいしているのが50巻目くらいで、いわゆる頂上決戦の前。ですのでそこらへんがターゲットになるなと。
それから『ワンピース』を初めて観る人にとってもわかりやすい話を、とすると、ここが一番大きい話ですので。
あとは猿之助さんに白ひげの絵をみせて「これ、弁慶の立ち往生ですよね、とっても歌舞伎っぽいですよね」という風なプレゼンをしたりして(笑)、その中で色々なアイディアが膨らんでくださったみたいで、決まりました」とそこに至るまでのエピソードを披露。
また猿之助さんは
「原作のあるものを作品化するのは一番難しい。どこに焦点を持っていくか。ずばり今回は『ワンピース』を知らない人にも楽しんでいただけるような作品にすることを中心にしようと横内さんと話しています。
『ワンピース』は長い話ですので、どこをやるか非常に悩みました。ただ歌舞伎というのは『ワンピース』を上演するのに一番相応しい演劇形態なんじゃないかと思います。歌舞伎というのは鶴屋南北の作でも名場面だけを上演するんです。けして、はじめから終わりまで上演しない。そういう上演形態があたりまえの中で、今回は「頂上決戦」の一場面だけを上演する。なかなか普通の芝居では(一部だけを切り取ることは)難しいですが、歌舞伎とはこういう、長い物語のなかのひと場面だけをクローズアップして上演するというのを昔からやってきているので、そういう意味でこの『ワンピース』を上演するのは非常に相応しいと思っています」と、この上演形態と歌舞伎との相性の良さを強調します。
ほか、演出プランについては
「セリフは歌舞伎言葉にどんどんしていきますかと猿之助さんに言ったら、一切したくないと。ルフィのままでいきたいと。一方でビジュアル(面のディレクション)は猿之助さんにやっていただくつもりですが、ルフィは白塗りになっている。でも言葉は「俺は海賊王になる」だったら、そのままでいいんだと。猿之助さんは三代目がやっていないことを意図的に考えていらっしゃる。スーパー歌舞伎を古典化しようとなさっていない。僕としてはスーパー歌舞伎をある程度わかっているつもりですが、さらに新しいものにしなきゃいけないなというところを楽しみにしています。スーパー歌舞伎の手法もいっぱい使いますが、今はそれ以外のところに打ち合わせの焦点があってます。いかに進化させるかというのを今考えています」(横内)
「古くからのお客さまも大事にしつつ、新たなお客様も開発する、どうやって楽しんでいただけるかなと(考えている)。そんな中で、今回、演舞場では初のナナメの宙乗り...客席を飛ぶことをやります。あとは今のところは本水を使ったり、ありとあらゆるスペクタクルを考えている。尾田先生の言葉にあったように美しい光景をお見せしたい」「もし尾田先生が(良いと)言ってくださって、みなさんが支持してくだされば、『スターウォーズ』みたいに、(シリーズ化して)どんどん物語を最初に戻していくようなことも出きるんじゃないかな」(猿之助)
...等々、気になるコメントがたくさん飛び出しました。
最後に、「『ワンピース』、作っている本人も、出演する側も、お客さまもどんなものになるかまったく想像がつきません。みんなとともにどういう宝が見つかるか...これから宝探しの冒険に出たいと思うので、みなさんどうか温かく見守ってください」という猿之助さんのご挨拶でした。
そして降壇後も「このマイク...軽いですか? ほー...」と伸びるマイクが気になる猿之助さんです。
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
10月7日(水)~11月25日(水) 新橋演舞場(東京)
一般発売:
10月公演分...8月20日(木)
11月公演分...9月20日(日)