【公演レポート】
宝塚歌劇団や劇団四季の一部のシリーズなどを除き、日本のエンタメ界では"ショー"というものが上演される機会は非常に少ない。ミュージカルは多種多様なものが次々と登場しているのに対し、少々歯がゆい現状である。そんな中、演出家・小林香が手掛ける<SHOW-ism>が気を吐いている。新しいショーの形を目指し、小林が2010年よりコンスタントに続けている人気シリーズで、毎度チケット争奪戦になるほど。2月1日、東京・シアタークリエにて開幕した第8弾『SHOW-ism Ⅷ「∞/ユイット」』も、早々にチケットは完売。そんなファンの期待の高さに応えるように、今回もシックでオシャレ、小林の美意識が詰まった素敵なステージとなっている。
舞台は現代のパリ。豪華ホテル"オテル・ド・ユイット"には暇を持て余した奇妙な人々が住んでいる。1から7まで、部屋の番号でお互いを呼ぶ住人たち。そして8番目の部屋はずっと空室。そしてこのホテルでは探し物が必ず見つかるという噂が...。
井上芳雄、蘭寿とむといった人気スターに加え、坂元健児、ジェニファー、彩吹真央ら実力派、気鋭のダンサー大貫勇輔、さらにシルク・ドゥ・ソレイユでクラウンを演じていたフィリップ・エマールら、個性豊かなメンバーが怪しげなホテルの住人に扮す。彼らがサロンで様々な"探し物"について語らっている中で、物語が次々と生まれていく趣向だ。楽しいソングショーからうっとりするようなダンスシーンまで、シーンごとに色を変えつつ、全体のトーンはどこか哀愁を帯びノスタルジック。そのトーンにこそ、小林の美意識が見て取れる。
さらに、これは<SHOW-ism>シリーズ通しての魅力であるが、小林が俳優に注ぐ愛情がいい。俳優の個性を知り尽くしているからこそ、「この人にこういったことをやらせたい」というキャラクターやストーリーが生まれるのだろう。今回で言えば、ミュージカルの貴公子たる井上の硬質な魅力はうっとりするほどだったし、元宝塚トップである蘭寿のゴージャスさ、同じく宝塚出身の彩吹の優しい柔らかさが存分に発揮されている。物語ありきの芝居作品に比べ、キャストの個性を活かすというのはショーの出来を左右する。その点も小林のセンスは抜群だ。
観客を巻き込む演出も盛り込まれており、そんなアドリブ感は芝居より気安い"ショー"ならでは。観客はアルコール含むドリンク片手にショーを楽しめ、さらに出演者が客席にドリンクをサーブしにいくサービスも。大人のための舞台、といった色合いが強く、陶酔感のあるディープな劇空間。一度味わってみることをおススメする。
公演は2月15日(日)まで同劇場にて上演されている。
取材・文:平野祥恵
写真提供:東宝演劇部