作家三谷幸喜が「作家」についての舞台に挑む。
登場人物は全て「オンナ」。
紫式部と清少納言の才媛をめぐるオンナの戦い。
主演は長澤まさみ・斉藤由貴。この二人×三谷幸喜なんて絶品の組み合わせ。
東京公演開幕レポートをお送りします。
撮影:阿部章仁
とにかくチャーミング。長澤まさみと斉藤由貴が、非常に魅力的なのだ。
作・演出の三谷幸喜が取材や公演パンフレットなどで語っている思惑通り、俳優の魅力を存分に味わえる舞台に仕上がっている。
誰もが知る女流作家、清少納言と紫式部が現代に生きていたら......という設定。ふたりが審査を務める文学賞の前夜、清少納言(斉藤由貴)が紫式部(長澤まさみ)をホテルの地下にあるバーに呼び出すことから物語は始まる。《女流作家ふたりが言葉をぶつけ合ってバトルする物語》と聞いて、正直、開演前は少し構えていた。女性ふたりの侃侃諤諤にハラハラドキドキしながら、その火の粉が客席側にまで降り掛かり、自らも痛い感情を持ち帰らなくてはいけないのでは......と。その浅はかな予想は、いとも簡単に裏切られる。もちろん良い意味で。
撮影:阿部章仁
セリフだけ書き出すと冷や冷やするほどの言葉のバトルが痛く感じないのは、しっかりとエンターテインメントとして作り込まれているから。そして、俳優の力によるものがやはり大きい。開演早々、清少納言の不器用さに笑わされる。「いかにスマートに振る舞えるかを準備する」だけの場面。間と動きが絶妙で、品がある。一歩間違えるとガサツさにイラッとさせられてしまう行動が、とても可愛いく微笑ましい。芝居の巧さに定評のある斉藤は、コメディエンヌとしてもいかに素晴らしいかがよく分かる(テレビドラマファンには周知のとおり)。この絶品の演技で魅せる斉藤を相手にする長澤も、負けてはいない。まずは美しい。持って生まれたスタイルのみならず、目が離せないほど一挙手一投足が美しいのだ。そして大胆。清少納言を振り回す若い紫式部というキャラクターが浮かび上がる。
撮影:阿部章仁
舞台セットはバーカウンターとイスとソファーのみ。そのバーカウンターが回転し、顔と背中側の両面が味わえるという仕掛けになっている。この優れたふたりを余すところ見せたいという三谷の思いが感じられた。特筆すべきは背中側。観客も同じバーにいて、ふたりの会話に聞き耳を立てているような感覚になり、ドキドキ度が増す。ここで、「足」の動きに注目してほしい。セリフとしては書かれていない紫式部と清少納言の内面が見え隠れし、「それぞれどういう心情でいるのだろう」と想像を掻き立てられる。清少納言に同情したり、紫式部に共感したり......この「足」の芝居が、観る者の感想の分岐点のひとつとなっている気がした。
撮影:阿部章仁
長澤まさみと斉藤由貴は、同じ事務所に所属する先輩・後輩の関係。カーテンコールのふたりの表情を見て、「楽屋での様子はどうなんだろう。もしや、舞台裏でもバトルを......!?」なんてことを考えてしまうのは、もしや三谷の罠か――。そういう様々な妄想の時間をも持たせてくれる、ふたりの女優の巧みさとパワーに舌を巻いた。(金田明子)
東京公演は~11月30日(日)までPARCO劇場にて、大阪公演は12月11日(木)~21日(日)まで森ノ宮ピロティホールにて。その他愛知、福岡、長野、広島公演あり。
詳しくは下記チケット詳細にて。