「明治座 五月花形歌舞伎」が5月2日に開幕しました。
今年の明治座歌舞伎は市川染五郎さんの大奮闘公演といってもよいほどの活躍ぶり。
昼の部では『釣女』太郎冠者と『邯鄲枕物語』艪屋清吉の2役を、夜の部では『伊達の十役』に初役で挑んでいます。
さっそく見どころと観劇レポートをお届けします。
まずは昼の部『鳥居前』から。
平成生まれの若手が活躍するこの場面では、荒事の典型的な役どころである忠信を演じる中村歌昇さん、静御前を演じる中村米吉さんに注目です。
前半は静の見せ場。
愛する義経と離れたくない静は、西国への供に自分も加えて欲しいとせがみますが、許されません。
米吉さんの静はしぐさがいじらしく、愛らしいです。
後半、歌昇さんの忠信が登場します。
荒事特有の衣裳、鬘、隈取をした勇ましい姿は「ザ歌舞伎」の世界。
見ているだけでも楽しめる初心者にもオススメの舞台です。
歌昇さんは忠信という大きな役をやることに身の引き締まる思いだと伺いましたが、思い切りのよい芝居でスカっと演じていたようにみえました。
忠信は、実は狐の化身なので、幕切れ花道での引っ込みは狐六法で入るのもみどころです。
ほかに中村隼人さんの義経、中村種之助さんの武蔵坊弁慶。中村吉之助さんが早見藤太を好演していました。
続いて歌舞伎舞踊『釣女』。
ここから染五郎さんが出ずっぱりとなります。
内容は妻を娶りたいと願う大名が太郎冠者と一緒に縁結びの神様に参詣すると、一本の釣竿が落ちていたので、それを使って妻を釣り上げるという単純なお話。
お約束どおり、最初に大名が美しい妻を見事釣ると、太郎冠者も「ならば自分も」と勢い込んで釣るのですが...。
染五郎さん演じる太郎冠者の"お相手"は中村亀鶴さんです。
かなり凝った拵え(?)なので、ここはお楽しみポイント。
女性に言い寄られて困る太郎冠者を染五郎さんがやると、いい意味でリアルにみえるところが面白いです。
昼の部ラストは『邯鄲枕物語』(通称『艫清の夢』)。
こちらも『伊達の十役』同様、長らく上演が途絶えていたのを、平成5年に九世澤村宗十郎が「宗十郎の会」で復活上演。
この時の舞台を染五郎さんが見ていて、今回明治座での上演が実現したそうです。
お話は借金に苦しむ清吉が「金が欲しい...」と言いながら寝入ってしまうと、夢の中では金を使わなければ罰せられる世界になっていて、今度は金が使いきれずに途方にくれる...という、現実と夢での価値観が"あべこべ"になるところがミソ。
『忠臣蔵』の定九郎や『廓文章』の伊左衛門などなど、歌舞伎ファンにはお馴染みのキャラクターや設定がパロディで出て来るのもみどころ。
中村壱太郎さんが清吉女房おちょうと梅ヶ枝で出演。
染五郎さんとも雰囲気がぴったり合う感じではんなりした気分になりました。
大道具の"早替り"(?)もあったりと、俳優だけでなくスタッフも腕の見せどころですね。
染五郎さんはブログの中で「鱸清に関しては、演出を含めて日々進化しています」という書き込みをされているので、もしかしたら中盤、後半と変化する可能性があるかもしれませんよ!?
さて、お待ちかね夜の部です。
『伊達の十役』は三代目市川猿之助(現:猿翁)が昭和54年に明治座で164年ぶりに復活上演し、大評判をとった復活狂言。
みどころはひとりの俳優が十役を演じ分け、さらに40回を超える早替りでみせる趣向と、壮大な物語、そして歌舞伎ならではの仕掛けとスペクタクルな面白さが詰まっています。
物語は江戸時代に起きた仙台藩伊達家のお家騒動を背景に、お家乗っ取りを企む悪者と、それを阻止すべく善人たちが活躍するというお話。
こう一言で書いてしまうと単純な話のようにみえますが、鼠にまつわる妖術が出てきたり、因果話が絡んだり、そうかと思えば女同士の壮絶な戦いがあったりとみどころ満載です。
逆にストーリーが複雑そう...と懸念を抱く方もいるかと思いますが、それにもしっかり対応済み。
お芝居が始まる前に染五郎さんが口上で十役の役どころを巨大パネルを使って説明してくれます。
善役、悪役もわかるようになっていますので、早替りでどんどん役が変わっても安心してついていかれますよ。
さて、お芝居の発端では「悪」側の中心人物で足利家の重臣・仁木弾正、その父の亡霊赤松満祐、「善」側の絹川与右衛門が登場します。
この3役を染五郎さんが趣向をこらした早替りでみせると客席から「おーーー!」とどよめきが起きていました。
続いて序幕では悪徳坊主の土手の道哲と当主・足利頼兼という真逆な人物への早替り、遊女・高尾太夫とその妹で腰元の累、頼兼、与右衛門という男女の演じ分け&早替りも鮮やか!
鬘や着物はもとより、染五郎さんがそれぞれのキャラクターに合わせて演じ分けるので、ビジュアル的にも満足度が高く、見ているだけでも愉しめる場面です。
ちなみに道哲は美し過ぎる?かと思いきや、そこは工夫で、下卑た口調で観客の笑いを誘っていました。
序幕・第三場と二幕目で物語が動きます。
筋は未見の方のために省きますが、二幕目はいかにも歌舞伎らしい趣向が盛りだくさんです。
壱太郎さんが頼兼の許嫁で京潟姫というお姫様役で登場しますが、ほんとうに可愛らしいです。
若いからこその初々しさがぴったりはまっていました。
三幕目はいよいよ政岡の出番です。
ここは染五郎さんが"きちんとした物語をおみせしたい"と意欲をみせていた重要な場です。
古典の名作「伽羅先代萩」でも政岡は女方屈指の大役といわれる難しい役どころ。
その政岡に染五郎さんは今回初めて挑みます。
敵役、弾正の妹・八汐を中村歌六さん、栄御前の片岡秀太郎さんは流石の貫禄。
この手強い女性たちを相手に、毅然とした態度で臨む染五郎さんの政岡。
まさに"肚"でみせる渾身の芝居に惹き付けられました。
内容的には現代の感覚と違うところもあるので、昔はこうだったという物語としてみるとよいでしょう。
三幕目・第二場は短い場ですが若君を守護する荒獅子男之助と鼠(実は弾正)が戦います。
このふたり、十役に入っていますので、もちろん染五郎さんが演じます。どうやって戦うのかは舞台をみてのお楽しみ。
最後に弾正の美しい宙乗りもあります。デジタルに頼らずに美しく見せる歌舞伎ならではの工夫がここでも発揮されています。
四幕目で壮大な物語もついに終盤を迎えます。
十役のうち執権・細川勝元が言葉で悪者らをやりこめる場面が見どころですが、この勝元の染五郎さんがいい!
知的で品もあり爽やかな勝元はまさに本役といっていいでしょう。
渡辺外記左衛門の松本錦吾さん、その息子・民部之助の中村亀鶴さんも味のあるいい芝居で場面を盛り上げていました。
そして、クライマックスとなる最後の場では、発端で出てきた"あの要素"と道具が威力を発揮します。
なるほど、ここでこう繋がるのか!となりますので、最初に出てくる伏線をしっかり記憶して見るとより楽しめますよ。
公演は5/26(月)まで。
なお、チケットぴあでは当日引換券を発売中。