こまつ座『イーハトーボの劇列車』インタビュー&稽古場レポート

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井上芳雄、辻萬長、大和田美帆、木野花。
早くもと言うべきか、4人が囲むテーブルからは長年の時間を共にしたような"家族"と呼ぶにふさわしい温かい空気が伝わってくる。

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井上ひさしが書き上げ、1980年の初演以来、幾度となく上演されてきた宮沢賢治を主人公にした『イーハトーボの劇列車』(演出:鵜山仁)。
今回、14年ぶりの再演で賢治の一家を演じることになった4人に改めて本作の魅力を語ってもらうと共に、稽古場の模様をレポート!

農民の理想郷を作るべく幾度となく故郷の花巻から汽車で東京を目指し、そのたびに深い挫折を味わった賢治。
そんな彼が東京へと向かう汽車、そして東京での滞在先の様子を切り取っていく。

「一家を演じる」と書いたが、井上さんが全編にわたって賢治を演じる一方で、辻さん、木野さん、大和田さんは前半でそれぞれ賢治の父・母・妹を演じつつ、物語後半では全く異なる役柄を演じている。

賢治の親父の政次郎と花巻署の伊藤という刑事の2役をやります。この2つの役は全く関連性はないはずなんだけど、そこはお客さんに感じてもらうところ。実際、2役を演じ分けるという必要を感じないで演じています。

木野私は賢治の母親と東京の下宿先の未亡人。鵜山さんからは「賢治を温かい目で見守り、支える母性を象徴する役」と言われてます。賢治を包み込むような母性を見せたいですけど...いまのところたいして包んでないよね...(苦笑)。そのうち包むわよ(笑)。

大和田私は妹のとし子と最後に登場する女車掌のネリ。この2役に関してだけは、とし子を演じた女優が必ずネリも演じるようにという井上先生の指定があったんです。

ネリというのは賢治の2つの作品(『黄いろのトマト』『グスコーブドリの伝記』)で妹的な存在なんだよね。

大和田農業を頑張るお兄ちゃんがいて...というのはこの作品と重なります。賢治もネリを書くとき、妹のとし子を思って書いたんでしょうね。ネリの最後のセリフもすごく不思議です。井上先生にとってもすごく大きな意味があるんだろうなと。

井上この芝居、美帆ちゃんに始まり、美帆ちゃんで終わるんだよね(笑)。

そう言って笑う井上さんだが、井上さんが演じる賢治こそ出ずっぱり。方言や標準語を交えてのセリフ量も生半可なものではない。

井上分かっていたことだけど、改めてこんなに出るのか? とびっくりしてます。思いのほか大変ですね。でも、賢治という人物は、他人のために一生懸命に生きて、生きて、死んでいく。この一生懸命さが重なるなと感じていて、ヘトヘトになりながら演じてます。

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井上さんは井上ひさしの遺作『組曲虐殺』では賢治とほぼ同世代の作家・小林多喜二を演じ、昨年は『宮沢賢治が伝えること』と題した朗読公演にも参加。そして今回、井上作品で賢治を演じるのはどこか運命的ですらある。

井上朗読をやっておいてよかったなと思います。賢治の詩ってすごく不思議な言葉の連続なんですよ。僕は初めて読んだときは、「分からない」という印象が強かった。時間を経て他のいろんな作品に目を通して、賢治の生涯について知っていく中で、賢治が持っていた世界が理解できてきた。その前段階があってよかったです。5月ごろには、こまつ座の方たちと花巻にも行ったんですよ。何があるというわけでもない小さな町なんですけど、おじいちゃんやおばあちゃんたちが、みんなどこかで「自分たちがイーハトーブをつくるんだ」という精神を持って生きてるんです。有志で家の裏に畑を作っていたり。賢治の心がまだ息づいてて、繋がってるんだなと感じました。

今回の芝居の中にも「風の又三郎」「注文の多い料理店」といった多くの人が慣れ親しんだ作品からあまり知られていないものまで、賢治の作品からの引用やオマージュが見られる。

大和田随所にあるんですよね。木野さん、すごく詳しいんですよ。

木野私は賢治の詩集を読んでファンになったんですけど、とにかく驚いたんです。賢治の詩だけが違う世界というか、「生きるとは何か?」ということを考えさせるような、単に「良い詩だな」と気持ちよくなっていられない世界観があって。今回の井上さんの作品からは、そんな賢治の世界を描こうとする愛情を感じます。賢治が書いた人々ひとりひとりに愛情を注いで書いてくださったんだなと。

いたるところに賢治の作品と重なる部分が出てくるけど、そこは僕らが押しつけて強調するというよりもまずお客さんに楽しんでもらえたらと思います。

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物語の中心となる列車内での描写は、脚本だけ読んでもなかなかその"世界観"を想像することはできない。どのようにして立体的に表現されるのか? 楽しみなところである。

それは演出家の頭の中にあるね。こないだの立ち稽古で八場の列車のシーンをやったとき、初めて「ああ、こうしたいのか!」というのが分かった。

大和田脚本からだけだと全く分からないですよね。セリフがある人物以外はいないのかと思ったら、実は乗客として乗ってたり。私はとし子とネリの2役だけかと思ってたら、半分以上のシーンに出ることになってました(笑)。

演出家の頭の中にいろんなイメージがあるんだろうけど、必ずしもそれは完成形ではないんだよね。僕らにもまだどうなるのか分からない(笑)。

木野決してお客さんに何かを押し付けるのではなく、素直に作品を上演すれば見えてくるものがあると思います。鵜山さんも押しつけがましくなく、探りながら広がりを持って作っていく人ですしね。

井上僕は2作続けて鵜山さんの作品に出演しているんですが、前作はミュージカル(『二都物語』)で、その時とは作品を作っていくテンポが違うなと感じてます。今回は立ち稽古から通し稽古までの流れがすごく早いですね。イメージがどんどん膨らんでいってる気がして、すごく楽しみです!


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『イーハトーボの劇列車』稽古場レポート


 

稽古場に足を踏み入れると最初に目に飛び込んでくるのが円形の舞台装置。水平ではなくやや傾き加減になっており、場面に応じて――例えば汽車の動きや人々の動きに合わせて回転する。

この日、最初に稽古が行われたのは賢治が家出をし、汽車で新天地の東京へと向かうシーン。
舞台装置はもちろん、人の使い方も個性的。先述のインタビューでの大和田さんの言葉通り、井上さんが演じる賢治らそのシーンに出演する俳優以外も舞台の周囲に陣取り、彼らが「ダー!」「シュー」など声で機関車の効果音を表現していく。
賢治の心情やテンションによって「ダー!」「シュー」といった声の強さも変化する。
シーンごとのニュアンスや心境を表す重要な要素であり、時に演出の鵜山さんが壇上に上がり、実際に「ダー!」「シュー」と実演する一幕も見られた。
機関車の走る音が、リズムに乗ってやがて、賢治が唱える法華経の読経へと変化していくさまはジャズのセッションを聞いているかのように心地よく、セリフもないのに思わずくすりとさせられる。

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続く、東京の下宿先での賢治とその父の宗教問答も会話の妙を楽しませてくれるシーン。
浄土真宗を信仰する父に日蓮の教えを信じる賢治。
下宿先の未亡人を審判に互いの信念を戦わせるのだが、字面だけを追うと難しい専門用語が並ぶ宗教論争も、賢治と父の花巻弁全開のやりとりの中で、何ともユーモアあふれる"親子ゲンカ"になっていく。
ちなみにこのシーン、木野さん演じる未亡人が賢治の作詞作曲による「星めぐりの歌」を歌うところから幕を開けるのだが、コミカルな振り付けに合わせて美声を披露しつつも、木野さんが途中で歌詞を忘れてとっさに思いついた言葉で取り繕うと、稽古場はドッと笑いに包まれた。

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みどころのひとつに、賢治がシーンごとに方言と標準語を使い分けているのもポイント。
ただでさえ膨大なセリフ量の賢治だが、井上さんはすでに花巻弁と標準語どちらのセリフもしっかりと入っているようでセリフが飛ぶことはほとんどない。
貴公子然としたイメージの井上さんが方言でまくしたてる姿に違和感を覚えるのでは...? という余計な心配は全くの杞憂に終わった。
意外や方言を話す姿は堂に入っており、すっかり東北の地に溶け込んでいる。
花巻弁を使うか標準語を話すか、その言葉遣いによって一見、同じような汽車や上京先のシーンで、何年もの時の流れや賢治の心の余裕などがキッチリと表現されている。

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もうひとつ、物語のカギとなるのが"思い残し切符"なる不思議なアイテム。
それぞれのシーンで、みのすけさんが演じる車掌がどこからともなく現れ、現世に思いを残したままこの世を去った者たちの思いが込められた謎めいた切符を賢治に手渡す。
果たしてこの切符がどんな意味を持ち、賢治の運命をどう左右するのかが見どころなのだが、車掌の登場の仕方も様々。
それは観てのお楽しみのようです。
ここから鵜山さんのイメージとすり合わせながら完成へと近づけていくことになる。本番でどのようなシーンに仕上がっているのか楽しみだ。

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取材・文・写真:黒豆直樹


【公演情報】
『イーハトーボの劇列車』
[作]井上ひさし
[演出]鵜山仁
[出演]井上芳雄 / 辻萬長 / 木野花 / 大和田美帆 / 石橋徹郎 / 松永玲子 / 小椋毅 / 土屋良太 / 田村勝彦 / 大久保祥太郎 / みのすけ / 他

2013/10/6(日) ~ 11/17(日) 紀伊國屋サザンシアター(東京都)
2013/11/23(土・祝) ・ 11/24(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(兵庫県)
2013/11/28(木) 岩手県民会館 大ホール(岩手県)

チケットは発売中。

★お知らせ★
アフタートークショーの開催が決定!!
公演終了後に、出演者や演出家によるトークショーを実施します。

<トークショー開催日>
10/10(木) 13:30 鵜山仁、井上芳雄、辻萬長
10/14(月・祝) 13:30 鵜山仁、井上芳雄、大和田美帆、木野花
10/17(木) 13:30 井上芳雄、田村勝彦、土屋良太、小椋毅、みのすけ、辻萬長
10/24(木) 13:30 井上芳雄、大和田美帆、松永玲子、石橋徹郎、大久保祥太郎、鹿野真央
10/31(木) 13:30 井上芳雄、辻萬長、大和田美帆、木野花

該当公演のチケットをお持ちのお客様は皆様ご参加いただけます。

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