襲名1周年!六代桂文枝さんインタビュー

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45年間名乗り続けた「三枝」から、大看板の重責を背負って「文枝」へと華麗なる変貌を遂げた六代桂文枝さん。
昨年7月の襲名披露公演から1年、今年は襲名1周年記念公演で全国をまわり、各地に大きな笑いの渦を巻き起こしています。

現代創作落語を牽引する文枝さんの笑い創出の秘密とは?


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ネタおろしで臨んだ襲名披露公演。1周年記念公演もネタおろしで...
慌ただしい1年だったけれど、気持ちは落ち着いていた1年だったと、襲名から今日までを振り返る桂文枝さん。

「襲名を発表してから襲名披露公演までが、むしろ不安でいっぱいで、かなりやせたくらいで。でも襲名披露公演が始まったら、もう落語のことだけに集中するので、かえって気持ちが落ち着いてきましたね」


 落語には大きく分けて2種類の話があります。ひとつは古典落語。主に江戸時代に原型が創られ、明治、大正、昭和前期くらいまでにブラッシュアップされて現代まで残ってきた、時代設定が古いものです。こちらは同じ話を大勢の落語家が演じており、演者それぞれ個性などによる細かな違いはあるものの、おおむね同じように演じるのが特徴です。
 もうひとつは創作落語(新作落語とも)。主に現代の落語家が(故人になってしまった人もいます)自分の創意工夫で一から創る落語で、いまのところAさんの創った落語をBさんが演じるということはほとんどなく、創った落語家が自分で演じながらブラッシュアップしていくものです。

 桂文枝さんは長い時間をかけて200以上の創作落語を世に送り出しています。

「去年の襲名披露公演ももちろん創作落語で、それもその日初めてお客様にお見せする『ネタおろし』で臨みました。ネタおろしは緊張しますよ。お客様に喜んでもらえるだろうか、通じるだろうか、そりゃあもう緊張します。でもそれまでに充分出来る限り稽古したし、もうこれ以上できることはないというくらい準備してるんで、まあそう思って当日を迎えています」

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 そしてこの襲名1周年記念公演のために、新たな創作落語を生み出したという文枝さん。テレビ番組のレギュラーをはじめ、多忙の日々の中でどうやって創作の時間を確保しているのでしょうか。

「まずそのタネみたいなものを、日ごろから貯めておくんです。それはふっと思いついたことだったり、気になるものだったり、そういうのを書き留めておくんです」


 そうやって日常の中から、キーワードを拾い、タネとして手帳に控えておくと、やがてそれがある日パッと芽吹くとか。

「散歩の途中で寄る喫茶店があるんですけど、その店のマスターが、いろんな人の話を聞いてるんですね。それをわきから聞いてたり、あとで『こんな人がいて』ってマスターから聞いたりして、面白そうだなあと思うものを拾っておく。あとは病院なんかでも、Aという病院へ行って、次にBの病院へ行ったら、さっきAに来ていた人もそこにいたりして、それ面白いなあ、そういう病院巡りの話はどうだろうって、でもこれはまだ芽が出てない。すぐに出るのもあれば、何年も寝たままのタネもあります」


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「かっこいい!」というワクワクが生み出した名作『裕次郎物語』
 文枝さんの人気ネタのひとつ『裕次郎物語』も、誕生のきっかけは仕事の中の一コマだったそうです。

「紅白歌合戦の審査員をさせていただいたときに、館ひろしさんに裕次郎さんの話を聞かせてもらって『おお、かっこいいなあ!』と思って。僕らの世代はひとつ前の加山雄三さんの世代だったんで、今、裕次郎さんを身近に感じていた方からお話聞いて、かっこよさを再認識したんだから、これは縁があるし面白いと思って、何か話を創ってみようかなあと思い始めてやってみたんですが、どうもうまく行かない」

 そういうときに焦りは禁物。待てば海路の日和ありです。

「しばらくそのまま置いておいて、また違う形で落語にして、そういう風に、創っていくうちにどんどん変わっていくのもありますね」


 そして出来上がったのが、現在口演されている『裕次郎物語』。高座にかけてお客様の前で演じることで、その話の良い部分悪い部分が見えてくることもあるそうです。

「ネタおろしが未完成というのとはまた違うんですが、話によっては、あるいは時期によっては変貌していく方が良いときもあります。落語というのは『切る』ことが実はものすごく大事なんですね。稽古しているうちに『あ、ここは要らないな』とか『こことここは入れ替えて』とか、なんでこれを以前に思いつかなかったんだろう?というようなことが、よくあるんです。あとは舞台にかけながら、お客様に創っていただくというか、受けたところは残しながら、受けなかったところは受けるためにちょっと手を加えるとか、カットするとかしていきます。ただ、受けたらいいと言うんではないんで、例えば下品なこととかそういうのを入れても、それは一時的には受けても、残ってはいかない。そういうことをすると話が浅くなってしまうという笑いなら、ない方が良いくらいで。それは気をつけるようにしています」


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長く続けるコツは気持ち的に慣れないこと

 文枝さんといえば忘れてはならないのがトーク番組『新婚さん、いらっしゃい!』(テレビ朝日系列)でしょう。1971年1月に番組がスタートし、40年以上続いているという超長寿番組。文枝さんはその初回からずっと司会を務めています。

「まああの番組の場合は、毎回違うカップルが出てきて、『ええ、まだこんなん世の中にいたのか?!』っていうような(笑)、新鮮な驚きを与えてくれるんで、僕が新鮮にしなくても、いつもびっくりするようなことがあるんです。パリで収録やったことあるんですが、あのときはパリでは認められている、男同士の結婚したカップルが出てきましたからね。あれはちょっとまた例外の、新鮮の極みだったと思うんですけど。テレビでも落語でも同じなんですけど、マンネリにならないようにするには、気持ち的に慣れないことがだいじなんじゃないですかね。自分の気持ちが折れないで、新鮮でいられるのは、興味が湧いてくる、好奇心が湧いてくるってことが大事ですね」


 また司会者としていかに笑いを引っ張り出すかは、落語の中のやりとりと基本的にはそう変わらないと感じているそうです。

「流れに逆らわない。相手の言葉に対して、それをどう処理をするかなんですけど、それは司会者で出てるときも、クイズ番組の回答者で出てるときも、やっぱり笑いをとる箇所というのは、そんなに変わらないですね。ただ今のテレビは同じことを何回もは出来ない。長寿番組が出来にくい時代だとは思います。テレビというのはたくさんの方に見ていただけるメディアなんで、そのおかげで僕なんかも『あ、あの人知ってるからいっぺんちょっと観に行こうか』なんて、落語会に来ていただけるというのはあると思うんです。それは本当にありがたいことですね」


 襲名披露公演、続いて襲名1周年記念公演で全国各地をまわり、ファンの方々に笑いを直接届けている文枝さん。今回の独演会ももちろん、爆笑の大海原へみなさまをご案内!

「70歳まできて、まあやっと、自分でも自信の持てるような作品が出来たと思いますし、技術もやっと、自分なりに納得できるようなものになってきました。それをぜひともみなさまに観に来ていただけたら...。楽しい落語会になると思いますので、ぜひ足を運んでいただきたいと思います」

取材・文: 湊屋一子




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