4月13日(土)よりKAAT 神奈川芸術劇場 ホールにて開幕する『耳なし芳一』。
この作品は、日本文学の限りない可能性にチャレンジする、KAAT神奈川芸術劇場のNIPPON文学シリーズ第3弾として上演するものです。
芸術監督の宮本亜門さんが今の日本を思って選んだのは、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が書いた物語。
演出を宮本さん、劇作・脚本をタカハ劇団の高羽彩さんが担当し、キャストには、山本裕典さん、安倍なつみさん、益岡徹さんほか宮本さんが信頼を置く顔ぶれが揃いました。
開幕はいよいよ今週末です。
どんな作品になるのか気になっている方も多いのでは?
そこでげきぴあでは、この舞台にかける意気込みを語った山本裕典さんのインタビューをご紹介いたします。
☆インタビューは公演を主催する劇場の会報誌「神奈川芸術プレス」(4、5月号)に掲載されたものです。
~~~~~以下、会報誌より~~~~~~
舞台への挑戦は、自分をみつめ直す大切な時間
宮本亜門演出『耳なし芳一』に出演
テレビドラマや映画での華々しい活躍に負けず劣らず、舞台の上をも颯爽と駆け回り、観る者を惹きつける人気俳優・山本裕典。強い印象を残したのは演劇界の巨匠・蜷川幸雄とタッグを組んだシェイクスピア作品への挑戦だった。「成長の手応えを実感できた」と語る彼の次なるステップは、KAATのNIPPON文学シリーズ『耳なし芳一』の舞台。演出を手がけるKAAT芸術監督・宮本亜門との初の出会いを前に、これまでの、そしてこれからの舞台にかける熱い思いを聞いた。
●泣き崩れた経験を積み重ねて
--雑誌のコンテスト受賞をきっかけに芸能活動を始めた山本さんですが、当初から俳優志望だったんですか?
いえ、俳優になろうとはまったく考えていなかったんです。もともとはモデルの仕事に興味があったんですが、事務所からは「俳優として一人前になればモデルの仕事もできるから、まずは俳優の仕事を」と。運良くすぐに『仮面ライダー』のオーディションに受かったんですが、芝居に関してはまったく無知の状態でしたね。デビューから2年くらいはドラマとドラマの間の短いスパンの中でワークショップのような形の公演を行い、演技の勉強をさせてもらっていました。
--そこで演じることの楽しさを知って...?
いや~最初はキツかったです。今までの人生でダメ出しなんてされたことがなかったですから。上手くできない自分がもどかしくて、東銀座の歩道橋の下でマネージャーさん相手に「どうすればいいか分からない!」と2時間、泣き崩れたこともありました。 当時いろんな仕事の現場に行く度に、すごく気を遣っている自分を感じていたんですよね。どれが本当の自分なんだろう?と気持ち悪くなって、この仕事は自分に向いていないのかも、やめよう...と本気で思っていました。そんな時期に出演させていただいたのが劇団ONEOR8の『躾』(作・演出:田村孝裕)という舞台だったんです。僕に当て書きで台本を書いていただいたんですが、まさに"本当の自分は何?"という悩みをテーマとした作品。毎日真剣に取り組んで、公演をやり終えた時にはその悩みは吹っ切れていました。この時初めて、もっと芝居をやりたい、もっと勉強しなきゃいけないと本気で考えるようになったんですね。一つステップアップできたという実感もありました。
--その後『じゃじゃ馬馴らし』や『トロイラスとクレシダ』など演出家・蜷川幸雄さんとともに作り上げた舞台によって、俳優・山本裕典さんの魅力が演劇ファンにも広く知れ渡ったように感じます。
本当に勉強になったし、自信をつけていただいたと思っています。稽古中に一度風邪で高熱を出してしまい、それを隠して稽古に出たことがあったんですね。長台詞を言わなきゃいけないのに、ぼうっとしちゃって舌が回らない。そうしたら蜷川さんが怒って台本を
バーンと投げ捨てたんです。「お前な、こういう台詞が言いたくても言えない役者がごまんといるんだよ!もっと責任持って、勇気を持って芝居しろ!」と言ってそのまま帰ってしまった。その場に崩れ落ちてヒイヒイ泣きましたよ(笑)。その時先輩の役者さんに言われたんです。「お前のようにテレビに出ている役者の台詞は、いくら滑舌が悪くてもお客さんが聞こうとしてくれる。俺らは言えて当たり前。だけど、お前が台詞を言えるようになったら俺らはかなわないぞ。お前に絶対に負けたくないから俺は台本を二百回、三百回と読み込む。裕典、お前ももっと読み込んで来い」と。そこから死ぬ気で稽古に取り組みました。 批評記事を読んでヘコんでいた時には、蜷川さんに「言われるうちが花なんだよ。どこかで見返そう。俺がシェイクスピアのできる役者に育ててやるから」と言われて、また泣いてしまった(笑)。まだまだ未熟だけど、上手くなりたい、表現したいという意識があれば見ている人には伝わるんだと信じて、今後も成長を目指して一つ一つの作品に取り組んでいきたいと思いましたね。
●勉強のすべてが宝になる
--そして今回、また新たな舞台『耳なし芳一』で演出家・宮本亜門さんと出会います。
お会いするのはこれからなので緊張しますよ~!でも以前、大東俊介(現・駿介)くんが舞台『金閣寺』(演出:宮本亜門)のことをすごくイキイキと楽しそうに話していたんですね。それを聞いて、いい環境の中で芝居をやっているんだろうなと思っていました。今回のお話をいただいた時はワクワクして、宮本さんってどういう方なんだろうとネットですぐ調べたりしました(笑)。 これまでシェイクスピア作品などをやらせていただきましたが、今回は日本の、しかも現代劇ではない昔話。僕にとっては初めての挑戦です。家族に舞台の話をしたら皆ストーリーを知っていて、父は「お前、坊主にするのか?」って(笑)。琵琶を弾くことになると思うので、琵琶の稽古は早めに始めたいですね。以前、舞台でギターを弾く役を演じた時は毎日ギターを手放さずにいたんですが、今回は琵琶とともに過ごすことになりそう。ほかにも、その時代の人物の立ち居振る舞いなどを一から勉強していかなくてはと思っています。そういった勉強のすべてが自分の宝となって、次の機会絶対に活きてくると思うので。
--ご自身にとって舞台に立つことの意味をどのように考えていますか?
じっくりと稽古をして、本番に向かう。その舞台のことだけを考えて過ごす期間は、自分をみつめ直せる時間だと考えています。どこか心に余裕が生まれて、せかせかと動いていた時の自分を振り返って、引き出しの整理整頓ができるんです。あ、こんなことをやったな、こんなこともできるようになったな、ここはもっとああすればよかった...というように。ドラマの現場で経験値を積んで前に進み、一つ舞台をやるごとに階段を一段上がる。そんなイメージがありますね。年に一、二本は舞台をやっていきたいと思っているので、今年は早いタイミングで『耳なし芳一』に挑戦できることを幸運に思っています。
取材・文 上野紀子
撮影 大野純一