三谷幸喜版『桜の園』が6月9日(土)、PARCO劇場で開幕した。
今なお世界中で上演が繰り返されるアントン・チェーホフ「4大名作」のひとつ。
とはいえ、ロシアの世界的文豪が約100年前に書いた戯曲と聞けば、何やら分厚い百科事典でも目にするようで、早くもまぶたが落ちそうになる。が、三谷版は違った!
手始めに前座と称して出演者の青木さやかが登場。「桜の園が、ガンガン倒れるぅ♪ 」と悲しき物語の顛末を陽気なメロディにのせて歌い始めたかと思えば、最後には「アントン?」「チェーホフ!」とまさかのコール&レスポンス!
続く開演アナウンスでは三谷自身がロシアン風味な味付けで笑いを誘うなど、のっけから観客を大いに沸かせた。
本作は転換期のロシアを舞台に没落していく貴族の姿を描いた物語。悲劇的内容からシリアスに上演されることが多い戯曲だが、チェーホフはこれを「四幕の喜劇」と書いた。
そこに共感した三谷が翻案・演出を務め、文字通り「喜劇」として上演しようというのが今回の試みだ。
例えば冒頭のシーン。小間使いのドゥニャーシャは固い表情でたたずむが、それは5年ぶりに帰郷する奥様の到着を意識してのことと捉えるのが通例だった。
しかし、三谷版ではそこに逢引のエピソードを加えることで、彼女のドキドキを仕事への緊張から恋のときめきへとすり替えてみせたのだ。これにより同じ設定でも受ける印象は全く別ものになって...と、本編ではそんな三谷マジックが目白押し!
斬新な解釈に原作ファンは目からウロコの感動を、初心者はホームコメディを見るような気楽さを感じるはずだ。また、生まれながらに気品漂う主演の浅丘ルリ子を始めキャスティングも抜群。
とりわけお笑い畑の藤井隆と青木さやかの存在が効いている。
吉本新喜劇出身の藤井が、禿げ上がった前髪を爽やかにかきあげ理想に燃える大学生を喜々として演じれば、一方の青木も持ち前の瞬発力で「愛する人がいない!」と絶叫、自爆するエキセントリックな家庭教師役を見事に体現。ペットの猿を溺愛し、趣味の手品を披露するシーンは見ものだ。他にも、聖女の顔で毒を吐く養女や奥様想いの実業家、嫌味な二枚目召使いに不幸体質な事務員、飄々と金をたかる地主仲間から老化現状の激しいボケ執事まで、異なる個性が弾け合い思わぬ化学変化に引き込まれるノンストップの130分。
配役から笑いどころの配分まで、すべてにおいて「絶妙」の二文字が浮かぶ三谷版『桜の園』。世紀を超えて実現した日露2つの才能が紡ぐ夢のコラボレーション傑作、堂々の世界初演です!
(取材・文/石橋法子)