●よこやまのステージ千一夜●
先日、ニュースでも配信しましたが、
現在、池袋・あうするぽっとで上演中の舞台『ピグマリオン』の公開稽古と会見にお邪魔いたしました。
ここでは、ニュースでは書ききれなかったこぼれ話をお伝えします。
ジョージ・バーナード・ショーが描いたこの戯曲は、
ミュージカルや映画でおなじみの『マイ・フェア・レディ』の原作としても有名。
ラストや細かい違いを除けば、大筋は『マイ・フェア・レディ』と同じですが、
2作品の大きな違いは『マイ・フェア~』は花売り娘のイライザが主役であるのに対し、
『ピグマリオン』はイライザの訛りを矯正する言語学者ヒギンズが主演を務めます。
主演のヒギンズ役は、初舞台の市川知宏さん。
「第21回 ジュノンスーパーボーイ」のグランプリ受賞でデビューされ、
最近ではドラマ『美咲ナンバーワン!!』や
昨年公開の映画『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』での活躍で
ご存知の方も多いと思います。
お相手のイライザ役は、高野志穂さん。
NHK連続テレビ小説『さくら』の主演を務めたことでもおなじみですね。
ほかに、ナイロン100℃のみのすけさん、浦嶋りんこさん、
D-BOYSの加治将樹さん、尾藤イサオさん。
舞台畑の手練の役者に囲まれて、初舞台の市川さんは大奮闘していました。
この例えが適切かどうかはわかりませんが、
ヒギンズの役どころは、『西遊記』の三蔵法師のようなもの。
孫悟空、猪八戒などお供の相手を三蔵法師が延々するように、
ヒギンズは舞台に出ずっぱりで、ほかの出演者とのやりとりをずっと続ける役柄です。
よって、市川さんのセリフの数は膨大。
そんな前情報を頭に入れながら、会見の様子をご覧ください。
市川「いつかは舞台をやってみたいと思っていました。10代のうちに主演という形でやらせていただくのはありがたいことと思ってはいますが、それと同時に(まだまだ経験不足なのに)ちょっとマズいんじゃないのかな?と。予想以上に大変でした。映像と舞台は違うものという感覚があって、舞台は(カットがかかることなく)一連で芝居するもの。その経験がないのに芝居ができるものかなと不安もありましたが...。自信ないんです...やっぱり難しい」
長身でスラっとしていて、見た目は飄々としているのですが、口をついて出る言葉は舞台に対する不安。
とにかく、正直な方です。ほとんど舞台上では喋りっぱなしなんですから。
そんな市川さんを陰になり日向になり支えているのは高野さん。
本当に昔から知り合いのお姉さんのようです。
市川さんについて訊かれると...?
高野「いやあ、本当に19歳でここまでよくぞ芝居に食らいついていると思います、それもめげずに。これは上から目線ではなく、単純に私も初舞台で主演(※)をやらせていただいた経験があるので、そのプレッシャーたるやとてつもないんですよね。自分が稽古をやる前までに準備をしていたことは全く足りなかったという経験を私もしているし、その上、私の舞台のときよりもさらに大変な役なので、彼の不安はよくわかります。自分のなかでの葛藤などがいっぱいあるだろうに、それを彼は外に出さずに常にニュートラルな感じで現場に来るので、『今、彼、"陰"(=ブルー)になってるかな?』と周りに心配をかけないタイプ。大人だなと思います」
※...NHKテレビ小説『さくら』は放映後、同じ年の2002年に舞台化された。
そんな感心しきりの高野さんに、市川さんは小声で
市川「僕、今が一番"陰"です...」
すかさず高野さん、大フォロー。
高野「そうだよねえ?! 大丈夫!! 大丈夫!!」と、市川さんの背中を軽く叩いていたのが印象的です。
また、稽古場や手練の共演者の皆さんのエピソードを伺うと...?
高野「尾藤さん(=イライザの父親役)はちょっと後に登場するのですが、その現れたときのエネルギーで一気に舞台の空気を変えるんですね。そのパワーに舞台初チャレンジの市川くんが感化されていくのが、舞台袖で聞いていてわかるんです。尾藤さんのエネルギーをもらってその後動いていくというのが、セリフの音を聞いているだけでわかります。そのあたり、尾藤さんは凄いですね」
なるほど!
一方、市川さんは...
市川「凄いなと思ったのは、皆さん稽古終わりで飲みに行くんですよ。僕、まだセリフが入っていない段階で、皆さんもそれほど入ってはいなかったと思うんですけれど。よく皆さん行かれるなあ、体力が続くなあ、と」
高野「(ご一緒したとき、皆さん)ずっと芝居の話をしていましたね」
市川「(皆さん)体力が凄い!!」
市川さん、凄いと思うのはそこですか......(笑)!? もしかして草食系...でしょうか!?
舞台への不安を隠すことなくまっすぐに作品に向かい合い、
とぼけた答えで会場を笑わせてくれている市川さんですが、
ステージ上では大健闘です。
「上手く演じよう」というような色気を出すことなく、
とにかく体当たりで演じています。
ぶっきらぼうでワガママでずるくて男尊女卑で淋しがりやで、
でもどこか放っておけない。
そんなヒギンズ像がここにあります。
市川知宏さん主演の『ピグマリオン』は、池袋・あうるすぽっとにて
9月4日(日)まで上演中です。演出はTHE SHAMPOO HATの赤堀雅秋さん。
チケットは現在発売中です。