劇団山の手事情社 vol.01  from 安田雅弘

シビウのこと

「海外の演劇祭はいま、どこが面白いですか?」
と聞かれたら、ためらいなく、
ルーマニアのシビウ国際演劇祭とこたえる。

劇団 山の手事情社の演出家、安田といいます。

3年前にふらりとおとずれたシビウはほんとうに刺激的だった。
その1年前におとずれたロンドンで感じた閉塞感とは対照的だった。
いろいろなことにびっくりしたのだが、
まずはそこで上演されていた芝居のレベルの高さだろう。

ハイレベルな演劇ってどういうの?

それについての共通認識がないことが、
実は日本の現代演劇のもっとも大きな問題だったりする。
まぁ、それはしばらくおいておく。


せりふのほとんどない斬新な芝居もあれば、
「さすがっ」と叫んでしまいそうなしっかりした解釈の古典劇もあった。
そのバラエティと、俳優・スタッフワークの明確なコンセプト。
まずはこれにしびれた。
たとえば、斬新の例でいうと、
『ヨブ記』という芝居があった。
聖書の『ヨブ記』を芝居にしたものなのだが、
スポンジを敷き詰めた部屋に黄色い風船がたくさんころがっている。
アクアラングをつけた女優が手にした棒を
京劇の孫悟空が如意棒をあつかうようにひゅんひゅんとふりまわしながら、
次々と風船を割っていく。パンッ、パンッ。

なんじゃこりゃ。

と思う。わたしたちがいる客席はというと、
その部屋を取り囲む壁に沿ってぐるりと椅子が置いてある。
壁のところどころに小さな窓があいていて、観客はそこから舞台を覗く。
そしてふしぎなことに、
見ているうちに主人公・ヨブさんの苦悩と偉大さが伝わってくる。

変でしょう。

いい芝居はことばがわからなくても面白い。

で、そんなフェスティバルを見てしまったわたしは、
地上にこんな場所があるならば、参加しないわけにはいかない!
っとばかりに、芝居をもって出かけることにした。
運のいいことに、
去年、シェイクスピアの『タイタス・アンドロニカス』を、
今年は、ギリシア悲劇の『オイディプス王』を上演させてもらった。
そのもよう、そしていますすんでいる稽古場のようすを、
これから、わたしと劇団のメンバーで、
ランダムに、身勝手に、書きつづって行きますね。

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