2020年9月1日、吉田都が新国立劇場の舞踊芸術監督に就任した。任期最初のシーズンの開幕は、古典バレエの傑作『ドン・キホーテ』。大原永子前芸術監督在任中の5月に上演を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でキャンセルとなった演目だ。吉田新芸術監督に、作品の魅力と今後の抱負を聞いた。
「任期は4年間。やるべきことをどんどんやっていかなければいけないけれど、とても楽しみ。ワクワクしています! こういう時だからこそ、劇場をサポートしよう、応援しようという空気が強く感じられて、ありがたいです」と吉田は就任直後の思いを明かす。
最初の公演『ドン・キホーテ』は、セルバンテスの同名小説を題材とした、マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴルスキー振付による古典バレエの傑作。スペインを舞台に繰り広げられる若い男女の恋物語は、民族舞踊を取り入れたダイナミックな踊り、闘牛士やジプシーたちの活躍、森の妖精たちの美しい群舞に加え、コメディの要素たっぷりと、堅苦しさとは無縁の楽しいバレエだ。6組の主役キャストが日替わりで登場、日本のバレエ公演としてはめったにない豪華さも話題に。「大原永子先生が強い思い入れをもって組まれたキャストです」と、吉田は前任者の気持ちをしっかりと受け継ぐ。
「開幕にふさわしい舞台です。クラシックの要素も、コミカルな演技も楽しんでいただける『ドン・キホーテ』には、バレエの醍醐味が詰まっている。様々な演出が上演されていますが、新国立劇場のアレクセイ・ファジェーチェフ版は、その中でも最もオーソドックス。ここを押さえておけば!という作品です」
出演するダンサーたちについても、「先日、一人ひとりと面談をしたのですが、皆、個性あふれるダンサーたちです。でも意外と、ステージに上がるとそれをひゅっと引っ込めてしまう(笑)。舞台でももっとそのキャラクターを出してほしいので、『ドン・キホーテ』はぴったりだと思うのです!」と笑顔で語った。
英国ロイヤル・バレエ団初の日本人プリンシパルとして活躍した吉田。演劇の国で長くキャリアを積んだ彼女の指導力が、今後、どう活かされていくかも興味深い。自身の経験から、一人ひとり、いまいちど基礎に立ち返ってもらいたいとも強調。
「技術的なことはバレエスタッフが細かく見てくれるので、私はもっと演じること、見せることに意識を向けています。理想はすごくクリアにある。皆にはもっと自由に表現してほしい」
1月の〈ニューイヤー・バレエ〉、2月の〈吉田都セレクション〉ほか、趣向を凝らしたラインナップにも期待が寄せられるが、実は、「この劇場のオリジナル作品が意外と少ないということにも気づきました」と新たな課題にも触れた。当初、シーズン開幕に予定されていた『白鳥の湖』は、海外からの指導者、スタッフの招聘が叶わず延期せざるを得なくなった。そんな中で、「バレエ団のカラーをもっと出し、自分たちで育てていける作品が必要ということも感じたのです」と意欲を示す。
バレエの楽しさを、もっと多くの人に知ってもらいたいという思いも強い。
「今回の舞台は、有料動画配信という新たな試みに取り組みます。リハーサル風景の生配信の予定も。そうすれば日本全国の方にもバレエを楽しんでいただけますね。海外からのお申し込みもいただいています。劇場の中でも、もっとバレエを知ってもらうためのエデュケーショナルな企画にも取り組んでいきたい」
すでに様々なアクションを起こしている新芸術監督。『ドン・キホーテ』は、まさにそのスタートとなる晴れやかな舞台となる。公演は10月23日(金)から11月1日(日)、東京・新国立劇場オペラパレスにて。
加藤智子