日本文学の先達への憧れとリスペクトを込め、シス・カンパニーと劇作家:北村想が新作戯曲をお届けするシリーズ「日本文学シアター」。斬新かつ繊細な北村想独特の感性から紡がれる言葉のきらめきで、多くの演劇ファンをうならせてきた人気シリーズです。その待望の第6弾『風博士』東京公演が、11月30日(土)に東京・世田谷パブリックシアターにて開幕した。
本作は題名の通り、坂口安吾の短編「風博士」や「白痴」等が創作のインスピレーションだが、そこは大胆不敵な劇作で知られる北村想のこと。原作の舞台化とは全く意味合いが異なる、100%オリジナルの物語が展開します。しかし、全編に流れるのは、まさしく坂口安吾へのリスペクトそのものだ。観客は、その美しい言葉の数々に涙し、時にはミステリアスで、時にはユーモラスな展開に笑いながら、この世界を旅していくことになるだろう。また本作は、音楽劇やミュージカルとは銘打っていないものの、出演者全員がその心情を歌で紡いでいくところも見どころ。
<あらすじ>
戦況が厳しくなったある大陸。果てしなく広がる青空の下、とある商売を営むフーさんという男がいた。風を読み、風を知り、風を歌い、はるかな大陸をただ生きるこの男...。どうやら、もともとは風船爆弾を研究する科学者だったらしい。そのためか、「風博士」と呼ばれるフーさんの周りには、不思議な人々が集まり、心を通わせながら、彼らもまた生き抜いていた。日々のささやかな喜びも苦しみも悲しみも、すべては吹き抜ける風まかせ......。そして、戦況は悪化の一途をたどり、果たして彼らの運命は...?
初日を終えたキャスト陣のコメントはこちら。
中井貴一
稽古に入ってから、こんなに泣ける芝居だったのか、、、と驚かされました。戦時中の話ですが、反戦を声高にうたっているのではなく、必死にその時代をただ生き抜く人たちが描かれています。つくづく、北村想さんは文学をエンターテイメントにするさじ加減をよくご存じの方だなあ、と思いました。戯曲の捉え方は人それぞれでしょうが、お客様がさまざまに想像できる余韻を残せたら、と思っています。
段田安則
過去に出演したシリーズ3作も、原作とは違う世界が広がって楽しかったんですが、今回も、原作とは全く別モノで戦時中のお話です。戦争は兵隊だけでなく、その周りの人も悲惨な目に遭わせます。そんな時代に、どんな人がいて、どう生きてきたのか...。皆様には、北村想さん独特の「それ無茶苦茶では?」という破天荒な展開を楽しんでいただきつつ、心に響く何かを感じ取っていただきたいと思っています。
吉田羊
北村想さんの戯曲は言葉遊びに満ち魅力的で、寺十さんの遊び心に溢れた演出で、キャラクターたちが生き生きとしてくるのには目を見張りました。死と隣り合わせの環境の中、それでも全力で生き抜く人たちを明るく軽やかなタッチで描いていますが、その明るさが逆に悲しくもある...。お客様には、笑いながらも、その背中合わせにある悲しみや怒りといった感情を汲み取っていただけたら嬉しいですね。
渡辺えり
北村想さんは同世代の演劇人ですが、その作品を役者として演じるのには、いつも難しさを感じて、今回も悩みながらの稽古でした。最初に、この台本を読んだときに反戦への思いを強く感じました。私が演じる梅花のように、実際に大陸に渡った女性たちの真情を思うと切なくなります。彼女たちの存在を「なかったこと」にしないためにも、当時の女性たちのリアルさを出せるようにしたいと思っています。
<公演情報>
【東京公演】
2019年11月30日(土)~12月28日(土) 世田谷パブリックシアター
【大阪公演】
2020年1月8日(水)~1月13日(月・祝) 森ノ宮ピロティホール
【作】北村想
【演出】寺十吾
【音楽】坂本弘道
【出演】
中井貴一 段田安則 吉田羊 趣里 林遣都 松澤一之 渡辺えり 内藤裕志 大久保祥太郎