『あの出来事』銃乱射事件の関係者の言葉が紡ぎ出すもの

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小川絵梨子芸術監督の2シーズン目が幕を開けた新国立劇場。個人と全体(=国家や社会構造、集団のイデオロギーなど)の関係性をテーマにした"ことぜん"シリーズの第2弾は、

新国立劇場初登場のミナモザの瀬戸山美咲を演出に迎え、2011年にノルウェーで起きた銃乱射事件をモチーフにした『あの出来事』(作:デイヴィッド・グレッグ/訳:谷岡健彦)を上演。

初日を約2週間後に控えた10月下旬、稽古場に足を運んだ。

今年3月に日本でも上映された映画『ウトヤ島、7月22日』でも描かれている、ノルウェーのウトヤ島で起きた、極右思想の青年による銃乱射事件を題材にした本作。

事件の生存者である合唱団指導者の女性・クレアが、事件の輪郭を知るため、そして少年を"人間"として捉えるべく事件後、様々な関係者とひとりずつ対話していくさまを描く。

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 メインキャストは南果歩小久保寿人の2人のみで、南がクレアを演じるが、興味深いのは、小久保が犯人の少年に加えて、

クレアが対話をする人々――精神科医、少年の父親、政治家、ジャーナリスト、少年の友人など、全ての関係者をひとりで演じ分けるという点。

クレアにとっては事件後に出会う人々の顔がみんな、犯人の少年と同じに見えるとも捉えることができる。

この日の稽古では冒頭、乱射事件のシーンを含め、いくつかのアクションの動きの確認が行われ、そのうちのひとつが、

クレアのことを心配する彼女の同性のパートナーとのケンカのシーンだったが、この同性のパートナーさえも小久保がそのまま演じる。

続いて稽古が行われたのが、少年の父親、少年の思想に影響を与えたとされる本を執筆したジャーナリスト、少年が党員として属していた極右政党の政治家、そして少年が通っていた学校で共にいじめられっ子だったという同級生とのシーン。瀬戸山は、この4人とクレアの対話シーンについて「この4人で、(この作品が)何を示しているのかがハッキリ見えてくると思う」と語る。

中でも、少年の父親とのシーンは「被害者」と「加害者の家族」の対峙であり、瀬戸山は「このひと(=父親)をしっかりやらないと、この芝居の根っこができない」と特に重視。

この日の稽古でも様々なパターンを試し、議論を重ね、時間をかけて少しずつふさわしいニュアンスを付け加え、人物像を作り上げていく。

この父親のキャラクターがなかなかのクセモノ。劇中でも語られる彼の言動、態度が少年の人格にも大きな影響を与えたことは想像に難くなく、クレアとの対話の中でも、

どこかふてぶてしさ、傲岸不遜さをうかがわせる。

もちろん、自分の息子が世界を震撼させる大量殺人を起こしたということで、事件後、彼もまた厳しい境遇にあることは間違いないのだが、

瀬戸山が小久保に求めるのは、父親が感じている"つらさ"の質の表現。事件から約1年後ほどではないかという物語の設定を踏まえつつ、

瀬戸山は「現在進行形で泣き出しちゃうような状態はもう通り過ぎてると思う。そうではなく(息子や事件のことが)理解さえできていない苦しみがある」、

「モラハラおやじっぽさ」「男性優位のヒロイズム」「根がマッチョで、その呪縛に息子は苦しんだと思う」など、かなり辛辣な言葉で評し、その人物像へのヒントを小久保に与えていく。

稽古場では南も積極的に発言。日本人と欧米の人々の宗教観、"死"や"魂"といったものへの捉え方の違いや極度の哀しみや苦しさに遭遇したときの人間の感情の出し方などについて、

瀬戸山、南、小久保で語り合う姿も見られた。

本作で小久保は犯人の少年をはじめ、先述の父親以外にも異なる性別、民族、思想の人物を

クレアとの短いやりとりの中で表現せねばならず、

通常の演劇で求められるものより質、量ともに大きいだろう。

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そして、南が演じるクレアは、単に「かわいそうな被害者」などという言葉でくくれない深さを持った人物である。

もともと、難民や移民、シングルマザーなど多様な人物を集めた合唱団で指導をしていたという経歴、そして事件後も、

単なる怒りや悲しみだけを動機に関係者と対話をしているわけではなく、被害者でありながら、時に周囲から心ない言葉を浴びせられることも...。

クレアと彼女が対峙する者たちが繰り出す言葉、感情は、事件の全体像や犯人の人物像のみならず、"社会"の輪郭を浮かび上がらせていく。

ひとりひとりとの対話の積み重ねの末、最後にクレアは刑務所に赴き、少年と面会を果たす。そこで彼らはどんな言葉を交わし、何を見出すのか――?

『あの出来事』は11月13日より新国立劇場にて上演。

取材・文:黒豆直樹

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