『ジキル&ハイド』『スカーレット・ピンパーネル』『マタ・ハリ』等、数々のヒットミュージカルの音楽を手掛けるフランク・ワイルドホーン。
彼の生み出した珠玉の名曲たちを、豪華スターが歌いつぐミュージカルショーFRANK WILDHORN & FRIENDS 2019が10月に東京にて開催されます。
メインアクトレスは柚希礼音。
元宝塚歌劇団星組トップスターとして人気を誇り、退団後はミュージカルに、音楽活動にと活躍中。
昨年はワイルドホーンの手掛けた『マタ・ハリ』日本初演に主演したのも記憶に新しい彼女。
今年は芸能活動20周年を迎え、いっそう精力的に活動しています。
女優としてひっぱりだこの柚希さんですが、いわゆる「ミュージカルコンサート」に出演するのは意外なことに、今回が初。
柚希さんにワイルドホーンさんの楽曲の魅力や、コンサートに挑む心境などをお伺いしました。
★ 柚希礼音 INTERVIEW ★
―― 柚希さんはこれまでにフランク・ワイルドホーンさんの作品は『スカーレット・ピンパーネル』(2008年の宝塚星組公演)、『マタ・ハリ』(2018年)にご出演されています。ワイルドホーンさんは日本でも、その楽曲はもちろんご本人の人柄もミュージカルファンの間ではお馴染みですが、最初にお会いしたのは『スカーレット・ピンパーネル』の時でしょうか?
「はい。わざわざ来日されて歌稽古をしてくださったのですが、その時に初めてお会いしました。ワイルドホーンさんがいらっしゃる前にも稽古は進めていたのですが、彼がピアノを弾いてくださって、それにあわせて歌ったときに「なんて素晴らしい楽曲なんだ!」って思ったんです。緩急やテンポが、ドラマチックなんですよね。この方がこの素敵な音楽を作ったんだ......いや、こういう方が作られる楽曲だから素敵なんだ......って思ったのを覚えています」
―― 中でも『スカーレット・ピンパーネル』で柚希さんが演じたショーヴランには、『君はどこに』という素敵なナンバーがありますね。
「そうなんです、まさに『君はどこに』で思ったんです。"タラララ、タラララ"と音取りをしている段階では「これはどういう歌なんだろう...?」と思っていたのに、ワイルドホーンさんが弾いてくださったら、切なさや複雑な感情が一気に伝わってきて「こんな素敵な曲なんだ!」とわかった(笑)。元々ご自分でピアノを弾きながら作曲される方だからでしょうか、さすがですよね。その後『マタ・ハリ』の時も思ったんです。まだ役作りが見えていないときから、音楽が役作りを引っ張ってくれるようだな、と」
―― 昨年は『マタ・ハリ』でタイトルロールを演じていらっしゃいます。今度は女優としてワイルドホーンさんの楽曲に向き合われたわけですが、ショーヴランの時とは違いましたか?
「全然違いましたね! でもマタ・ハリはソプラノの細く高い声というものではなく、豊かな低音から力強さを保ったまま高音までいく。最初に観たのが韓国でオク・ジュヒョンさんが演じていたマタ・ハリでしたので特に力強くカッコよく、わたしも挑戦してみたい!と思う楽曲でした。実際演じるとやはり難しいのですが、その前に「好き」と思ってしまうんです。好きだから歌いたい、"練習したい欲" が湧く感じです(笑)」
―― この2作品からは、コンサートでも披露してもらえる......と期待しても良さそうでしょうか?
「はい!」
―― ちなみに柚希さんがこういった「ミュージカルコンサート」に出演されるのは珍しい気がします。『プリンス・オブ・ブロードウェイ』も既存のミュージカルの名曲でしたが、あれはショーという形のものでしたので...。
「そうなんです、初めてです。でも、もともと意図的にやらなかったわけではなくタイミングが合わなかっただけなんです。今回ワイルドホーンさんに熱くお声がけいただき、ワイルドホーン作品は私にとって転機になったものだということもあり、やってみよう! と、飛び込むことにしました」
―― こういったコンサートですと、共演の方との意外なデュエットソングなども期待してしまうのですが、今回の共演者はジャッキー・バーンズさんと、マシュー・ジェームス・トーマスさん。
「まだお会いしたことがないのですが、めったにない機会ですよね。全部英語だと思うと......(ため息)」
―― 日本勢は柚希さんだけですから、緊張しちゃいますね(笑)。
「そう、(責任が)ずしり(笑)。でもコンサートで、歌手が3人だけというのもちょっと珍しいですので、それぞれのキャラクターもたっぷり味わっていただけるのではないでしょうか。あとフランクさんとのトークも楽しみにしています!」
―― そうそう、前回のこのシリーズを拝見しましたが、意外とラフにワイルドホーンさんが喋っていらして、いい意味で肩の力の抜けた楽しさがありました。
「そうなんや~。でも確かに役を通して舞台に立つのではなく、普段の柚希礼音としてのステージですから、楽しんでいこう、って気持ちでいきたいですね。いまは難しい曲がいっぱいあったらどうしよう? ってドキドキしていますが(笑)、あれもこれも欲張りすぎず、私自身が楽しめるように!」
―― きっとお客さまも、楽しんでいる柚希さんを見たいと思うと思います! ほかに挑戦してみたい楽曲などはありますか?
「私、来年ミュージカル『ボディガード』に出演するのですが、ワイルドホーンさんは『ボディガード』の劇中歌も何曲か手掛けていらっしゃるんですよ。残念ながら私の演じるレイチェルの楽曲ではないのですが。せっかくならそれを歌いたいのですが、自分の役じゃないから難しいかなぁ......。あとはもう、本当にたくさんのミュージカルを作っていらっしゃるので。どれか私に合うものがあれば歌ってみたいのですが、それはまだ、これからのお楽しみです」
―― ちなみにこれまでにワイルドホーンさんに言われて印象的だったことはありますか?
「そうですね...、びっくりした思い出としては、『スカーレット・ピンパーネル』の時、まだ私はバリバリの男役だったんですが「君はカルメンみたいな役が似合うよ!」と言われて、意味がわからなかった(笑)。でも私たちからすると男役は男役でしかないのですが、海外の方から見ると、普通に女性に見えるんだなあ、と感じました」
―― そうなんですね! 我々の視点とやはりちょっと違いますね。
「ショーヴランの時に頂いたアドバイスも「男性だったらこうやるかな?」といったようなものでしたし」
―― 意外なお答えでした...。ちなみにコンサートで1曲を切り取って歌うのは、1本の作品の中で歌うのときっと感覚が違うと思うのですが...。
「はい、それもちょっとプレッシャーなんです(苦笑)。物語の中で歌うと、そこまでの感情の流れがあって歌うのですんなりいけるところ、「この曲を披露します」となると緊張感があります。でも私はおそらく、マタ・ハリのナンバーを歌うとしたら、マタ・ハリの意識にならないと、どうしても歌えないと思う。初挑戦のナンバーは別として、演じたことのあるものは、その曲の背景や心境をリンクさせて歌いたいですし、お客さまもその時の記憶を蘇らせて聴いていただけると嬉しいかな。でもワイルドホーンさんの曲は1曲1曲がビッグナンバーで、それだけ切り取ってもカッコいい。1曲の中に起承転結があって、盛り上がります。こういうコンサートに似合うと思います。大作ミュージカル...『エリザベート』や『ロミオとジュリエット』なんかも大作ですが、それらとは種類が違う、"1曲で成立系"ですよね」
―― その大曲を、ワイルドホーンさんご自身の演奏をバックに歌うという。
「いや~、贅沢ですよね! 私が最初に味わったあの感動を、お客さまにも感じてもらえると思います。本当に、ワイルドホーンさんが弾いて、そこで歌わせてもらうと、こんなに感動するんだ! って思いますから」
―― 楽しみにしています。そして柚希さんは現在デビュー20周年のアニバーサリーイヤー中。このあとも『FACTORY GIRLS~私が描く物語』『ボディガード』と出演作が続きますが、今後挑戦してみたいことなどはありますか?
「自分のコンサートはやっぱりやっていきたいですし、こういった挑戦的なコンサートにも機会があれば参加していきたい。いまは特に『ボディガード』が控えていますので、歌唱力アップを頑張っています!」
―― おお! 期待します!
「実は『ボディガード』はオーディションだったので、去年からものすごく練習していて。今年のはじめ、『唐版 風の又三郎』やディナーショーのリハーサルをやっていた頃は本当はヒーヒー言いながら『ボディガード』の楽曲と向き合っていました(笑)。なんとか出演できることになって良かったのですが、ハードルの高い作品なので、こちらも(本番の)3月まで、さらに頑張ろうと思っているところなんです」
―― では『ボディガード』先行披露もあるかも...?
「あり...ます! "エンダー"(オールウェイズ・ラブ・ユー)かどうかはわかりませんが、何かは披露します! この「FRANK WILDHORN&FRIENDS」は私にとっても20周年の締めくくりのひとつですので、大切な公演にしたいと思っています」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:平岩亨
ヘアメイク:CHIHARU スタイリスト:YOSHI MIYAMASU
【公演情報】
10月12日(土)~13日(日) 日本青年館ホール
【出演】柚希礼音/ジャッキー・バーンズ/マシュー・ジェームス・トーマス/フランク・ワイルドホーン