伊坂幸太郎の小説が原作の舞台『死神の精度 ~7 Days Judgement』が8月から9月にかけて、東京、岡山、愛知、兵庫、山形、宮城、岩手で上演されます。
この作品は、2009年に伊坂作品が初めて舞台化された『7Days Judgement ─死神の精度─』の再演。ターゲットの死を7日間で見定めて「可」か「見送り」かジャッジする死神と、任侠の男・藤田、藤田を慕うヤクザ阿久津が出会い、運命が転がるさまを描いたストーリーで、死神・千葉を萩原聖人さん、ターゲット・藤田をラサール石井さん、阿久津を植田圭輔さん、藤田と敵対するヤクザ栗田など複数役を細見大輔さんが演じます。脚本・演出は、初演に続き和田憲明氏が務めます。
そのビジュアル撮影の現場で、萩原聖人さんと細見大輔さんにお話をうかがいました。この日が初対面のおふたりの変化球だらけの対談、ぜひご覧ください!
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和田さんとの再会に運命を感じます(萩原)
――出演が決まっていかがですか?
萩原 (脚本・演出の)和田憲明さんとやるのが約四半世紀ぶりなんですよ。
――「演劇集団 アーリータイムリーズ」公演の『アーリータイムブルース 〜母なる夜に抱かれて~』(1991年/作・演出:和田憲明)と『クローズ・ユア・アイズ 〜ライカでグッドバイ〜』(1992年/作・演出:和田憲明)以来ですね。
萩原 そうです。なので敢えて先に言うと...不安と期待でいっぱいです。
――不安と期待。前回はどうだったか覚えていますか?
萩原 僕はものをつくるときとか何かを教えるときは、やさしさは人をダメにするという持論があるので、当時厳しいと評判の憲明さんの演出は、とても良い経験をさせて頂いたと思います。でも、僕は当時すごく稽古嫌いで(笑)。本番は好きなんですけど、稽古に行くのは嫌でした。今はそんなことないんですけどね。ただもうお互いいい歳になって、残された時間も限られてきたので。そういう意味ではものすごく運命を感じます。
――この再会に?
萩原 はい。お互い避けていたわけでもないですが、なんか縁がなかった。でもそのときやってた仲間たちは憲明さんとその後もやってたので、今は「がんばるぞ」って気持ちです。
――ちなみに稽古嫌いじゃなくなったのはどうしてですか?
萩原 いや今も稽古はあまり好きじゃないですよ(笑)。前は感覚で(芝居の)答えを出していて、それが評価として「正解」とされることが多かったので、それでいいと思っていて。でも今は稽古で悩んだり苦しんだりするのを体験する回数が多ければ多いほど、発見も多いと思うようになりました。
――細見さんはいかがですか?
細見 去年、お話をいただいたのですが、実は僕、憲明さんの作品を一度も観たことがなくて。それで、直接お話させていただいたんですよ。ただそのとき、僕が役者として曲がり角に立っていて、ちょっと後ろ向きな時期だったんですね。なのでお話してるときも若干後ろ向きな感じというか(笑)、マイナス思考な会話をしたんですけど、そのあと「決定しました」って聞いて。腹をくくりました。
――細見さんは舞台も少し久しぶりですよね。
細見 この作品の前に一作やるんですけど、去年の夏ぶりです。なので今はちょっと不安が大きいですね。
――楽しみもありますか?
細見 もちろん、楽しみでもありますよ。楽しみで、もうこれが最後でもいいかなって気持ちもあるくらい。それくらいのものになってほしいなって思ってます。
足元は必死で漕いで、上は涼やかにやりたい(細見)
――皆さん初対面ですか?
萩原 そうですね。
細見 僕は(ラサール)石井さんとは以前ご一緒したことがあるのですが、萩原さんと植田(圭輔)くんは初です。植田くんは何歳くらいなんですか?
――28歳です。
細見 ええ! 見た目はもっと若いですよね!
――(笑)。伊坂幸太郎の『死神の精度』という作品をやるというのはどう感じましたか?
細見 僕は以前、他の伊坂作品をやらせてもらったことがあるのですが、伊坂さんの作品って、ご自身の思っていることがストレートに台詞に出ていたりするんですよ。だから作品は違ってもどこか共通するものがあって。そういう世界観が素敵だなと思います。
――演じるうえではどうですか?
細見 難しいなと感じます。ファンも多いですからね。特に『死神の精度』は映像もありますし、どう違った面を出せるかなっていうのは素直に思ってます。
萩原 僕はどちらかというと苦手な世界観なんですよ。でも、それをやるのが楽しい。
――どういうところが苦手なんですか?
萩原 ファンタジックなところかな。だからやってみたいなと思いましたね。
――その中でご自身の死神・千葉の役はどうでしたか?
萩原 よく喋るな、と。
細見 (笑)
萩原 世の中の事、知らない割によくしゃべるなあ!と(笑)。独り言も多いし。
――人間ではない役ですが、そこはどうですか?
萩原 でも「常識を知らないだけ」という感じですよね。大体、「人間の感覚」っていうのもあやしいものですよ。人間の感覚がない人、いっぱいいますからね。だからそこは僕なりのピュアさというか、それは表現っていうところになると思うんですけど、「そんなの知らないとか嘘だろ」って見えちゃった時点でダメなので。そこはこれからいっぱい悩むと思うし、そういうことに関して、とても厳しい演出家だと思いますから......50前にして心が折れるかもしれません。でも折れても再生すればいいだけなので。
――細見さんは今回、複数役を演じられそうですね。
細見 そうなんです。実は今、それに気づいて(笑)。でも大丈夫。早替えも複数役やるのも慣れてますから!
――ラサール石井さん演じる藤田と敵対するヤクザや、死神・千葉の仲間だったり、どの役もカッコいいですよね。
細見 そうですね。でもまだ全然想像つかないですけど(笑)。足元は必死で漕いで、上は涼やかに、白鳥のようにやりたいです。死神同士もほぼ掛け合いになりそうですね。
萩原 そうだよね。ほとんど会話劇だから。
迷ったら来なきゃダメ(萩原)
――2009年に初演して、9年後の今やることは何か感じますか?
萩原 そこは全然考えてないです。メッセージ的なものは受け取る側の感覚なので。僕らは一生懸命芝居するしかないですからね。
――作品が終わったときに何か残ったりするんですか?
萩原 終わったときは「あーよかった!終わった!」しかないですよ。ただ、26年前に憲明さんとやったときも「あーよかった!終わった!」と思ったけども、今こうやって再会したときには「あれは何かにはなってるんだろうな」と思ったりはします。
――今回、萩原さんは久しぶりに和田さんとやるというのが大きいんですね。
萩原 そうですね、自分の中では。もちろん作品の魅力もありますけど、久しぶりに憲明さんと会って、自分がどうなるのかを知りたいので。
――細見さんとして大きいのは、久しぶりの舞台ですか?
細見 うん、そうですね。でも男4人っていうのは単純に楽しみですよ。別に女の人が嫌いなわけじゃないですけど(笑)、やっぱり男だけの芝居って楽しくて好きなんですよ。
――では最後に、読者の方に押しの一言をお願いしたいです。
細見 この作品は舞台上で毎回何かしら事件が起こりそうなので、それは見逃さないほうがいいと思います。
萩原 でもさ、「来るな」って言っても来る人は来てくれるし、「来い」って言っても来ない人は来ませんからね。
一同 (笑)
――迷ってる人はどうですか?
萩原 そりゃ、迷ったら来なきゃダメです。観ないで後悔するよりは観て後悔するほうがいいですから。
細見 その通り!
萩原 (細見との)共通の見解としては、多分「やらないで後悔するよりはやって後悔するほうがいい」ですよね。
細見 ははは!
萩原 でも夏に男4人芝居って最悪じゃないですか。
――そんなことないですよ(笑)。
萩原 それを観に来てほしいです!
細見 そうだ、男の人にも観に来てほしいですね。芝居を観たことないような人にも来てほしい。AKB48劇場と同じくらいの熱量はあると思いますから!
公演は8月30日(木)から9月9日(日)まで東京・あうるすぽっとにて上演後、岡山、愛知、兵庫、山形、宮城、岩手を巡演。