シニカルな大人のコメディを描く手腕に世界的に評価の高いフランスの女流作家、ヤスミナ・レザの最新作『大人のけんかが終わるまで』 が、まもなく日本初演されます。
ヤスミナ・レザといえば、ロマン・ポランスキー監督が映画化した、子どものケンカがやがて親同士の大ゲンカになっていくコメディ『おとなのけんか』(『大人は、かく戦えり』のタイトルで2011年に日本でも上演)などでも知られている作家。
あるシチュエーションのもと、大人たちが本能をむき出しにしていくような物語を多く送り出していますが、本作『大人のけんかが終わるまで』は不倫カップルと、彼らとレストランで居合わせた夫婦とその母親、5人の大人たちの一夜の会話劇です。
挑むのは、鈴木京香、北村有起哉、板谷由夏、藤井隆、麻実れい という実力派俳優5名。
演出は麻実れい主演の『炎 アンサンディ』が各所で絶賛された上村聡史が手掛けます。
6月中旬、その稽古場を取材しました。
物語は、レストランの駐車場から始まります。
稽古場には車が!本物!!
そこにいるのは、アンドレア(鈴木京香さん)とボリス(北村有起哉さん)。
大人のムードです。
ふたりはなにやら言い争いをしているようで...。
というのも、アンドレアとボリスは不倫カップル。
ボリスが「このレストランは妻のお気に入りの店なんだ」と口を滑らせたことから、アンドレアの機嫌が悪くなってしまったんです。
確かに、せっかくのデートの時に奥さんの名前をわざわざ出す男にムッとするアンドレアの気持ちもわかりますし、ボリスにしてみればアンドレアを喜ばせようと素敵なレストランをリサーチしたのに機嫌を損ねられても...、というところでしょうし...。
わかるんだけど、ねぇ。
という絶妙な共感点をついてくる、ふたりの言い争い。
しかしイライラしている鈴木さんも北村さんも、素敵です...。
アンドレア=鈴木京香さん
ボリス=北村有起哉さん
仕方ない、今日は帰るか...となったアンドレアとボリスが車を発進させたところで事件が。
バックした車を女性に当ててしまったのです...!
...その女性・イヴォンヌ(麻実れいさん)は結局怪我はなくひと安心、だったのですが、
イヴォンヌの息子夫妻とボリスが偶然にも顔見知りで、「一緒に食事でも、今日は母(イヴォンヌ)の誕生日なので祝ってください」という流れで5人はともにレストランへ。
イヴォンヌ=麻実れいさん
イヴォンヌの息子・エリック=藤井隆さんと、エリックの内縁の妻・フランソワーズ=板谷由夏さん
ただ、「ボリスと友人」と言っても、フランソワーズがボリスの妻の友人だという関係。
つまりフランソワーズにしてみれば、友人の旦那の不倫現場に出くわしている状況です。
しかもボリスは自分の経営する会社が倒産の危機だったり、フランソワーズは認知症気味のイヴォンヌに振り回されていたりと、それぞれ何かしらの問題は抱えています。
会話はトゲトゲ、ピリピリ...。
アンドレアとボリスもさっさと切り上げて帰ればいいものを、なんだかんだいって、ずるずるとレストランに残り、不思議な関係性の5人が会話を続けていきます。
でも、さっきまでツノを突き合わせていたふたりが、次の瞬間にはしみじみと分かり合っていたり...。
大人たちの会話は摩訶不思議。
ただ本来だったら隠しておきたいこと――不倫という事実だったり――が明るみになっているところから始まる彼らの会話は"取り繕うこと" を脱ぎ去ったかのようで、本音が飛び交う爽快さと、そのことから伝わる人間としての本能や生命力、さらには社会のなか生きていく人間の大変さ、まで伝わってくるかのようです。
そしてそれらすべてをひっくるめ俯瞰するシニカルな面白さも。
なかでも、麻実さん扮するイヴォンヌは認知症気味なのですが、誰よりも深い、人生の深淵をつく言葉を放ったりもして......。
それぞれの事情を抱えた大人たちが感情をむき出しにした一夜の顛末は、どこに落ち着くのでしょうか!?
本来想定しなかったこの夜の展開に、彼らがとるリアクションはけっしてスマートではないのですが、そんなときこそ人間の本質が見えてくるよう。
きっと、見終わったときにはこの5人が愛おしく思えてくるに違いありません。
公演は今月末に、開幕です!
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
・6月30日(土)・7月1日(日) THEATRE1010(東京)
・7月14日(土)~29日(日) シアタークリエ(東京)
ほか愛知・静岡・岩手・大阪・広島・福岡・愛媛・兵庫公演あり。