今年創始130年を迎えた劇団新派が、江戸川乱歩原作の怪奇ロマン小説「黒蜥蜴」を再演します。
昨年6月の初演では、乱歩の妖艶な世界を見事に描き出し、喜多村緑郎さんと河合雪之丞さんのコンビによる、奇想天外で華麗なトリックの連続で大きな衝撃を与えました。昨年に引き続き、劇団新派の春本由香さん、伊藤みどりさん、劇団EXILE 秋山真太郎さんが出演し、今回は新たに、ミュージカル界で活躍する今井清隆さんも出演が決まっています。
再演の『黒蜥蜴ー全美版ー』はどのような舞台になるのか、喜多村さんと河合さんにお話を聞きました。
――昨年の初演からちょうど1年での再演です。好評だったからこその再演だと思いますが、改めて再演への思いを教えてください。
河合雪之丞(以下、雪之丞):そうですね。再演のお声がけを頂けるのは本当にありがたいことです。初演の時に力を込めて作った作品だったので、評価していただけたのかなぁと思います。ただ、再演の難しさでもあるのですが、「もう見たからいいや」と思われてしまうと一番困るので、そうならないように、よりパワーアップしたものをお客様にお見せできればと思っています。
喜多村緑郎(以下、緑郎):稽古中は修正ができるんですけど、本番をやっていても「ここ直したいなぁ」、「こういう風になったらいいのになぁ」という部分が出てくるんですね。本番をやりながらだとあまり大きな修正はできないのですが、今回は再演ということで、ズバッと修正できるなぁと思っております(笑)
雪之丞:そうそう。だから初演をやりながらも「次回やる時は...!」という構想が出てきたんです(笑)
――初演の時は、タンゴあり、アクションありで色々と盛り込まれた印象ですが、再演ではどれぐらい変わるのでしょうか?
緑郎:『黒蜥蜴』の基本的な部分は決して崩さずに、やり過ぎたところを少しそぎ落として、とにかくお客様に風通し良くしたいですね。より見やすく、見えやすくするために余計なところを洗い上げる。そこが今度の再演で一番の課題かなぁと思います。
そして、僕らもすごく楽しみにしているのは、今井さんという強力な助っ人にご出演頂けることです。本当に僕も楽しみですし、より『黒蜥蜴』の世界観が広がる気がします。
雪之丞:そうですね。今井さんに出て頂くということだけでも、 随分初演とはイメージの違ったものになるんじゃないかなと思いますし、我々もすごく楽しみで、期待感が増しています。
――ポスターが初演の時は「黒」でしたが、今回は「白」ですね。
緑郎:はい。なぜ白にしたかというと、前回ご覧いただいた方はお分かりだと思いますが、黒蜥蜴の自分の家族に対する幸せ・希望のイメージとして、幕切れで白を使わせてもらったんです。もうネタバレはしているので(笑)、今回はポスターから黒蜥蜴の死に際のイメージを表現しました。白というのは一番黒が引き立つ色でもあるので、希望を出させて頂きました。
――改めて、齋藤雅文先生が脚色・演出を担った新派版『黒蜥蜴』の魅力はどんなところでしょうか?
雪之丞:この新派版は、齋藤先生自体の魅力が十分に表れていると思うんです。例えば、言葉の使い方ですね。人間同士の心の機微を表現する台詞がすごく素敵だと思います。演じる側も、そこの齋藤先生の言わんとしていることを受け止めて、先生を信じてやれば、齋藤ワールドになるのではないかなと思っています。
緑郎:三島由紀夫版よりも原作に忠実ですよね。原作を三島さんとはまた違った形で膨らませている感じがします。...現代なのかなぁ。今の時代に合わせた作り方をなさったんじゃないですかね。
もちろん三島版も非常に素晴らしいものですが、この新版は今の時代に合わせた作りになっていますので、子どもからお年寄りまで色んな世代の方に楽しんでいただける作品です。忠実に江戸川乱歩の「黒蜥蜴」の世界を見事に描ききっているというのが齋藤さんの特徴ですね。
――初演と再演の間に、今年3月には『怪人二十面相〜黒蜥蜴ニの替わり〜』も上演されました。すごく意欲的ですね。
雪之丞:やはり大変な公演でしたし、皆さんに本当に助けて頂いてできた公演です。前回『黒蜥蜴』を見てくださった方は、『怪人二十面相』をすごく楽んでくださったし、『怪人二十面相』を見てくださった方は今回の『黒蜥蜴』を更に楽しみにしてくださると思うんですよね。
そういう意味で、本当にやってよかったと思う作品です。
――たった5ステージで、もったいないなぁとも思いました。
緑郎:千穐楽から1ヶ月ぐらい経つのに未だに疲れが取れないぐらいですから、あれ以上できないです(笑)
齋藤さんが忙しい時で、おおまかな筋はできていたのですが、台本がなかなか出来てこなかった。それでもやはり信頼関係ですよね。齋藤さんのことを信じ切って、心中するつもりでやりました。
歌舞伎の時の自主公演は、だいたい演目も予算も最初からだいたい分かるんです。ストーリーができていない間に、公演がスタートしたのは、これは新派ならではだなぁと思いました。その分、大変なこともいっぱいありましたけど、でも逆に得るものもあったのではないかなぁと思います。僕も千穐楽の最後の公演までセリフが入らなくてね...そんな経験は初めてでしたが、でもなんとか気合いで乗り切りました。
おかげさまで、たくさんのお客様にご来場いただきました。僕らは客席の半分ぐらい埋まっていればいいよねという感じでスタートしていたんですけど、初日からたくさんのお客さんに入っていただけたのは、一生忘れられないです。
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たっぷり今作にかける意気込みを語ってくださった、喜多村緑郎さんと河合雪之丞さん。
後編では、より詳しく「黒蜥蜴 全美版」についてお伺いします!
花形新派公演「黒蜥蜴 全美版」は2018年6月2日(土) ~ 6月23日(土)まで、三越劇場にて。チケットは現在発売中。
取材・文:五月女菜穂
撮影:川野結李歌