10月13日(金)に開幕する『「ポセイドンの牙」Version蛤』。
本作は、「舞台芸術集団 地下空港」主宰である伊藤靖朗の脚本・演出で、2016年6月に上演された完全新作「ポセイドンの牙」の2017年度版ともいえる"Version蛤(はまぐり)"。
タイトルから「難しそう?」と想像する方もいるかもしれない本作ですが、物語の中心にいるのは、ちょっとおバカな男子高校生5人組"スイサンズ"。彼らが自分たちの通う高校を男子校にしたくない一心で動き出す冒険譚なのです。だけどそこから広がるのは、大きな大きな物語!
というわけで、今作で"スイサンズ"のメンバーを演じる前田航基さん、原嶋元久さん、小早川俊輔さん、小松準弥さん、森田桐矢さんにお話をうかがいました!
(左から、森田さん、小早川さん、前田さん、原嶋さん、小松さん)
【あらすじ】※HPより
ナカツ県の乙亀(オトガメ)市にある水産高校に通う陽気なバカ男子仲間・スイサンズたちはある日、自治体の資金難から母校がなんと防衛人材育成高校(男子校)へと変わる計画を聞く。海と女子と夢と女子を愛するスイサンズはそれを阻止するべく、乙亀市海外のスニオ岬の海底に沈むと伝わる「黄金の釣針」を手に入れようと画策。しかし期を同じくして、海底に沈む太古の神々がその「釣針」をめぐり動き出すのであった...。
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【役柄説明】
◎須永宇宙期(すながそらき):前田航基
スイサンズのリーダー格。
◎道井磨多井(みちいまたい):原嶋元久
煩悶するインテリ。
◎葛先賢人(くずさきけんじん):小早川俊輔
孤高の貝オタク。
◎生方英(なめかたすぐる):小松準弥
エロで頭がいっぱい。
◎萩原安打尊(はぎわらあんだそん):森田桐矢
スイサンズのバカ筆頭。
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◆稽古が始動し「この5人でできるスイサンズが楽しみ」
――稽古が始まって一週間ほどとのことですが、現場が始動していかがですか?
森田 実は今日の稽古で初めてスイサンズが全員揃うんですよ。今も少しずつ「スイサンズってこういう感じなのかな」というのが見えてきて楽しみが広がっている段階なのですが、もっとスイサンズ感が見えてくるのかなと思って。もっと楽しくなるんじゃないかなと思っています。......ね?
小早川 ね(笑)。昨日、原嶋さんが合流して楽しかったよね?
森田 楽しかった。
前田 楽しかったね。
小早川 これで5人揃ったら......ね?
一同 あはは!
小早川 この5人でできるスイサンズ、楽しみです。
前田 僕は初舞台で本当に未熟なんですけど、皆さん温かく見守ってくださって。完成までにそのやさしさに応えられたらいいなと思いながら毎日過ごしています。ただ、なかなか想いとはうらはらで、今はまだもがいてる状態なんですけど。徐々に楽しむ余裕は出てきたので、これをもっと楽しめるようになったらいいなと思ってます。
原嶋 (前田を)こどもの頃からテレビで観てたので、共演させていただいてすごく嬉しいです。謙虚に話してますけど、この謙虚さもすげーなって、学ぶところばかりですよ。
前田 いやいや......!
原嶋 スイサンズとしては、僕だけ前回からの続投なのですが、また違ってすごく面白いです。昨日初めて稽古に参加して、すでに「わーすごい!」と感じて、がんばんなきゃなってすごく思っています。
――前作とは違うものになってますか?
原嶋 そうですね。基本的なところは変わらないのですが、芝居するうえで僕も「前回から引き続き」みたいな感覚は一切なく、今回のスイサンズの5人で新しい冒険に出られたらというのが一番です。
小松 僕もまだ稽古になかなか参加できてないんですけど、稽古場がエネルギーに満ち溢れているんですよ。みんな芝居にたぎった目をしてて。刺激を感じます。あとは僕、エロで頭がいっぱいな役なんですけど、そういうエロをガンガン表に出していく役は初めてなのでとても新鮮で、これからどうなっていくんだろうって、楽しみがどんどん増しています!
◆スイサンズはお互いを「純粋に真摯に好き」な5人
――この作品は、男子高生のワチャワチャ感と社会問題というミックスもひとつの特徴だと思いますが、皆さんはどうお感じになりましたか?
原嶋 伊藤靖朗さんの作品って、社会問題を風刺するところが特徴だし、良さだと思っていて。その作品をこうやって若い世代の僕らがやることで、若いお客さんにも身近に感じてもらうというか。戦争のこととか、やっぱりどうしても普段はあまり考えなかったりするわけじゃないですか。でもそこをファンタジーとして、でも現実味を持たせながらお客さんに届けることができるっていうのが、靖朗さんの脚本の特徴でもあるし、「ポセイドンの牙」という作品の良さであるのかなとすごく思います。演じる僕らも「こういう問題が今起こっているんだ」っていうことを再認識できるので、お客さんも演者も考えさせられる作品だなって思いますね。
森田 ......(しみじみと)その通りだな。
一同 (笑)。
森田 なんも言えねえ!
小早川 「一同相槌」って書いてください!
――(笑)。社会問題を意識するようになったりしましたか?
前田 僕、ニュースとか見るのは好きなんですけど、靖朗さんの中にはそういう表面的なところではないものがあって。今まで高校とか大学のすごく小さな世界にいて、その中では僕、頭いいほうだったんですけど(笑)、外に出てみて絶望したというか......。「こんな大人がいるんだ」って悔しかったんですよね。子供が一番エネルギーあると思ってたんですよ、僕。でも「こんなハングリーな大人がたくさん集まってつくるものなんだ、舞台ってものは」っていうカルチャーショックと同時にすごいワクワクしてて。
小松 脚本から、今話したような社会問題と同時に、その中で生きていくおバカな男子高校生5人の若さゆえのパワーや強さもすごく感じたんですよ。重くなりそうなテーマなんですけど、僕らがそれを緩和させる役割になれたらいいなと思っています。だから一瞬一瞬を思い切り楽しみたいですね。
――スイサンズの雰囲気って物語においても重要ですよね。
小早川 スイサンズって個性的な人の集まりで。幼馴染という関係性もあればそうじゃない関係性もあるんですけど。宇宙期を中心に集まっていく、なんかその包容力というか団結力があって。それぞれが合わせようとするんじゃなく、純粋に真摯に好きだから、どんなときも5人を想って行動できるっていうところがあるなって思います。
小松 僕が演じる英くんは「エロ」っていうキャラなんですけど、なぜそんなにエロにオープンになっていったかって考えると、それが彼なりの、大好きなスイサンズとのコミュニケーションの一つなんじゃないかなって。役作りでもそういうところも大切にしながらやっていけたらなと思います。
原嶋 5人に対する「大好き」っていう感情は前回から変わらないくて、その中でも、特に僕の役はスイサンズを誰よりも愛している存在っていうところもありますし。これはやっぱり一番大事なのかなって思っています。
◆演出の伊藤さんは「パワフル!」
――演出の伊藤さんとのやりとりで印象的なことはありますか?
前田 最初に「判断の基準をみつけてくれたらあとは任せる」って言われたんですけど、日に日にそれがいかに大変なことかっていうのがわかってきました。【99%:役・1%:客観的な自分】っていうところまで持っていかないと、役としての判断ができないので。その一言にそれだけのことが凝縮されてたんだなって。それはすごく重いし、今もその言葉と向き合ってますね。
原嶋 靖朗さんは厳しいっていうか、ちょっとでも隙を見せると長いです。「これはどうなの?」「あれはどうなの?」と質問されて......最後は自分が「すみませんでした!」みたいな(笑)。
――かなりいろいろ求められる現場なんですね。
原嶋 そうですね。
森田 しかもすごくパワフルで。稽古に参加できない人の代役を伊藤さん自らがやるんですけど、そこに引っ張られてしまうようなパワーさがあるんですよ。僕らの世代って少なくとも体力面では伊藤さんよりあると思うんですけど、伊藤さんのそこに負けないパワーを出すところ、しかもすぐに出せるところはすごいなって。勉強になります。
小松 いい意味で引っ張られるんですよね。それで緊張もほぐれたし、本当に高校生に戻ったかのような感覚になりました。
小早川 でもなんか、クネクネ動かされるんですよ。
一同 (みんなピンときて)あはははは!
小早川 「伊藤メソッド」って呼ばれてるんですけど、クネクネ動くアップ(準備運動)があるんです。それで1倍速、1/2、1/4倍速ってやっていくんですけど、そのときに自分の好きな曲をかけてくださるんですよね。でもスマホから流すので全く聞こえないんですよ。
一同 (大爆笑)
前田 しかもテンポ難しくないですか? 1倍のときはいいんですけど、1/2、1/4ってなったときに、裏とか裏の裏とかとんなきゃいけないから。
原嶋 いや、靖朗さんはそこまで細かく考えてないと思う(笑)。
小早川 (前田は)そこで着替える用のTシャツ持ってきてるよね。
前田 そうなんですよ! アップが一番ハードで汗かくので。そのおかげで身体は温まってる実感はあるんですけど。靖朗さんが元気すぎて、気を抜くとそこで全部持ってかれますから! ほんとに! ね?
小早川 ......俺はそこまで言ってない(笑)。
森田 急にヒートアップしたな。
一同 (笑)。
◆そのときは楽しくても、あとで「あれ?」と思うような作品
――では最後に読者の皆さんに一言ずつお願いします。
一同 ......(悩む)。
――思いついた人から挙手でもいいですよ。
前田 (勢いよく)はい!
原嶋 いや、航基は締めにしようよ。
前田 ええ! 最後って言うことなくなるし!
一同 (笑)。
原嶋 じゃあ、僕から(笑)。この作品の"面白い物語"の裏側にある物語にもぜひ注目してほしいなって思います。そこにある靖朗さんのメッセージに注目してみると、多分日々のニュースの見え方も変わると思う。そういう意味では、実世界や私生活に絶対影響を及ぼせる作品だと思いますし、観る価値のある作品だと思うので。ぜひ演劇としても、ひとつの問題提起としても観ていただきたいです。
森田 それに加えてこの作品っていろんな神話の神々が出てくるんですよ。神話好きはもちろん知ってると思いますし、知らなくても劇中で説明されますし、そういうところも単純に面白いと思います。そんな楽しみ方もぜひしてほしいですね。
小早川 靖朗さんのメッセージって、そのまま伝えるなら、例えば新聞のコラムに書くという方法もあると思うんです。でも紀伊國屋ホールで、演劇として、お客さんにこのカタチで届けるっていう。そこに携われるのが嬉しいです。自分一人でやるんじゃなくて、みんなで作品をつくっていきたいですね。
小松 僕、初演のDVDをゲラゲラ笑いながら観たんですけど、今回もメッセージ性はありますが、だからって必ずしもそれを重く捉えようと思わなくてもいいと思うんです。スイサンズのバカさ故、若さ故のエネルギーも観てもらって。「ほんとバカだな」って笑いながら、でもその底知れぬ力っていうのも感じていただければ、何かしらお客様には伝わると思うので。僕らはスイサンズとして板の上に立つ意味をしっかり考えながらがんばりたいです。純粋に楽しみに来てください!
前田 この脚本はどのシーンが欠けても成り立たないくらい緻密で。「瞬きをしないで観てください」って言葉があるけど、そんなこと言わなくてもつい瞬きを忘れて観てもらえるような、作品にしたいと思います。観ていただいたら、そのときは楽しくても、例えば寝る前とかに「あれ?」って心をツンツンってされるような、そういうヒントがたくさん入った作品です。責任持って一か月走りますので、観に来ていただけたら嬉しいです!
公演は10月13日(金)から21日(土)まで、東京・紀伊國屋ホールにて。チケット好評発売中です。