韓国で8年ものロングランを果たし、"ロマンチック・コメディ・ミュージカル"のジャンルを確立した傑作ミュージカル『キム・ジョンウク探し(邦題:あなたの初恋探します)』。
日本でも2010年の映画版の公開、韓国カンパニーの来日公演と親しまれてきた本作ですが、昨年・2016年にはミュージカル『キム・ジョンウク探し~あなたの初恋探します~』として日本版を初上演。
心あたたまるキュートな物語にキャッチーな音楽、そして日本版ならではの丁寧な演出で好評を博しました。
この可愛らしいミュージカル、出演するキャストはわずか3名。
"初恋の人"キム・ジョンウクと"初恋を探してあげる男"ミニョクの2役を演じる主演男優、
"初恋を忘れられない女"アン・リタを演じる主演女優、
そして、お父さんやお母さんやインド人、会社の上司やタクシー運転手から、さらには若い女性まで、その数24役にも及ぶその他の登場人物を一手に引き受けるのは、マルチマンと呼ばれる男優!
男女の恋の行方を描くストーリーに加え、マルチマンの奮闘っぷりも、作品の見どころのひとつです。
その作品が、今年はキャストも一新、ミュージカル『Finding Mr.DESTINY』とタイトルも新たに早くも再登場!
新たな「初恋探し」に挑むのは、高田翔、玉置成実、坂元健児。
"初恋を忘れられない女性"アン・リタに扮する玉置成実と、早替えに次ぐ早替えで、計24役を演じる"マルチマン"坂元健児のふたりに、作品について伺ってきました!
★ 玉置成実&坂元健児 INTERVIEW ★
●まずは、お互いの印象から...
―― おふたりは初共演でしょうか?
坂元「コンサートでは、ご一緒したことがあるのですが、お芝居では...」
玉置「初めてです。ですので、じっくりお話するのも、今日が初めてなんです」
―― ではまず、お互いの印象からお伺いできれば。
坂元「いやもう、有名な方ですから...」
玉置「何を言うんですか、やめてください(笑)。私は坂元さんの声がすごく好きで、舞台を観ていてももちろんなんですが...お話される声も、めちゃめちゃ良い声ですね? 聞いていて、耳が幸せな感じがしています(笑)」
―― 色々共通項がありそうで、ちゃんとした共演は初めてというのが意外です。...おふたりとも、正統派な作品から、かなりベタなコメディもできる貴重な俳優さんという印象です。
坂元「おっ。そういうところを、この作品でどんどん出していこうかなって!」
玉置「(笑)。そうですよね、この作品、出せますね!」
―― 昨年の日本初演を、坂元さんはご覧になっていると伺いました。
坂元「はい、観ました。面白かった。終演後に楽屋に挨拶に行ったのですが、行くなり「やりたい、やりたい!」って言ってました。言いまくったら、本当に話が来たという(笑)」
玉置「すばらしい~」
坂元「ですよね。とにかく3人しか俳優が出てこない。その3人が色々な役をやっていく。主人公の男性も2役やるし、マルチマンの場合は24役です。飽きなかったですね。ずーっと、面白くて。しかも、メインストーリーの部分、ミニョクとアン・リタのシーンはキュンキュンくるし。こういう作品、やってみたいなー! って思いました」
玉置「ほお~...。私は拝見できていなくて。資料映像も頂いたのですが、私、すぐ影響されちゃうので、あえて観ないでいようかと思っています。ですので、台本を読んだ感想なのですが、自分の私生活にはない感覚だな、と(笑)。"初恋の人が忘れられない"って、思ったことないなぁ、って」
坂元「(笑)」
玉置「(初恋の人に)会ってみたい、とかもないんですよ。自分とは全然タイプの違う女性なので...私、引きこもってゲームばかりしているんで(笑)。ロマンチックな面があまりないので、どういう風に魅せていけるかな、と考えています。でも観ていただく方には、ぜひキュンキュンしていただきたいので、自分にないそういう部分をしっかり作っていきたいなと思っています。...坂元さん、ご覧になって「やりたい」と思ったのは、マルチマンなんですか?」
坂元「いや、やれれば(ミニョク/キム・ジョンウク役でも)どっちでも良かったのですが、年齢的にはマルチマンかな、と」
―― マルチマンの、どこが面白かったのでしょう?
坂元「どの役が...とか、あれがやりたい! ではなく、色々な役をやるのが面白そうだと思いましたね。やっぱり、24役ないと、ダメなんですよ。まあ役者だったら、それはやりたいでしょう、って思う。...これを、大変だからやりたくないってやつは役者やめちゃえ!くらいの。...いや、そこまでじゃないけど(笑)」
―― そうなんですね...。いや、素人目線だと「うわぁ、マルチマン、ぜったい大変!」という感想でした...。その"大変そう"な部分も、面白いのですが。マルチマンは男性の役ですが、もし玉置さんもそんな機会があったらやってみたいですか?
玉置「そう...ですね。いえ、もちろん大変は大変だと思うんですけど。でも「これ、自分の役じゃなかったら、ちょっと嫉妬するな」って役、絶対あるじゃないですか。そういう役は、どんどんやりたいです」
坂元「うん、そうそう」
玉置「(この役をやれて)いいでしょう!って言いたい。役者仲間に「やりたい」って言われるのって、いいですよね」
坂元「うんうん。まさにそういった役どころです」
―― 坂元さん、その「やりたい」と言っていた役が来たときは、どう思われましたか。
坂元「いやもう、めっちゃくちゃ! 嬉しかったですよ。ひとつの役をやりきるというのも、もちろん良いんです。でも2時間で24役やる、こんな経験はなかなか出来ないことですから、そこに魅力があります。しかも演出の菅野こうめいさんが仰っていたんですが、わりと自由度があるんですって。だから役者として、色々な発想もできるし、挑戦もできるから、僕の中の"遊び感覚"も使ってやっていきたいですね。もちろん、稽古に入ったら大変だとは思いますが、楽しみたいです」
―― 確かに、もともとは韓国生まれの作品ですが、色々と日本版アレンジが加えられたりして、自由度の高い印象を受けました。何か目論んでいることがあったりするのでしょうか。
坂元「目論むということではないのですが、最近ちょっとそういう...、色物系が続いて、去年なんか僕、オカマのテントウムシまでやったので(笑)」
玉置「オカマのテントウムシ(笑)。幅広いですね~!」
坂元「(笑)。オカマのテントウムシです。だから、行くところまで、行きたいですね!」
玉置「今からもう楽しみです。きっと袖はドッタンバッタンでしょうけど...(笑)」
● ふたり+高田翔さん、出演者は3人のみです!
―― そして出演者が3人だけ。3人芝居は結構ありますが、ミュージカルで出演者が3人だけというのは珍しいですね。経験はありますか?
玉置「私はふたりミュージカルはあるんですけど、3人というのは初めてです」
坂元「僕はミュージカルでは経験ないです。ふたりの時は、いかがでしたか?」
玉置「いやぁ、2時間ちょっとの2幕もので、20数曲あったのですが、あまり稽古期間がなくて。カラオケでずっと自主練してました(笑)」
坂元「ひとりカラオケ!」
玉置「しかもシリアスな話だったんで...今回はちゃんとお稽古の時間もありますし、思い切り弾けられそうな内容ですし、気持ちがちょっと楽です」
―― 3人しかキャストがいないと、単純にひとりが担当する曲数も多いですよね。おふたりのファンは、その分たくさん、おふたりの歌が聴けるということではありますが。
坂元「多いんですよ~」
玉置「多いですよね。しかも(全体の)曲数自体、多いですし」
―― そしてもうひとりの出演者、ミニョク/キム・ジョンウク役が、高田翔さん。お会いになっていますか?
坂元・玉置「(ビジュアルの)撮影で、会いました」
坂元「あと僕は、『ライオンキング』繋がりが...」
―― そうでした! 共演経験アリですか?(※高田さんは子役として『ライオンキング』ヤングシンバ役を務めていました。坂元さんは言わずもがな、シンバ役のオリジナルキャスト)
坂元「それが、ないんですよ。『ライオンキング』では入れ違いでした」
玉置「でも、すごーい!」
坂元「同じ役の、成長して以降と子ども時代を演じている間柄です。なんか、嬉しいですね。本当にすれ違いで、彼の子役時代を知ってはいないのですが...。一度でも共演していたら面白かったんですけどね~」
玉置「きっと、昔からの坂元さんや高田さんのファンは、ちょっと感慨深いですよね」
坂元「ね、知ってる人は、そうだと思いますね。しかもまだ若いけれど、子役からやっているからキャリアが長い人でしょう。楽しみですね」
――玉置さんは、高田さんはどんな印象ですか? 高田さん扮する二役に惹かれていくことになりますね。
玉置「爽やかでした! 『ガンダム』が好きって言ってくださったので、嬉しいなと(笑)。ちょうど世代的に、私がデビューしたころの『ガンダム』を見てくれてたみたいなので...今回のお芝居とはまったく関係ないんですが(笑)。私、自分より年下の相手役の方って、あまり経験がなくて。年下の方とどうコミュニケーションとればいいんだろうと思っていたので、そんなところから距離を縮めていければ、と思ってます(笑)」
※玉置さんはガンダムの主題歌を数々担当しています。
―― たしかに玉置さん、デビューがすごく早かったし、学生役なども多いですもんね。でも今回はお姉さん役ですね。
玉置「そうなんです。アン・リタと同じく、私も29歳。等身大の女性の役なんです。私も実際、親に「本当に結婚しないの?」と言われたりもします。国が違ってもこの年代の女性の悩みは一緒だな、と(笑)」
―― ちなみに本作は韓国ミュージカルです。日本でも最近、韓国発のミュージカルはどんどん増えていますが、韓国との接点は何かありますか?
坂元「うーん、僕はあまりないですね。旅行で1度行ったくらいかな」
玉置「私は結構、ひとりでふらっと2週間ぐらい遊びに行ったりしてます。音楽仲間の友だちも多いですし、ライブをやりに行ったりも。あっ、この作品、超新星のユナクさんもやっていますよね。超新星ともコラボで曲を出したこともありますので、ちょっと身近な感じもしました」
―― 韓国ではかなりのロングラン作品ですので、色々な方も出演していますしね。そして韓国では、本作が"デートスポット"になっているそうですよ! デートとして、このミュージカルを観るという...。
玉置「若い子もたくさん観に来ているってことですよね、観やすい作品なんでしょうね」
坂元「そうですね」
玉置「いいですね。日本でもそうなって欲しいですね! 劇場も、客席と舞台の距離が近いので、楽しんで観ていただけるんじゃないでしょうか」
●コメディだからこそ、真面目に取り組みたい
―― 最後に、今回の公演で、ご自身が「ここは新しい挑戦だな」と感じているところはありますか?
坂元「そうですねー。もう、24役? 実際20何役になるかわからないのですが、それを演じること自体が挑戦です(笑)!」
玉置「わたしは..."振り切りたい"ですね。結構、振り切って芝居をするのは好きなんですけど。また新しい振り切り方をみつけて、思いっきり恥を捨ててチャレンジしたいです」
―― 確かにいつも思い切りのよいお芝居を拝見しています(笑)。
玉置「そうなんですよ~。やっぱり"濃い"役だったりすると、「そこまでやるんだ!」ということができる女優になっていきたいんです」
坂元「でももともと、ここまでお綺麗で、それが出来るというのが凄いですね」
玉置「いやいやいや...! ただ今回のアン・リタという役は、ロマンチックさも求められている役どころで、そこは自分に欠けているところなので。思い切りロマンスに浸りたいと思います」
坂元「僕も色々と偉そうに話しましたが、(稽古が始まる前で)まだ実際どうなるかわらかない。実はやってみたら「マルチマンすっげえ大変、もうやりたくない!」と言ってるかもしれません(笑)。...ま、それは冗談ですが、まずはこの世界に飛び込みたいと思います。妥協しないで、24のそれぞれの役、ひとつひとつを大事にしてやっていきたいです」
―― 何よりも、お二方が真剣に演じるコメディ・ミュージカル...というのも楽しみです。
坂元「コメディって、普段が面白い人だから舞台に立って面白いかと言ったら別なんですよ。コメディの俳優さんって、稽古場ではめちゃめちゃ暗かったりもしますし」
玉置「わかります。そうなんですよねー」
坂元「コメディの種類にもよると思いますが、僕はどちらかというと、シチュエーションの中で普通に役者が演じていることが可笑しく見えてくる...というのが一番大事だと思っています。もちろん、日替わりでアドリブがあったり、自分で考えていくこともありますが。コメディって、ほんとに真面目に考えないとダメなんですよ。ウケを狙うというのは一番つまらないことなんです」
玉置「それ、一番言われますよね」
坂元「ただふざけてるとかは、絶対違いますし、脱線して笑いをとるというのもやりたくない。コメディであればこそ、真面目に考えて、真剣にやる方が面白くなります」
――玉置さんも、今大きくうなずきましたね。
玉置「はい。ウケを狙いにいったりすると、それは客席から観ていてもわかるじゃないですか。狙いにきているなって。でもそういうものじゃなくて、真面目にやるから面白くなるというのはいつも肝に銘じています。あと、いつも「今ここでウケたからもう一個!」とか、欲が出そうになっちゃうんですが、そこは(やりすぎず)きちんとお芝居として成立させなないと、と思っています。内輪ウケになるのはイヤですし」
坂元「うん、それはイヤですね」
玉置「はい。お芝居は初日から千秋楽まできちんと、極力同じクオリティのものをベストな状態で届けたいなと思います。本気で」
坂元「そうだね、コメディと言っても、新喜劇とは違うわけですので。真面目にコメディをやって、お客さんに楽しんでもらうのが一番です」
玉置「特に笑わせようと思わなくても、きちんと脚本がそうなっているわけですので、自然と笑うところで、笑っていただけるよう務めたいです」
坂元「うん。僕ら、大丈夫な...気がします! あとは3人でやる"胸キュンミュージカル"を...」
玉置「胸キュン...、一番そこを頑張らなければいけない気がしますが、私も楽しみにしています!」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:川野結李歌
【公演情報】
8月4日(金)~13日(日) DDD AOYAMA CROSS THEATER(東京)
8月17日(木)・18日(金) ABCホール(大阪)