元宝塚歌劇団星組トップスターで、在団中は誰もが認める芝居・歌・ダンスの三拍子揃った実力派として知られていた北翔海莉が、ミュージカル・コメディ『パジャマゲーム』で女優デビューを果たします。
演出はイギリスの若き鬼才トム・サザーランド。
彼が日本で演出した『タイタニック』、『グランドホテル』も大きな評判となりました。
※参考)
『タイタニック』連載→コチラ★
『グランドホテル』連載→コチラ★
物語は、7セント半の賃上げを望むパジャマ工場の労働者と雇用者の闘い、そしてその中の恋をコミカルに描くもの。
耳なじみの良いオシャレな音楽、素敵なダンスシーンも満載の楽しい作品なんです!
北翔さんは、労働者側の急先鋒に立つ女性・ベイブを演じます。
共演も、新納慎也、大塚千弘、広瀬友祐、上口耕平、栗原英雄といった実力派が揃いました。
初タッグを組む、北翔海莉さんとトム・サザーランドさんにお話を伺ってきました。
北翔海莉&トム・サザーランド ロングインタビュー
●「映像で観た北翔さんの存在感が圧倒的でした」(トム)
―― 北翔さんの宝塚歌劇団退団後、初ミュージカルです。トムさんが北翔さんとやりたいと仰ったと公演資料にありましたが、トムさん、北翔さんのどんなところに惹かれたのでしょう。
トム「残念ながら生で拝見はできなかったのですが、映像で拝見した北翔さんが素晴らしかったんです。存在感が圧倒的でした。今回の『パジャマゲーム』のベイブという役には"強さ"が欲しかったので、「あ、北翔さんだ」と。強さと存在感、そのふたつから北翔さんにぜひお願いしたいと思ったんです」
―― 先に『パジャマゲーム』をやることが決まっていて、ベイブ役を探していたんですか?
トム「なんとなく並行で...ですね。北翔さんと一緒に、というのと、『パジャマゲーム』をやるというのが同時に結びついた感じでした」
北翔「何をご覧になったのか、気になります」
トム「『ガイズ&ドールズ』(2015年。北翔の大劇場お披露目公演だった)です。もう、素晴らしくて...」
―― 実際、北翔さんとお会いしていかがでした?
北翔「(『ガイズ&ドールズ』の)スカイ・マスターソンが、今はこんな風ですが(笑)」
トム「もともと"宝塚"というものにとても興味を持っていたんです。パフォーマンスのスタイルが本当に興味深い。その中でもトップスターという存在にお会いできるのが光栄で。ありがとうございます(笑)」
北翔「私は本当に宝塚にいた21年間、ズボンしか穿いたことがなくて。10代、20代と女性として磨きをかける時に男装をしてきたので...軍服、燕尾服、タキシード、スーツ、ネクタイ、蝶ネクタイ、そういうものは数え切れないほど着てきたんですが、スカートだけが...ちょっと...(笑)」
トム「そこが興味深いところです(笑)」
北翔「(笑)」
―― そうなんです、北翔さんにとっては"女優デビュー"です。
トム「でも、男性役であっても女性役であっても、大事なのは"観客とのつながり"。そこは変わらない点だと思います。スカート穿かなきゃ、ワンピース着なきゃ...というところを超えたときに、解き放たれる感覚が生まれるのかもしれない」
北翔「ラブシーンもいっぱい出てきますよね。もちろんラブシーン自体はこれまでも演じていますが、今まで男性側の感情しか経験してない。新納慎也さんのシドに対して、どんな感じで、向き合えばいいのか...(苦笑)」
トム「ベイブもそういう役柄なので、ぴったりだと思いますよ」
北翔「恋に不器用な(笑)?」
トム「その通り! まさに、そのままで結構なんです。それがまた、エキサイティングな部分でもあります」
北翔「そのままで、いいんですね。今回『パジャマゲーム』のお話を伺って、女優としてこれから出ていくんだという不安がまずあったのですが、ベイブ役だとわかって、意志の強さや、男性と対等に戦える芯の強さのようなものを要求される役柄だったので、安心したんです。変に"女性女性"しなくて、今の自分のままで勝負できるんだな、と」
―― 北翔さんは逆に、トムさんの印象は?
北翔「私も同じく残念ながら生では観ていないのですが、トムさんの存在と評判はもちろん知っていました。様々な作品を手掛けていらっしゃって、偉大な方、有名な方だという印象だったのですが、ポスター撮りの時に初めてお会いしたら、とても温かい方で。すぐ懐に飛び込んでいける安心感があったので、不安も怖さもなくなりました。安心して身を委ねられるな、と」
トム「良かった。うれしいです」
●「僕にとってミュージカルは、共感できる世界を作り上げるもの」(トム)
―― 先ほど女優として出ていく不安、と仰いましたが、北翔さんは在団中に女性役も演じていらっしゃいますよね。
北翔「いえいえ、『雨に唄えば』(2008年)のリナだけです。あれは"悪声"という特異なキャラクター設定でしたので、"女性役も演じてます"というものでは(笑)。私、新納さんと同じで、ああいうコメディ・タッチのいわゆる"キャラクターもの"(個性的な役柄)は得意分野だったんです。むしろスカイ・マスターソンのような二枚目はあまりしてこなかった(笑)。だから今回、新納さんと私、たぶんお互いにキャラクターものばかりしている者同士が、真面目に二枚目を演じるのも面白いですよね」
トム「忘れてはいけないのは、『パジャマゲーム』の登場人物は普通の人生を歩んでいる人たちだということ。設定がお城だったり、ニューヨークの上流社会だったり...ということではなく、田舎の普通の人たちのお話。ですから、登場人物はエレガントで美しかったり、めちゃくちゃハンサムだったりという必要はないのです。大事なのはキャラクターの見た目ではなく、感情や考え方。オリジナルの脚本が本当にうまく書かれているので、その中に全てが詰まっています」
北翔「外見ではなく内面ですね」
トム「そうです。ロンドンでいつも努力していることなんですが、キャストを決めるにあたって、外見や雰囲気がぴったりの人...ということに固執しないようにしているんです。だから宝塚に興味を惹かれるのはそういうところなのかもしれない。だってそもそも女性が男性を演じるのは"違う"じゃないですか。でもそれを飛び越えて皆さん素晴らしい役を作り上げる。僕、イギリスではたまに男性を女性役に配役したりもしています。つまり見た目ではなく、キャラクターを表すのに最適な人材である、それが大事なんです」
―― トムさんは制作発表の場でも「人間を描く」と仰っていました。つまり今仰った「普通の人生を歩んでいる人たち」の姿を描くということだと思います。『タイタニック』『グランドホテル』も人間ドラマにフォーカスした作品でしたが、そういう作品に心を惹かれるのでしょうか。
トム「僕にとってミュージカルシアターというのは、共感できる世界を作り上げるものでありたいんです。素晴らしいミュージカルというのはそれを確かに体現している。『タイタニック』は船に乗っている人たち...乗客、働いている人たち。『グランドホテル』は1920年代のベルリンのホテルに集う人々。北翔さんが出演された『ガイズ&ドールズ』は、1930年代のNYに生きる人々の世界を描いていますね。『パジャマゲーム』のパジャマ工場もまた同じ。僕が好きな良いミュージカルというのは、その世界がパッと見てパッとわかるというものなんです。そして、何が面白いかというと、(容れ物ではなく)やっぱりその中にいる人たちが面白い。60年前の設定であっても、今自分が生活しているところから遠い田舎の話であっても、人間だけをとって見てみれば、自分の生活と地続きの部分は絶対に見えてくる。"人類みな兄弟"ではありませんが、人間ってやっぱり同じだよね、というようなこと。僕がこれらの作品が好きな理由はそこにあります。それぞれ物語は違うけれど、そこが共通点です」
北翔「今回の『パジャマゲーム』でも、それぞれのキャラクターが、守らなければならない自分の立場や、それゆえにぶつかる葛藤とかもありますが、一生懸命生きていく姿が、お客さんの日常と照らし合わせて共感できる部分になるのかな、と思います」
トム「その通りですね。あとこれは僕の持論なんですけど、演劇、ミュージカルというものは、人を楽しませるものでなければならないと思うんです。喜劇ということではなく、"愉しむ"ということですね。『パジャマゲーム』は労働組合が...とか、政治的な面もあるのですが、ちょっとオブラートに包んで伝えている。パッと見、わからないけれど、ふたを開けてみたら中身がこうだった、というようなものになっています。そういったことも、「こうなんだぞ」と意見を押し付けられるより、楽しんだ後というのはちょっと心が開いていて受け入れられる準備ができていますから、流れの中で楽しんだあとにすっと心に入ってくると思う。楽しんだら理解力も深まるんです」
●「今まで培ってきたものを全部使って、全力でぶつかっていきたい」(北翔)
―― そして『パジャマゲーム』といえば、ボブ・フォッシーのデビュー作でもあることからわかるように、ダンスナンバーも見どころですね。
トム「素晴らしい振付、素晴らしい音楽。そこももちろん、良いところです」
北翔「宝塚の劇団レッスンでは、例えば『ウェストサイド物語』の『COOL』だったり、有名なダンスナンバーを題材としてやるんですよ。実はその中で(『パジャマゲーム』の)『スチーム・ヒート』もやったこと、あるんです! ...でも今回、私は『スチーム・ヒート』は踊れないんでしょうか...!?」
トム「(ベイブのシーンではないので)無し!...なんです(笑)」
北翔「あああー...! やりたい! やりたいです! やりたいですー!!」
トム「(北翔さんに気おされたように)...ちょっと、頑張る(笑)」
北翔「カツラつけて、違う役で出たい! 違う役で出させてください!」
トム「じゃあ、僕もカツラつけて出ようかな(笑)」
北翔「もう、みんなで出ちゃうっていうのはどうでしょうか!?」
トム「もしかしたら...(笑)。新『スチーム・ヒート』が生まれるかもしれませんね(笑)。新『スチーム・ヒート』とか、新『ヘルナンドス・ハイダウェイ』とか、アイディア次第で。あとカーテンコールも、最後にファッションショーのようになるのですが、エキサイティングな案が出ています。日本ではちょっと今までなかったようなものになると思いますので、楽しみにしていてくださいね」
北翔「...ちゃんと洋服、着てるかしら、私(笑)」
トム「ははは(笑)! 大丈夫です。着てます」
―― 北翔さん、『スチーム・ヒート』に出たい! という以外に、今のうちにトムさんにお願いしておくことがあれば、この機会にぜひ。
北翔「今まで培ってきたものを全部使って、全力でぶつかっていきたいです。もうダメだって思うくらい踊りたいし、歌いたいんです」
トム「もちろんです。『Once A Year Day』(ピクニックのシーン。大ダンスナンバー)も北翔さんありきで考えています。『There Once Was a Man』は愛に気付いて...というナンバーですが、振付師のニック・ウィンストンとも、そこは歌だけでなくダンス!ダンス!という風にしようと話しています。ですので、(色々な北翔さんを)引き出しますよ!」
北翔「楽しみです!」
トム「僕、作品は"僕のもの"ではなく、参加しているキャストに合わせて作ることが大事だと考えています。今回のように新しいプロダクションにかかわる時には、キャストの良いところを引き出して、キャストとともに作り上げていく。キャストの方にリードしてもらって、"自分のもの"にしていただきたいと思っています。だから北翔さんも"北翔さんのベイブ"を作ってくださいね。そこがワクワクするところなんです」
――キャストといえば、製作発表で顔を揃えた皆さんが、本当に個性的で面白かったですね。
北翔「ユニークでしたね(笑)」
トム「Good!! (笑)」
北翔「私は宝塚から外の世界に出て、緊張していたんですが、お会いしたら皆さんユニークで、控え室も明るくて。ですので早く『パジャマゲーム』の稽古場に入って、早く皆さんと交流したい。演じる俳優さんの個性が明るい方ばかりでしたので、たぶん絶対楽しい作品になる、と思いました。なんか、パワースポットになりそう(笑)」
トム「僕も毎朝起きて、本当に「あぁ、俺はなんて良い仕事しているんだろう」って思うんですよ。毎日、(劇場や稽古場に)遊びに行っているような気分。楽しむことはすごく大事ですし、楽しめる仕事をしているっていうのはラッキーなこと。なので、その喜びを皆さんに伝えるんです。それはこちらがハッピーで明るくないと伝わらないですよね。もちろん大変な仕事ですけど。北翔さんも、心を開いて楽しみましょう。もし怖い気持ちがあれば、「あ、私、ビビってる」と受け止めて、その気持ちも利用して取り組んで欲しいと思っています」
北翔「もう本当に安心して、身を委ねられます! 今日トムさんとお話して、こんなにワクワクした気持ちでいっぱいになったのに、本番どころかお稽古までもあと何ヵ月もあるんですよね! なんだかこのワクワク感が、もったいない!」
トム「僕もです、今から稽古、やりますか(笑)」
北翔「(笑)。でもこの勢いで、共演者、スタッフ一丸となって『パジャマゲーム』に挑んでいきたいなと思います!」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:イシイノブミ
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【公演情報】
・9月25日(月)~10月15日(日) 日本青年館ホール(東京)
・10月19日(木)~29日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪)
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受付:3/25(土)11:00~3/28(火)11:00