『クリスマス・キャロル』や『二都物語』といった名作を数々生み出した、イギリスの国民的文豪チャールズ・ディケンズ。
彼が死の間際に記し、そして完成させることなくこの世を去ってしまった作品、それが『エドウィン・ドルードの謎』です。
タイトルからわかるとおり、ミステリー仕立ての小説で、主人公の青年エドウィンと婚約している美しい娘・ローザをめぐり、エドウィンの叔父でありローザを秘かに愛するジャスパー、同じくローザに一目ぼれしたインド出身の青年ネヴィル、その双子の姉妹のヘレナ、ローザといわくがありそうな阿片窟の女主人パファー......と、なんとも怪しげな人物をたっぷり配し、そしていかにも何かが起こりそうな荒れ模様のクリスマスの晩を最後に、エドウィンが行方不明になってしまう......という物語。
つまり文豪ディケンズは、曰くありげなフラグを立てるだけ立て、結末を用意せずに絶筆!
続きは一体どうなるの? エドウィンを殺した犯人は誰なのか? そもそもエドウィンは本当に死んでるの?
...それについては、イギリス文学の研究者が山ほど研究しているところでもありますが、このミュージカルでは、なんと観客が投票によって結末を決めます!
犯人に加え、探偵役も、そしてハッピーエンドに向かうことになるカップルも、すべて観客の投票が決めます!
その数、なんと288通り!
↑
これ、大げさだと思いますか?
本当です。
資料用に借りた台本も、「○○が選ばれた場合→何ページへ」といった具合で分岐が山ほどありました(その分、ぶ厚い)。
そして担当、稽古場を取材してきました!
本日はその稽古場レポートをお届けします。
...なのですが。
ミステリーといえば、もちろんネタばれ厳禁。
その上このミュージカル、設定は<劇場支配人の山口祐一郎率いる一座が、ここ・ロワイヤル音楽堂で、『エドウィン・ドルードの謎』という芝居を上演する>というもの。
つまり俳優の皆さん、ご本人自身として舞台に立っているところもある、という構造。
さらに、演出は、ドラマに映画に引っ張りだこ、コメディをやらせたら現在の日本で右に出るものはいない福田雄一。
福田さんならではの、現実世界とリンクする小ネタが満載なのです...!
...ストーリーもネタばれ厳禁なら、ストーリーに関わりなさそうな小ネタもネタばれ厳禁な感じで...。
(どう書けば...)という心の声を押し殺し、ウンウン唸りながらもとりあえず、キャスト紹介をしつつ、雰囲気をお伝えしていきましょう!
劇場支配人、山口祐一郎さん。
山口さん、狂言回し的に、舞台に出ずっぱり!
舞台上で起こっていることの解説をしたり、茶々を入れたり、大車輪の働きです。
そんな忙しい山口さんですが、この日の稽古開始前、キャストがたむろしている稽古場外の待合室に「明日の稽古、お休みだっていま福田さんから発表が~!」と飛び跳ねてご報告しにくる姿がなんとも微笑ましかった。ミスター・チャーミングですね♪
そんなチャーミングな山口さんの素顔に近い表情も、舞台ではたっぷり見られそうなんです。
エドウィン・ドルード役、壮一帆さん。
元宝塚雪組トップスター、正統派なすっとした男役の壮さん。
これが退団後初のミュージカルなんですが、...初ミュージカルで、男役!?
しかも、殺されちゃう役!?
...いえいえ、真相のほどは舞台でぜひご確認を。
しかし、その"元男役トップスター"のカッコよさ、存分に発揮。
そして、爽やか!
福田さんの演出は、各俳優さんの素敵な個性をトゥー・マッチなくらいに増幅させて、それを笑いに変換しています。
壮さんの場合、カッコよすぎて爽やかすぎて、それが可笑しい...という感じ。
ヒロインのローザ役、平野綾さん。
福田作品では、そのコメディエンヌ的才能を存分に発揮している平野さん、今回もすっとぼけた表情でどかんどかん笑いをさらいます。
※ホントに、これ練習?ここ、稽古場? なほど爆笑の嵐!の稽古なんです。
エドウィンとローザは、親同士が決めた婚約者。
仲はいいけど、ちょっと倦怠期というか...親同士が決めたことだしね、的なところもあるかんじ?
インド出身の青年ネヴィルは、水田航生さん。
この時代(ディケンズが没したのは1870年)、西洋の人にとってはインドや中国はそれだけで"怪しい"、今風に言えば"犯人フラグ"が立つキャラクターです。推理小説のタブーを記した「ノックスの十戒」では<中国人を登場させてはならない(=犯人だとわかってしまうから)>というルールもあるくらい。
...ということで、いかにも、怪しげな空気を纏いまくってます水田さん。何でしょうこのポーズ。
そしてカッコつけマンです(笑)。
いや、実際、カッコいいんですけど。
外枠の設定としては、一座の期待のニューフェイス。
こちらはネヴィルの双子の姉妹のヘレナ、瀬戸カトリーヌさん。
瀬戸さんも、三谷作品常連の、名コメディエンヌ!
その笑いの才能を存分に発揮しています。
ちなみに私が観た稽古場では、ヘレナが犯人でした!(どんなネタバレだ!←あなたが観る回がそうとは限りませんのでご安心を)
インド姉弟、謎のポーズ。
牧師のクリスパークル、コング桑田さん。
コングさんはもう、どこまでが素で、どこからが役なのかが本気でわからないです...(笑)。
普通のテンションで舞台上から取材陣に話かけてきます。
おそらく本番でも、お客さまとトークしだしそうな感じです(笑)。
そしてエドウィンの叔父、ジャスパーの今拓哉さん。
公式のストーリー説明には「ローザを秘かに執着的に愛する」とありますが...まろやかに言って「執着的」です。もはや気持ち悪いです(褒めてます)。
ローザにひと目惚れしたネヴィルに火花を散らすジャスパー。いや、その前に婚約者はエドウィンですから。
こんな今さん、初めて見ます。その美声がもったいなく思えるほど!
山口さんに蹴りを入れられる今さんの図...。
この人も、ミュージカル界が誇るコメディエンヌですね!(今回の女性陣、コメディエンヌが揃ってます、最強です)
阿片窟の女主人パファー、保坂知寿さん。
保坂さんのこんな表情!
...すみません、お綺麗な保坂さんも。
そして山口さんとコソコソ話中(舞台上のワンシーンです)。
今回、待ってました!な見せ場もあり、そうくるか!の意外性のあるシーンもあり。
意外性なところでいえば、山口さんと今さんのダンスナンバー!
おふたり、踊ってます。けっこう激しめなダンスを!
踊りきりました!
もう、演出中の福田さんご自身が、超リラックスな姿勢で、大笑いしてますから。
さて、何かが起こるに違いない、嵐のクリスマスイブ。
クリスマスのイブに、嵐なんですよ!
食卓の上にはワイン!
これは何かミステリーな出来事が起こるでしょう!
ソリがあわないエドウィンとネヴィルは険悪な雰囲気に。
こんな飛び道具まで飛び出した!
クリスパークルに犯人フラグが立った!?
いえ、これ、ネタばれじゃありません。たぶん。
というのも、気を持たせるだけ持たせ、このいかにもな設定の中では、何も事件は起こらなかったから。
...しかし。
その翌日からエドウィンは行方不明になってしまうのです...!
さて、犯人は一体!?
この拘束されているネヴィルか?
そうそう、福田さんの愛ある演出は、アンサンブルさんそれぞれにもスポットを当てています!
池田紳一さん、高原紳輔さん、横山達夫さん、堀江慎也さん、伯鞘麗名さん、遠藤瑠美子さん、福田えりさん、可知寛子さん。
皆さんもハジけててとても素敵なので、お見逃しなく。
(この中に、山口支配人の無茶振りを受け、意外な見せ場が出てくる方や、さらにはソロナンバーをGETしている方も...!)
容疑者の皆さん。
♪さあみんな考えよう、誰が犯人か♪
ミステリーとして楽しむもよし、福田ワールドに大笑いするもよし。
結末を決めるのは、あなたです!
取材・文・撮影:平野祥恵
【公演情報】
・3月27日(日)~29日(火) THEATRE1010(東京) ※公演終了
・4月4日(月)~25日(月) シアタークリエ(東京)
・4月28日(木)~5月1日(日) サンケイホールブリーゼ(大阪)
・5月4日(水・祝)~7日(土) 中日劇場(愛知)
・5月14日(土)・15日(日) 福岡市民会館 大ホール(福岡)