俳優集団D-BOYSの柳下大さん、
劇団プレステージの平埜生成さん、
そして高橋和也さんによる3人芝居『オーファンズ』。
公演初日まであと4日、という稽古場におじゃましてきました。
『オーファンズ』は1983年の初演以来幾度となく舞台化、映画化されてきた名作。
トリート(柳下)とフィリップ(平埜)は、兄であるトリートの盗みで暮らす貧しい孤児。
ある日、トリートは裕福そうなハロルド(高橋)と出会い、誘拐で身代金を得ようと目論みます。
しかしハロルドはトリートに仕事を手伝うように持ちかけ、3人の奇妙な共同生活がはじまる......というストーリーです。
柳下さん演じるトリート。
スリや盗みで弟との生活費を作っています。
粗暴な性質で、ちょっとでも気に食わないことがあると暴れ、何度も警察沙汰を起こしています。
平埜さん演じるフィリップ。トリートに「外に出るとアレルギーが出て死んでしまう」と言われ、一日中家に閉じこもっています。
母親のことは覚えておらず、物心ついたときからトリートだけが頼りです。
トリートは唯一の家族である弟でも自分の気に食わないことをされると大声をあげて脅します。
フィリップはいつもびくびくして、か細い声でしか喋れません。
のっけから2人の芝居に引き込まれました......。
柳下さんってこんな怖そうな方だったかな? 平埜さんってこんな顔してたっけ? と一瞬自分の記憶を疑うほどのトリートとフィリップがそこにいます。
見張りをするフィリップの肩を抱き寄せ「お前にはこれが必要だったんだ」と教えるハロルド。
平埜さんの内側からにじみ出るような表情に、この生活に足りなかったものが伝わります。
そんなあたたかな空気に包まれたのもつかの間。トリートが舞台上に現れるだけでピリピリとした緊張感が走り、観ているだけで不安な気持ちにさせられます。案の定、自分の不在時に2人が関わったことが分かり、怒り狂います。
トリートの脅しにもひるむことなく「私のところで働かないか?」とハロルドは提案。
高橋さんの落ち着いた声、ゆったりとした喋り方は、トリートという人がたくさんの修羅場を潜り抜けてきたであろう大人であろうことまで感じさせてくれます。
フィリップはハロルドからたくさんの新しい世界を教えてもらいます。
声も話し方も表情もまるで別人のようになるその変化にぜひ注目してほしいです!
洋服を買ってもらって身なりも整い、「仕事をくれよ!」と張り切るトリート。
だけどハロルドは自制心の足りなさを指摘し、なかなか仕事を与えません。
素直に成長していくフィリップを横目にイライラを募らせる姿は痛々しいです。
自分だけが世界のすべてだったはずの弟に言われる「トリートは僕に何も教えてくれなかった」という一言は、
これまでずっと弟のためにスリや万引きをしてきたトリートには本当に悲しい言葉なんだと柳下さんの表情を見て気付きました。
一見わがままで暴力的なトリートが抱える想いや過去が透けて見える、
そんなにじみ出るような柳下さんのお芝居を稽古場でたくさん目撃しました。
この舞台の演出を手掛けるのは宮田慶子さん。
宮田さんが何かを伝えるというものではなく、キャストの中から役を引き出していくという演出方法で、
ときにはそれぞれの役をシャッフルしてみたり、ときには彼ら食事や暮らしている町の地図を一緒に想像してみたりしながら、
じっくりと時間をかけ、この座組だけの『オーファンズ』を濃密に作り上げてきたそうです。
それを聞いて「なるほど」と納得。
彼らの姿や物語の結末のその奥に、たくさんの世界が広がるような余韻がありました。
ファンの方はもちろん、「何かいい舞台が観たいな」と探してる方にもオススメしたい舞台です。
公演は、
2月10日(水)~21日(日)東京・東京芸術劇場シアターウエスト、
2月27日(土)・28日(日)に兵庫・新神戸オリエンタル劇場にて。