"昭和の金字塔" 三島由紀夫作「近代能楽集」が、マキノノゾミ(作・演出)×野村萬斎(企画・監修)のタッグにより平成の世に甦る。
ネットカフェを舞台に、現実と幻想が折り重なる現代の『綺譚』が幕を開ける―。
世田谷パブリックシアター芸術監督・野村萬斎が古典の知恵と洗練を現代の舞台創造に還元すべく立ち上げた「現代能楽集」シリーズの最新作、現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』が11月8日(日)世田谷パブリックシアター(三軒茶屋)にて初日を迎えました。
初日を終えた演出家とキャストから取って出しのコメントが到着!!
(左から水田航生、眞島秀和、平岡祐太)
《 初日コメント 》
◆マキノノゾミ(作・演出)
初日はいつでも怖いのですが、今日は特別に緊張しました。上演中は祈るような気持ちでしたが、長い拍手をいただきまして、良い初日を迎えられて大変嬉しかったです。本作は言葉で語る芝居ですので、ストレートに、自分がいつも向き合っているテーマ「幸せとは何か」について書きました。誰かの幸せな瞬間、肩の荷を下ろす瞬間が見たくて芝居を作り続けているのだと改めて思いました。『近代能楽集』と読み比べていただけると、僕の苦心の跡が良くお分かりいただけると思います。
◆平岡祐太
キーチ(深草貴一郎/俳優)役
稽古場と、お客様の前で演じるのとは全く違いました。意図していないところでも、お客様は色々なものを受け取られたり、笑ってくださって、新しい発見がありました。僕は、冒頭からお客様を別の世界へと誘う役どころなので、回を重ねるごとにより一層つかめてくるのではないかと思います。観念的な世界観を味わいつつ、楽しんでいただければと思います。ぜひ、観に来てください。
◆倉科カナ
少女(ユヤ)役
舞台はお客様の反応も入って完成しますので、マキノさんが戯曲で伝えたかった世界観が、本日、少し完成に近づいたのではと思います。私は現実世界の少女ユヤと、「生きる美術品」として成長した女性ユヤの2役を演じるのですが、身体や声色で微妙な差異を出すのが難しいです。舞台は苦しんだ分だけ、成長できる場だと思いますし、とてもやりがいを感じます。
◆眞島秀和
男(宗盛)役
ずっとお客様が入っている様子を想像しながら稽古を重ねていたので、緊張することはないだろうと思っていたのですが、実際、冒頭はとても緊張しました。ですがキーチを演じる平岡さんが序盤を引っ張ってくださり、その空気に乗って、どんどん自分自身もこの芝居の世界観に入っていきました。演劇とは皆で助け合って創り上げていくものなのだと改めて感じています。
◆水田航生
カオル(薫)役
どのような反応が来るのか、これほど予想ができない舞台は初めてでしたが、先入観を持たずに、とにかく台本に書いてあることに向き合い、まっすぐ忠実に演じることを心がけて初日に挑みました。これまで複数の役を演じ分ける経験はあまりなく、僕にとっても新しい挑戦ですが、舞台に上がる瞬間瞬間の切り替えを大切に演じていきたいと思います。
◆一路真輝
女(年齢不詳の女/女主人/女優)役
とても冒険的な試みをしている作品ですし、私自身の役の振れ幅が大きく、それぞれの役で驚くような変化をみせなくてはならないので、稽古中は不安もありました。しかしマキノさんが「絶対面白い!」と仰ってくださり、信じてついていきました。本日の初日では、お客様が素直に笑い、入り込んでくださっているのを肌で感じることができ、明日以降も更に面白くなっていく予感がしています。
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《 みどころ 》
現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』は、三島由紀夫が能楽を昭和の物語として翻案した『近代能楽集』収録の2編「卒塔婆小町」「熊野」を基とした新作現代劇です。
世田谷パブリックシアター芸術監督であり、本シリーズの企画・監修を務める野村萬斎より「平成の能楽集を作ってほしい」との依頼を受けた作・演出マキノノゾミが、2編を1つの作品としてまとめ上げ、平成の世に甦らせました。
1. 重層的な世界観
本作の最大の特徴は、複数の時間・空間・幻想・現実が入れ子構造状に折り重なる重層的な劇世界です。
物語は、現実世界である繁華街のネットカフェをベースに、幻想世界である戦前の洋館や、近未来のペントハウスへと展開し、その幻想世界の中にも「映画」「嘘」「夢」というように様々な幻想が埋め込まれています。
マキノの真骨頂ともいえる緻密に練り上げられたエンターテインメント性を存分に堪能できる一方で、「能」を素材として昭和の世を描き出した三島の姿勢を受け継ぎ、「近代能楽集」を素材として現代社会、そして未来を描き出すマキノの鋭い観察眼に、思わずはっとさせられることでしょう。
2.言葉
劇中行き交う言葉の多様さも大きな魅力です。能面を付け替えるように、言葉遣いをがらりと変えることでキャラクターの変化をみせることをマキノは志向しました。上演中は、現代において日ごろ耳にする若者言葉から、洋館に住まう令嬢の高貴な言い回し、憲兵の高圧的な口調等、多様な「日本語」が舞台上に溢れます。
能舞台を連想させるシンプルなセットと、声色までを瞬時に変えてしまう俳優陣の熱演も相まって、言葉の豊潤さが一層際立ちます。
3.物語
美しい悲劇が幾重にも繰り返される「卒塔婆小町」と、男女の駆け引きをユーモラスに描く「熊野」、二作の登場人物たちが交錯する現代のネットカフェ。そんな「卒塔婆小町」と「熊野」がどう1つの世界になるのか?
最後には、あっと驚く結末が用意されています。
過去の遺産を受け継ぎ、現代、そして未来を照らす「現代能楽集」シリーズ最新作、『道玄坂綺譚』。
新たな境地へと挑む意欲作。どうぞお見逃しなく!
《 ストーリー 》
舞台は東京。繁華街にあるネットカフェ。映像作家のキーチ(平岡祐太)は、本業では生活できずここでアルバイトをしているが、いつも上の空。年下のバイト仲間カオル(水田航生)らからも呆れられていた。この店には長期滞在している年齢不詳の女コマチ(一路真輝)、家出少女ユヤ(倉科カナ)、何十巻もある長編漫画ばかり読んでいる紳士・宗盛(眞島秀和)ら奇妙な常連もいる。バイト最終日、キーチは他のスタッフや客からは、彼女の放つ異臭のため避けられているコマチに話しかける。コマチははじめキーチを鼻先であしらうが、次第に自身の過去と身分を語り出す。彼女は九十九年前からこの辺りに住んでいた、絶世の美女だったということ、彼女を「美しい」と言った男たちは、みな死んでいったことを。気づいたときには、過去と現在、現実と虚構が入れ替わり、彼らは別の世界へと滑り込んで行く。時を前後して、同じ店内で出会った宗盛とユヤの間にはある「契約」が交わされ、二人もまた虚実の狭間へと足を踏み入れる。
大義のために命を投げ打つ青年将校と美しき令嬢、映画女優と新進俳優の不義の恋、世間から隔離されて成長した女性と富豪との奇妙な関係。
男と女、時空を超えてもつれ合う情愛、その先に見えるものとは......。
《 公演概要 》
現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』
三島由紀夫作 近代能楽集「卒塔婆小町」「熊野」より
2015年11月8日(日)~11月21日(土)
会場:世田谷パブリックシアター
【作・演出】マキノノゾミ
【企画・監修】野村萬斎
【出演】平岡祐太 倉科カナ 眞島秀和
水田航生 根岸拓哉 富山えり子 一路真輝 ほか