昨年12月に東京・シアターブラッツで上演された、原田薫ソロ公演『モノクローム』が、ファンの声に応え、スピード再演となった。日本を代表するジャズダンサーであり役者である原田薫が、積み上げてきた進化を余すことなく発揮した公演で、仕立屋を職業とした女性の日々を、女流演出家・小林香と共に鮮やかに描き出し、観客の瞳の奥にその風景を投影する事に成功した魅力溢れる舞台である。
部屋の様子は、壁を埋め尽くしている写真から、飼っている小鳥に至るまでのすべてがモノトーン。彼女は時折、サングラスを装着して、常に白か黒を身に纏っている。でも愛しい相手を思う彼女の笑顔が、部屋に不思議な温もりを与えている。彼からの手紙を読む、湧き立つような喜びの表情や、仕事のミスに落ち込みながらも昭和の歌謡曲に呟きを乗せて自分を励ます姿には、思わず胸を打たれてしまう。そして、すべての出来事が一本の糸で繋がる瞬間に、ある結末へと導かれるが、観客の感性や自身が置かれている環境によって、彼女の人生に起きた事を理解するタイミングが違ってくる。抽象的な部分を観客のイマジネーションに任せるというより、その空間に存在するすべてがストーリーの一部を担っている。彼女のモノローグと、彼の手紙に書かれている言葉、設定されているシチュエーションの全てに集中して舞台を楽しむといい。
観客が期待する原田のダンスは随所に盛り込まれ、音楽が掛かると四肢の可動域を存分に使ったパフォーマンスを堪能させてくれる。宝塚の男役を彷彿とさせるナンバーや、女性が魅せるしっとりとした動きは、第一線で活躍するダンサーたちの憧憬を一身に浴びている原田の振付家としての醍醐味が味わえる。特に冒頭とフィナーレのダンスは、彼女の世界に会いに来たファンの溜息が客席中に広がるような艶やかさだ。心の幕を降ろした後には、計り知れない原田薫の才能を反芻させられ、スタイリッシュな場面が記憶に深く残る。ダンスとモノローグが見事に調和する話題の公演を、絶対に見逃さないで欲しい!
公演は7月4日(金)広島・アステールプラザ 中ホール、7月6日(日)大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。チケットは発売中。
舞踊ジャーナリスト:高橋恭子