ミュージカル『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』が現在、東京・シアタークリエで上演中だ。若くして大金を手に入れた天才詐欺師と、それを追いかけるFBI捜査官の追跡劇を描いた物語。2011年にブロードウェイでミュージカル化され、日本ではこれが初演となる。
スティーブン・スピルバーグが監督し、レオナルド・ディカプリオ&トム・ハンクスが出演したハリウッド映画でも知られるが、元は実際にあった話。主人公である詐欺師フランク・アバグネイル Jr.が鮮やかな手口で様々な職業に成りすましていく様子や、FBIの追跡から紙一重で逃れるスリルなど映画の面白さはそのまま舞台でも楽しめる。だが映画とはひと味違うのが、捜査員に追い詰められたフランクが自らの半生を語るという設定になっているため、作品全体が劇中劇のようになっている部分。その設定を存分に活かし、ショーアップさせた荻田浩一の演出が上手い。暗転がほとんど無く矢継ぎ早に変わっていくシーン展開や、ほとんどのナンバーでダンサーを登場させるきらびやかな演出などがめまいのような感覚を生み出し、観客もフランクの嘘に翻弄された気分になる。同時に、この実話を元にしたストーリーをあえて作り物めかすところに、演劇ならではの面白さも生まれた。
キャストも適材適所で見ごたえがある。フランク役の松岡充はいたずらっ子のような笑顔がチャーミングで、上手く人を騙し、得意になっているフランクの若さ・幼さをナチュラルに体現するとともに、両親からの愛を求め続ける彼の孤独も丁寧に描き出した。ショーアップされたシーンでの華やかさも抜群で、魅力的。彼と対峙するFBI捜査官、カール・ハンラティは今井清隆。深みのある歌声はフランクの孤独を包み込むかのようで、フランクを追う存在でありながら、奇妙な友情が生まれていくふたりの関係性が納得できる存在感。渋さの中、時折り見せるコミカルな表情も愛らしい。また、フランクの恋人・ブレンダ役は新妻聖子(菊地美香とWキャスト)。2幕以降の登場で、彼女のキャリアを考えると多少のもったいなさも覚えるものの、ブレンダがフランクを思い歌うナンバー『Fly,Fly,Away』の熱唱で劇場の空気をさらった。ほか、フランクの七変化にあわせ様々な職業に化けていくアンサンブルたちの奮闘ぶりも楽しくカッコよく、隅々まで見ごたえがある。
↑ フランク役、松岡充
↑ カール・ハンラティ役、今井清隆
↑ ブレンダ役、新妻聖子
舞台美術も60年代風のレトロキュートなテイスト。心踊る音楽とダンス、ブロードウェイ作品らしい華やかさの中、追いつ追われつの物語が疾走感たっぷりに描かれるミュージカル。ストーリーはほぼそのままに、名作映画がまったく違う味わいの洒落たエンターテインメント作品に生まれ変わったことに驚かされるに違いない。梅雨の湿った空気を吹き飛ばしたい人にはおススメの、後味爽やかな一作だ。
↑ スーツ&ソフト帽のバックダンサーとともに踊りまくるハンラティのナンバー。クールで粋なシーン!
↑ フランクの母ポーラ・アバグネイル役、彩吹真央。
↑ ハンラティと、フランクの父フランク・アバグネイル Sr.役、戸井勝海。
戸井さん&彩吹さん扮するフランクの両親は、作品の"しんみり"部分を担当。ふたりのなんとも言えない笑顔も心に残ります。壊れた家族をどうにかしたい、という思いが、フランクを詐欺行為へと走らせるのです。
↑ もうひとりのブレンダ、菊地美香。
↑ げきぴあおなじみ、捜査官トリオも大奮闘!
驚きの扮装も...!? お楽しみに!
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
・7月13日(日)まで シアタークリエ(東京)
・7月16日(水)愛知県芸術劇場 大ホール
・7月18日(金)~20日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ(大阪)