大人の空間で聞く、ジャズ・ボーカルな夜...井上芳雄インタビュー

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ミュージカル界のプリンス、井上芳雄が7月にライブを開催します。

ユニット・StarSとしては昨年もコンサートを実施していましたが、ソロとしてのコンサートは4年ぶり!
しかも会場は大人の空間・ビルボードライブ東京ということで、今までにない挑戦にもなりそうです。

「井上芳雄- Come Fly With Me -Birthday Special Week 大人の空間で聞く、ジャズ・ボーカルな夜」と冠するこのコンサートについて、井上さんにお話を伺ってきました!




●井上芳雄 INTERVIEW●


――井上さんのソロ・コンサートは久しぶりですね。なぜこのタイミングでやろうと思ったのかを教えてください。

「そうなんです、10周年コンサート(2010年)以来。もちろんStarSの活動もしていますし、ディナーショーも何回かやっていますが、こういう形のライブは本当に久しぶりです。単純にそろそろやりたいな、というのと、いま実はドラマの撮影をしていまして(『そこをなんとか2』NHK BSプレミアムで8月3日よりスタート)、そうするとそこにかかりきりになって2・3ヵ月、人前に出ない。僕も寂しいし、きっとお客さまも寂しいんじゃないかと思いまして(笑)。それに10周年の時は青山劇場で10日間やらせていただき、昨年StarSではシアターオーブに日本武道館でもやり...と大きなホールが続いたので、次はもっと親密なところでやりたいとはずっと思っていたんです。そんな中、たまたまこの時期にビルボードで出来るということで、ちょうどやりたい時期と、やりたい場所がうまく合わさった、という感じですね。"バースデイ・スペシャル"となってしまいましたが、それは偶然なんです」


――そして<ジャズ・ボーカルな夜>ということですのでジャズを歌われるんですよね。そこも気になります。

「ビルボードという会場は、やっぱりすごく素敵だし、雰囲気がいいじゃないですか。これはじゃあ大人っぽく、ジャズでも歌っちゃおうか、と...(笑)。ジャズは、例えば10周年コンサートでも島健さんとやったりと、ちょっとずつは歌っていたんですが、その頃は"背伸びして挑戦する"という感じでした。今もジャズ歌手ではないので、得意というわけではないんですが、肩肘はらずに自然にやりたいという気持ちにはなっていますね。ジャズを聴いてもらうのが目的というより、その雰囲気と自分の歌を、一番いいシチュエーションで楽しんでもらえれば、と」
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――井上さん自身はジャズはよく聴くのですか?

「最近はよく聴きます。昔はぜんぜん興味なかったというか、僕、クラシックの勉強から入ったこともあり、苦手意識が強かったのですが...。ジャズってクラシックとは真逆なんですよ。譜面があって、それをどう忠実にやるかというのがクラシックなんですが、ジャズは自由にその日のフィーリングでやる。クラシックをやっている自分としては"自由"というのがまったく苦手とするところで...。でも『組曲虐殺』で小曽根真さんに会って、その時に、芝居を通してですが、感じたままでいいんだというのを教えてもらって、そこから自分にも関係ないことではないのかもと少しずつ興味が出てきました。普段も、海外のジャズ歌手のCDを好きでよく聴いていますよ。だから今回、やっといいタイミングが来たなと思います」


――"苦手"が"好き"になるきっかけというものは何かあったのでしょうか?

「以前、小曽根さんが座・高円寺で全部アドリブ、即興のライブをやっていたんですよ。その日やる曲はその瞬間に決める、それを観にいって、1曲、『組曲虐殺』の曲を歌ってくれとは言われていたんです。リハーサルはしたんですが、即興のライブだからいつ呼ばれるかもわからない。さらに曲の前に何小節か弾くから、それにあわせて即興で歌ってくれって言われて。いやいや僕クラシック出身なんでそんなことできないですよ、と言ったんだけど、でも「感じたままでいいんだよ」と。で、ドキドキしながらも、そこで自分に聴こえてきた音を歌ってみたんです。それが自分にとってのエポックメイキングでした。しかも、アドリブをするのが怖かったのに、やってみたら楽しかったんですよ。そこからですね。じゃあ自分もジャズのナンバーも歌ってもいいのかなと思って。...でも感じたままをやる、ということは実は、お芝居でも同じことかもしれない。お芝居だとセリフはあるけど、気持ちはその瞬間起きたことだから、これをやっちゃダメということはないんだなと思いましたね。自分は性格的にそういう"縛り"が強いほうなんですが、そこを壊していくことも楽しいことなんだと教えてくれたのも、小曽根さんでした」


――小曽根さんに会って、世界が広がったんですね。

「小曽根さんはもちろんジャズ・ピアニストでいらっしゃるんですが、クラシックもジャズも関係なく垣根を飛び越えまくって、演劇の世界までもやっている。ジャズをやりたいというよりは、小曽根さんがやっている音楽やスタイルに影響を受けているなと思います。自分もミュージカルをやっているけれど、歌手としても歌いたいし、ストレートプレイも映像もやりたいし。垣根はできるだけ作らないようにと思っているので」


――何曲か、このライブで歌う候補曲について教えてください。現時点ではシナトラとかルグランとか、いろんな名曲が上がっているようですが...

「まず、今回いわゆるミュージカル・ナンバーは入れていないのですが、その中でもミュージカルに関係あるナンバーを数曲は...と思って、ミシェル・ルグランのナンバーなどを入れています。9月に『シェルブールの雨傘』をやりますしね。それから僕、マイケル・ブーブレが好きなんです。彼はシナトラの系統だと思う。なのでシナトラというよりマイケルの歌ってるもので、今回バンドが9人と、豪華な編成になりますので、華やかなものをやりたいなと思って『New York New York』などを選曲しています。このあたりも、すごく楽しみ。それに『Come Fly With Me』は前から歌ってたんですよ。気付いたらタイトルにもなっていますが、これは大切な曲かな」


――何か思い入れが?

「10周年コンサートのときに初めて、島健さんのバンドと歌ったんですが、それこそ、アドリブを入れてみたり崩してみたりというのをしたことがなかった僕が、このコンサートで10数公演、その時のフィーリングで歌う、とチャレンジした曲。身体に染みこんでいるし、改めて考えると、ジャズを歌いたいというきっかけの曲なのかなとも思います」


――現在大ヒットしている『Let It Go』とかもありますね。

「それは(世間の波に)完全に乗ろうとしてますね(笑)! ...ディズニーアニメは、昨年『プレーンズ』で初めて吹替えに挑戦させていただいて、『Love Machine』はその中で歌った曲です。あと、『Proud Of Your Boy』は『アラジン』のお蔵入りになった曲なんですよ。アラジンがお母さんに歌う曲で、すごくいい曲なんですが、お母さんの存在自体が途中でカットされちゃって、この曲もカットされちゃった。でもすごくいいバラードなので、いつか歌いたいと思ってたナンバーを、初めて歌います。あとは...スタンダードナンバーとしては『What A Wonderful World』は、やっぱり誕生日だから。自分でお祝いするのも何なのですが、ここまで生きてきたことへの感謝を歌いたいなと思って、自分で選びました」


――そうなんです、先ほどは偶然と仰っていましたが、バースデイ・ライブということなので、ちょっと人生を振り返って現在の心境などもお伺いしたいです。たとえばデビュー10周年だった4年前だとしたら、ライブをやるにしてもビルボードでジャズを...とは思わなかったわけですよね。

「そうですね、このライブも井上ひさしさんの作品で出会った小曽根さんに影響受けたりと、いろんな出会いの結果でもあるわけだから、それはとても嬉しいですね。それに20代の頃って何にしてもこうしなきゃという思い込みや義務感があって、それこそジャズを歌うんならジャズ歌手みたいに歌わなきゃ、もっとアドリブでスキャット入れなきゃ、って逆に縛られている部分があったんですよ。今はそういう縛りは自分の中になくなりました。ビルボードでジャズを歌えるんだったら、じゃあこんなのを歌ってみたいなとか。自然な流れな気がして、すごくそれはありがたい。実際にやる中身に関しては簡単にはならないですけど、心はいろいろとラクになりましたね」
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――今年のお仕事についても少し伺わせてください。現在ドラマ『そこをなんとか2』の撮影中ということですが、ドラマは久しぶりですね。

「昨年『猫弁と透明人間』をやって以来ですね。ドラマの現場はやっぱり慣れないです(苦笑)、業界用語もわからなくてドキドキしています。でも連続ドラマとしてはすごぉく前!にやった日テレの『OLにっぽん』(2008年)以来なんですが、それよりは少しずつ映像の仕事もやらせてもらっているからか、なんとなく要領がわかってきたかな。あと、現場にも「あの作品観ました」と言ってくれる人がいたり、舞台で共演した人がいたりと、10年以上この仕事をやっていると、全然知らないジャンルと思いきや、何かしらつながりがあるもんだなって思います。役柄は、まだ前半部分を撮っているのですが、謎めいた弁護士。すごく面白い役です。ラブストーリー担当なんです(笑)」


――あと今年の井上さんのトピックスとしては『モーツァルト!』がファイナルと発表されてます。

「モーツァルトの享年が35歳で、僕も今年35歳ということもあり...。でもそれも、僕がちょうど35歳なんでここでやめる、と決めたというよりは...タイミングですかねぇ...。もともと舞台作品は、再演があるかどうかなんてわからない。僕は毎回これが最後だとは思っていて、今回も、上演のタイミングが去年だったかもしれないし、来年だったかもしれない。そんな中でちょうど僕が35歳の今年にやらせてもらえる、ってなったときに、あぁこれはそういうタイミングなのかなと思いました。そもそもモーツァルトは体力的にも大変ですし、いつまでも出来る役ではない。もちろんもう少し出来るかもしれませんが、どこかで自分の最後を決められるというのは幸せなことだとも思います。望まれるうちに去る...ではありませんが、だったら喜んで最後、一生懸命やろうと」


――でも井上さんの俳優人生で、一番長く付き合った役になりましたよね。

「はい、今回で5回目。こんなに再演を重ねている作品も他にはないです。もちろんファンの方やお客さまの思い入れもあると思うんですが。僕、ちょっとクールというか、冷めたところがあって。モーツァルト役は僕のすべてなんです!という風に仕事はできない。その役をやらせてもらっている瞬間はすべてだと思って、全身全霊を込めてやるんですが、終わったら、もう僕のものではないと思っています。でも舞台というもの自体がそうかなとも思うんです。終わったら消えちゃうし。それに、これも俺の、これも俺の! ってやっていると、新しい出会いもできない気がして。...うん、だから今回を最後に、という区切りですかね」


――なるほど、ありがとうございました。...最後にもう一度、ライブの話に戻して。このライブに挑むお気持ちを改めて。舞台に臨むのと心境は違うものなのでしょうか。

「全然違いますね、気楽というか(笑)。歌詞をちゃんと覚えているかなって不安はありますが...今回英語も多いし。ただ、そのままの自分で出て行く...もちろん歌の中でのドラマはありますが、役を演じるわけではなく、自分を通して歌う。なんか本当に友だちを迎えるような気持ちです。特に(距離の近い)ライブハウスですし。良く来たね、最近俺こんなこと考えているんだ、こんなことがあったんだ、これ最近気になっているんだけど...じゃあ、ちょっとそういう曲を歌います、という気持ちなんです。それを音楽を通して伝えていくので、聴いてくださっている方の思いと音楽がどこかでリンクしたら素敵ですよね。ああ、自分もそうかなとか、そういう考え方はしなかったなとか、そういう思いを共有できたら。お客さんも気楽に足を運んでほしい。でもビルボードってすごくいい大人の雰囲気なので、やっぱりちょっと特別な夜にはしたい。すこしドレスアップして、とか、いつもとは違う感じで楽しんでいただきたいなとも思います。
...本当は、もちろんファンの方にも来て欲しいのですが、井上芳雄ってジャズも歌うの?っていうような方にも来て頂きたいんです。ただ、ありがたいことになかなかそういう状況でもなく、来たいなと思っても実際来れない方が多いというのはジレンマでもあって、できれば1ヵ月くらいくらいやらせてほしかったなって思うんですが(笑)。でも今回だけでなく、またこういうコンサートやライブをやっていきたいですね。僕にとって、歌手であるというのは自分の根っこだと思っている。それにライブでトークするっていうのもすごい鍛えられるんですよね。そこも大切な場なんで、僕も久しぶりのライブ、楽しみにしています」


取材・文・撮影:平野祥恵

【公演情報】

井上芳雄- Come Fly With Me -
Birthday Special Week
大人の空間で聞く、ジャズ・ボーカルな夜

7月3日(木)16:10/20:10
7月4日(金)16:10/20:10
7月5日(土)14:10/18:10
7月6日(日)14:10/18:10
ビルボードライブ東京 

一般発売:6/7(土)10:00~


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