この春、10年ぶりに再演されるキャラメルボックスの名作『ヒトミ』。
その稽古場の模様を引き続きお届けいたします。
さて、取材陣が稽古場に伺った時は、冒頭からしばらくたったあたり、ホテルのシーンを稽古していました。
ハーネスを着けてリハビリに励むヒトミが、病院を抜け出し、親友がオーナーを務めるホテルを訪ねます。
その来訪が実は病院の許可を得ていなかったことを知った恋人の小沢が、ヒトミに病院に戻るように説得する、というシーン。
ヒトミ役の実川貴美子さん。
小沢を演じるのは、多田直人さん。
小沢は、初演では上川隆也さんが演じた役です。
ヒトミが別れを告げても、それが彼女の本心であるとは信じず、でもなぜ彼女がそんなことを言うのかがわかりません。
このシーンでも、強引にヒトミを病院へ帰そうとしますが、居合わせたホテルの従業員(岡田さつきさん)に言いくるめられて、いったん引っ込みます。
わざと小沢を傷つけるような、本心ではない言葉を口にするヒトミ。
それに対し、ヒートアップして逆に隠していた言葉をぶつけてしまう小沢。
実川さんと多田さんのコンビは息もぴったり。
そして、歴代のコンビは「ヒトミを見守る小沢」という印象があったのですが、同級生的対等さのある、フレッシュなカップルになりそうな予感。
小沢のまっすぐに彼女を思う姿はある種、男らしくもあるのですが、演出の成井豊さんは「カッコよすぎる。小沢はもっとふがいないヤツなんだ」とピシリ。
「もちろん、男らしくありたいと思っているけれど、ヒトミに翻弄されている。ダメなヤツなんだけど"でも、君のために闘う"という不安定さ、情けなさ」が必要である、と話します。
今回の成井さんの演出は、あまり俳優たちの立ち位置や動線などといったビジュアル面に拘るのではなく、キャラクターの心情を丁寧になぞる方向のよう。
感情の揺れを重視する<アコースティック・シアター>であるということもあるのかもしれません。
中でも、
「言葉の意味だけを考えて話さないで」
「今のだと、セリフの表面上の意味だけだよね」
ということを何度も話されていたのが、印象的。
「ここは表面上は明るくおどけて話している、でもその裏には"ヒトミが自殺しに来たのでは"という警戒心があるんだ」
「このセリフを受けて、小沢は心境を変化させるんだ。今の言い方では、そんな力があるとは思えない」
「この言葉は、つまり、相手を励ましたいんだ」
etc、etc。
言葉の裏の意味。
こう、と話していても、実際は違う心情を持っている可能性。
さらに、セリフを言うキャラクターの心情だけではなく、その言葉を受け取った相手がどう変化するのか。その反応を引き出すためには、そのセリフをどんなテンションで言えばいいのか。
...深いです。
...深いです。
一方で、ベテラン・岡田さつきさんは軽妙な演技で、ふっと場面を緩ませていきます。
さて、場面は少し進み、病院のシーンです。
ヒトミが着けるハーネスを開発した医師チーム。
こちらはキャラメルボックス初出演、劇団唐組の稲荷卓央さん。
眼光鋭い!
ヒトミのリハビリは、彼らの研究の成果にも繋がるのですが、医師たちも一枚岩ではなく、結果を出すことを急ぐ医師と、ヒトミの体調を最優先しながらゆっくり進めるべきと主張する医師がいます。
目的は同じところに置きながらも、微妙に主張が違う彼らの火花散る応酬もスピーディで面白い!
自分の主張の通し方も単なる言い合いではなく、医師らしく論理的なんですね。
そんな医師たちの関係性も、成井さんは「このセリフで相手を追い込むんだ」「でも追い込んだと思ったら、軽く交わされてしまった」「このセリフで体勢を立て直す」...等々、丁寧な言葉で演出をつけていきます。
目的は同じところに置きながらも、微妙に主張が違う彼らの火花散る応酬もスピーディで面白い!
自分の主張の通し方も単なる言い合いではなく、医師らしく論理的なんですね。
そんな医師たちの関係性も、成井さんは「このセリフで相手を追い込むんだ」「でも追い込んだと思ったら、軽く交わされてしまった」「このセリフで体勢を立て直す」...等々、丁寧な言葉で演出をつけていきます。
チームの一員に扮する鍛治本大樹さんは、渾身のギャグシーン有り!?
一発目で放ったギャグが意外にも(?)成井さんのOKが出てビックリな鍛治本さん。
しかし成井さんからは「でも稽古場では他のパターンでやってね!」とスパルタな言葉。キャラメルの劇団員は、こうやってギャグセンスも磨かれていくのですね(笑)。
稲荷さんの笑顔も♪
何事かを真剣に話し合っている、実川さんと鍛治本さん。
実川さんは、休憩時間中もセリフを口の中で呟きながら独りで身体を動かしている姿も印象的でした。
切なさと愛しさ全開のラブ・ストーリー『ヒトミ』。
キャラクターの心の動きを繊細に積み上げていく稽古場で、ヒリヒリとするような感情がどんどんと生まれて、2014年版『ヒトミ』も、どうやら伝説の舞台となりそうです!
●『ヒトミ』〈2014 バレンタインスペシャル〉
2月13日(木)・14日(金)EX THEATER ROPPONGI(東京)
●〈2014アコースティックシアター・ダブルフィーチャー〉
『ヒトミ』/『あなたがここにいればよかったのに』
2月21日(金)~25日(火)サンケイホールブリーゼ(大阪)
3月1日(土)・2日(日)名鉄ホール(愛知)
3月6日(木)~23日(日)サンシャイン劇場(東京)
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