1934年にブロードウェイで初演されたミュージカル『エニシング・ゴーズ』。
作品誕生から約80年、しかしその楽しさは今でもまったく古びず、逆にタイトル曲「エニシング・ゴーズ」などはスタンダードの域に達し、広く愛されています。
作詞・作曲は巨匠、コール・ポーター。
豪華客船を舞台に、キャラの濃い登場人物が巻き起こす大騒動は、ひたすら楽しく陽気で、そしてゴージャス。
ミュージカルの楽しさを詰め込んだような作品なのです。
ブロードウェイでは2011年に開幕したリバイバル版がトニー賞3部門を受賞、そんなところにもこの作品の普遍性を感じ取っていただけるかも。
日本では1989年以来、大地真央主演でたびたび上演されてきましたが、今回は瀬奈じゅん主演で、17年ぶりに待望の上演!
そんな注目作の開幕を直前に控えた、ヒロイン・リノ役の瀬奈じゅん、リノに恋される青年ビリー役の田代万里生に話を伺いました。
●STORY●
ナイトクラブのスター歌手リノ(瀬奈)はウォール街で働くビリー(田代)に夢中だが、彼は社交界の華・ホープ(すみれ)に惚れている。上司の実業家ホイットニー(大澄賢也)が乗船するロンドン行きの豪華客船で、ホープが婚約者のオークリー卿(吉野圭吾)と結婚式を挙げることを知ったビリーは阻止すべく乗り込むが、そこにはリノも乗船中。ホープの母ハーコート夫人(保坂知寿)も交え、それぞれの思惑を抱えた人々が集結する。そこに指名手配中のギャング・ムーンフェイス(鹿賀丈史)が神父に扮装し、ギャング仲間の情婦・アーマ(玉置成実)と共に潜り込んできた! 一筋縄ではいかない、なんでもあり(=エニシング・ゴーズ)の豪華客船の旅が今始まる!?(公式HPより)
瀬奈じゅん&田代万里生 INTERVIEW●
――「エニシング・ゴーズ」とは"なんでもあり!"という意味ですが、おふたり含めたキャストの皆さんにとっても、やること満載の作品のようで...
田代「振付のある曲がすごく多いので、皆さんずーっとダンスレッスンしていますね」
瀬奈「最近は歌で進んでいくミュージカルも多いと思うんですけど、そういう意味でいうと、ここ最近のミュージカルの中ではダンスは相当多い方だと思います」
田代「特にアンサンブルキャストの方は毎日10時間ぐらい練習してるんですよ」
瀬奈「私もこないだ12時間ぐらいお稽古場にいました。宝塚のときはそのぐらいは毎日でしたけど、借りてるお稽古場だったりするとなかなかそうはいかないじゃないですか。でも今回は自由にやらせてもらえる環境にあるので、みんなちょっと早めに来たりしてお稽古してて。もちろん田代さんも一生懸命されてます。『エニシング・ゴーズ』では、"踊る田代万里生"に乞うご期待!」
田代「ハードル上げないで~!(笑) 今までで一番踊っているのは確かなんですけど、期待せず来てもらって、「意外と踊るんじゃん」ぐらいがいいと思うんで(笑)」
瀬奈「じゃあ、そういうことで(笑)」
田代「リノ(瀬奈)こそずーっと踊ってますよ! 特にリノは個性的なキャラクター相手のデュエットがいっぱいあって、相手によって歌やダンスのジャンルも全然違うし。衣裳もいろいろ着替えて、ね?」
瀬奈「7パターンくらいかな、着替えっぱなし。そして今、田代さんが言ったように曲のテイストが全部違うので、自分の得意・不得意が明確に表れるというか(苦笑)。もちろん克服して頑張りますけれども!」
田代「でもダンス、歌だけでなく、お芝居もかなり濃厚ですしね」
瀬奈「そう、歌とダンスとお芝居、その三角形のバランスがとてもいいんですよね。昔ながらの、歌って踊って芝居するミュージカルという感じ。だからといって、旧さは全然感じない...」
田代「80年くらい前の作品なんですけどね。音楽もコール・ポーターの有名な楽曲が多いんですけど、「あ、昔こういう曲流行ったよね」っていう感じは全然なくて、今聴いてもほんとに新鮮だし」
瀬奈「今回、楽曲は全てオリジナルのまんまでカットされてないんですよね」
田代「間奏だけでも5分とか。その間、ずーっと踊っていて(笑)」
瀬奈「なので、これまでに大地真央さんがされていた『エニシング・ゴーズ』やCDで親しまれていた方には耳なじみのないメロディがあったりして、そういう新しさもあるかもしれません」
――おふたりの役の関係性としては、リノの片思いで始まるんですよね。大スターのリノに対し、ビリーはなかなかツレなくて。
田代「でもビリーもリノに全く興味がないわけではないんですよ。魅力的には感じているんだけど、年齢も上だし大スターだし...」
瀬奈「恋愛の対象ではないんですよね」
田代「もうなんか姉弟みたいな。そしてリノもそのことを半分わかっているような」
瀬奈「わかっているよね、そうそう」
田代「それでも底抜けに明るくてハッピーオーラ全開のリノは、ほんとに魅力的ですよ」
瀬奈「とても無邪気なのよね。ビリーはリノにとって、周りにはいないタイプの普通の男性なんだと思う。「リノ・スウィーニー!」って崇めるような感じではなかったから惹かれちゃったんでしょうね、きっと」
田代「ニュートラルに見ているから」
瀬奈「芸名の自分じゃなくて本名の私を見てくれる人に惹かれる気持ちはわかる気がする。ま、最終的にビリーへの気持ちは母性みたいなものに変わるんですけど。そしてリノもまた別のお相手を見つけて...」
――それがどなたなのかは見てのお楽しみとしまして。ただ台本を読んでいて、「え、いつ"あの人"に惹かれたの!?」と思ったんですが。
田代「なんでもアリなんですよ!(笑)」
瀬奈「そこもね(笑)。台本だけだとちょっとわかりづらいんですけど、"あの人"がすごく真っ直ぐな人だとわかって「かわいいな」っていうところからだんだん惹かれ始めている気がします。お客様にはダンスナンバーの最中なんかで「あ、いま互いにイイ感じなのかな」とかわかっていただけると思うので、そのへんよく観ていただけたらなと思いますね。私としても大切にしたいところです」
――リノはとても母性が強く、姉御肌なイメージです。瀬奈さんご自身もこのカンパニーを引っ張っていくというような意識がおありですか?
瀬奈「全然ないです!」
田代「(笑)」
瀬奈「いやもう田代さんだって年下ですけれども、ほんとに努力家で汗だくで頑張っている姿を見ると...」
田代「汗っかきなだけです(笑)」
瀬奈「逆に「ついていきます!」って思えて。皆さんに対してそう思えるから、すごく大人なカンパニーだと思いますね」
――田代さんは、コメディには初挑戦ですね。
田代「コメディ要素があるものはありましたけど、"コメディ"と銘打っているものは初めてですね。でもビリーはベタなロマンスソングみたいなのがあったりして、登場人物の中では比較的シリアスな部分もあるかな。物語がすごくコメディ寄りになったところで、ビリーのシーンで1回ニュートラルにして、また面白くするという役割もあるんですよね。そこでしっかり抑えておかないと、どんどん脱線脱線! になっていくので(笑)」
――責任重大! では他の方と違ってなかなかハメを外せない?
田代「いえ、ハメ外すとこいっぱいあります(笑)。変装もたくさんしていろんなキャラクターを演じ分けるので、その切り替えを楽しんでいます」
瀬奈「前半はビリーがドラマの主軸になっているから、そこがブレちゃうと全体的にとっ散らかってしまうんですよね。別にプレッシャーかけるわけじゃないんですけど(笑)。ほら、みんなバーッて来て、やりたいことやって去っていくじゃない?」
田代「確かに(笑)」
瀬奈「そこでブレずに立っていてくださるので、こっちとしてはすごく出て行きやすいんです。すごく大変だと思うけれど(笑)」
田代「でも僕がポンといて、周りが「おー!」ってやるのか「フン」ってやるのか、それによってビリーのステータスも変わってくる。全員がコントロールしてくれていることで、僕が成立するんですよね。お互い助け合ってやっていけているなと感じます」
瀬奈「アンサンブルの方たちのパワーはほんとにすごい! 周りがそうしてくれているから、スターになれるというか」
田代「それにかなり助けられています」
瀬奈「すごくありがたいなと思いますね」
――見どころ満載の作品ですが、特にオススメなのは一幕ラスト、キャスト総出演のタップダンスが見られる「エニシング・ゴーズ」の場面でしょうか?
田代「あ、僕はタップは踊らないんですけど。出ずっぱりでハケられなくて、タップシューズを履く暇もないんです。だからしょうがないんですよ!(笑)」
瀬奈「えー、そういう理由!? でも「エニシング・ゴーズ」は圧巻だと思う! 私はタップは『ミー&マイガール』でやったぐらいで、けして得意ではないんですけど、皆さんと一緒にやるとなぜか出来ちゃうところがあったりとか。心をひとつにするって、こんなに勇気がもらえるんだなって思いますよね」
田代「タップのあの「カンッ!」って音が超気持ちいい!」
瀬奈「うん、音が聴こえるから、みんなをより感じられるのかな」
田代「でも「エニシング・ゴーズ」で休憩に入って、2幕始まってすぐもすごい盛り上がりますよね?」
瀬奈「もうマズい! ヤバい!っていうぐらい!(笑)」
田代「だから「エニシング・ゴーズ」だけ突出して派手なわけじゃなくて。とにかく見どころ満載なんです!!」
――では読者へのメッセージを。
田代「観る前に準備することなんてなーんにもない(笑)。何も考えずに来て頂いても、幸せになって笑って帰って頂けるミュージカルになっています。ダンスもいいんですけど、音楽やオーケストレーションが素晴らしい。場所が帝劇というのも、それらを豪華に見せることのできる最高のシチュエーションだと思います」
瀬奈「最初に言ったように、歌、ダンス、芝居の三角形のバランスがよくて、「飽きさせることなく楽しませます!」という思いがすごく詰まった、楽しい楽しいミュージカルです! 私が特に好きなのは、リノとビリーの「ユー・アー・ザ・トップ」の場面。真ん中に噴水があって、それが回って~っていう、昔のMGM映画のような世界観ですごく素敵なんです。あと、ビリーとホープのデュエットで......」
田代「あー、瀬奈さんが止まらない(笑)」
瀬奈「(笑)。ふたりが歌ってるとカップルが何組か出てきて周りをくるくる回ったりして、真ん中に噴水が見えます! みたいな(笑)。そういう、あの時代のブロードウェイのにおいを、何か感じていただけたらうれしいなと思います」
取材・文:武田吏都
撮影:源賀津己
チケットぴあではこの『エニシング・ゴーズ』の特設サイトも掲出中。
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