ストリートダンス、ジャズダンス、コンテンポラリーダンスなど、さまざまなジャンルを横断し、日本の現在進行形ダンス・パフォーマーが一堂に介したダンス公演「アスタリスク」。5月18日(土)・19日(日)の両日、東京国際フォーラム ホールCで上演されたこの舞台は、大好評のうちに幕を閉じた。
参加メンバーは約120名。ダンサー全員が獲得したさまざまな賞のタイトル数の合計は100冠以上。どこを切っても、最高スキルの集合体であるだけではない。誰もが自分たちだけの独自な表現世界を誇る、いわば一国一城の主たち。実力派にして個性派ぞろいの大所帯が、全員の意志をひとつにまとめて、上演時間2時間10分のワン・ストーリーものに挑んだところに大きな価値があった。
この大ファミリーを見事に仕切ってみせたのが、DAZZLEの飯塚浩一郎と長谷川達也の脚本・演出コンビ。特に長谷川は、主役ダンサーも兼ねて存在感を見せつけた。
ダイナミックでスピーディな群舞とアクロバット、生き物のように表情や形をかえる巨大な赤い布などで壮大なパノラマを作った冒頭シーンで物語は始まる。ポイントポイントで挿み込まれる長谷川のナレーションで綴られていくのは、幼いころ両親を失い、離ればなれになった兄(DAZZLE・長谷川達也)と妹(仲宗根梨乃)のストーリーだ。過酷な運命に翻弄されながら、19年後、ついに再会を果たす、ふたりの人生の旅路。兄妹の遍歴をひとつの軸にして、彼らが人生の旅の途上で出会うさまざまな人々が、それぞれのダンスカンパニーに振り分けられているという、巧みな構成だ。
例えば、兄妹が預けられた孤児院のシーンは、精鋭キッズ27名を含むストリートダンスの耽美派Vanilla Grotesqueがめまぐるしいスピードで幻惑する。兄妹が離ればなれになってしまったサーカス見物のシーンでは、LA仕込みのコケティッシュなジャズダンス集団 Think Tank Bangが、摩訶不思議な見世物小屋の世界を奏でる。クールなユーモア感覚が抜群の4人組s**t kingzは窃盗団のシーン。ラテンダンスの絢爛世界JIL Entertainment Galleryは、男爵家に引き取られた仲宗根の「妹」が、華麗なダンスを披露する舞踏会を、ゴ-ジャスに盛り上げた。
19歳で渡米し、世界の一線で勝負してきたダンスクイーン・仲宗根梨乃は、「ラテンは初挑戦」と言いながら、お見事というしかないキレのダンスで観客席の視線をかっさらう。この舞踏会のシーンひとつとっても、メンバー全員が、それぞれの領域を抜け出して、作品世界の実現に奉仕していることがよくわかる。
休憩の前と後で、客席が湧いた。
1幕終了間際の、牢獄看守たちのダンスパート。當間里美の攻撃的なタップ音をそのままダンス・トラックにして、PINOとTATSUOのクレイジーなHOUSEが炸裂する。客席はたまらず歓声の渦。
休憩後の2幕冒頭は、客席過熱請負人・梅棒の出番だった。この日のために用意した自作のポップチューン「がむしゃら my heart」で、仲宗根梨乃扮する「妹」へプロポーズしまくる純情野郎たちを熱演。劇場にいる誰もが、この曲のサビの脳内無限ループに陥ったはずだ。
2幕はここから、シリアスが加速する。主人公の「兄」が軍隊に赴く駅頭の場面では、ロボットダンスでおなじみのスタイル"ポッピン"の王道AFROISMが、無表情な旅人たちを不気味なメカニックで。「兄」が配属された軍隊では、BLUE TOKYOの、ダンスと新体操を融合した芸術的アクロバットが待っている。「兄」と再会するために必要な資金を、自らの瞳を売ることで稼ぐ「妹」に、MEDUSAと矢野祐子の哀しげで怪しいデュオが寄り添う。
ストーリーの流れを、アイデア豊富なスタイリッシュ群舞で推進したDAZZLEの男たち。物語性のある作品を一貫して追求してきた彼らの本領発揮と言えるだろう。この集団が、長谷川達也&飯塚浩一郎の演出・脚本コンビの表現追及を、どれだけ助けていたことか。
そして、再会のとき。もう、誰にも邪魔されない兄と妹の絆。ふたりを見つめる巨大な月。終始、舞台を熱く煽ってきた照明が、冷たくて温かい月の光を照らし出す。
全員の時間をゆったり目に作ったカーテンコール。拍手がひときわ高まったところに、長谷川達也と仲宗根梨乃。つながれた手と交わされた笑顔が、この公演の成果を物語っていた。
「兄」と「妹」の運命を暗示するように、「すれ違い」の動きが随所随所に振付けられていた作品だったが、舞台の上で本当にすれ違ったのは、古い時代と新しい時代だったのかもしれない。ようこそ、ダンスの新時代。「日本のダンスの未来は明るい!」、世界の一線級を知る仲宗根梨乃が、この公演の出演者全員に送った言葉である。
なお、DAZZLEの長谷川達也は、8月23日(金)から、ところも同じ東京国際フォーラム ホールCで開幕する、和央ようか主演のミュージカル「ドラキュラ」で、振付を担当。こちらの舞台も気になるところ。
撮影:和知 明