1990年に森田ガンツ、中村まこと、市川しんぺー、千葉雅子らで旗揚げしてから今年で結成23年を迎える「猫のホテル」。
劇団活動はコンスタントに行いながらも、近年ではメンバーが外部のプロデュース公演や映像作品への出演など、その活動は多様化してきた。
そんな中、主宰の千葉雅子は劇団の新たな可能性を模索すべく、以前からやりたいと思っていた企画を実現してきた。
2011年に劇団の女優・佐藤真弓と千葉による女性ふたり芝居『わたしのアイドル』を上演。2012年に"木枯らし門次郎"をモチーフにした時代劇『峠越えのチャンピオン』を発表。
そして今年、「猫のホテル」旗揚げメンバーの男性陣、中村、森田、市川による男だけの3人芝居の夢がついに叶う。
23年間に渡る劇団の歩みを全て知り尽くした3人が初めて挑む男3人芝居。
千葉と彼ら3人は、出会いから数えると30年来の付き合いになる。
今回、さぞやがっぷり取り組むのかと思いきや、千葉は執筆に専念するのだという。
演出家として招かれたのは、近年目覚しい活躍をみせる「はえぎわ」のノゾエ征爾だ。
2月某日、その稽古場を訪ね千葉とノゾエに話を訊いた。
[左:千葉雅子、右:ノゾエ征爾]
――最新作『あの女』は千葉さんがやりたかったことのひとつですね。演出をノゾエさんに託されることになったのはどんないきさつから?
千葉
「市川君、ガンツ君、まこと君の彼ら3人の人生を反映するような男3人芝居がやりたいと思っていました。ただ、自分が演出するのはどうかなという迷いがあったんですね。自分が演出しながら書くとなるとどうしても演出しやすく書いてしまうし、前回の劇団公演ではこうだったから今回はこうしようとか、いつものアテ書きになってしまうんじゃないかと。もうひとつ、企画を考えていた当時、私が演出家として3人と向き合うために必要な、確固とした戦略や自信がまだ持てなかったんですね。長い関係性の中で仲がよかったり悪かったり、感情的にいろんなものがグルグル回っていたこともありましたし。それで、自分は書くことに専念して外部から演出家さんを迎えて、新たな刺激をもって稽古を進めていただくのも自分にとって必要なんじゃないかと。じゃあ誰をお呼びするんだろうとなった時、ノゾエさんしかいないと」
ノゾエ
「最初に聞いたときは勿論驚きましたけど、すぐにゾクゾク、ワクワクって。初期衝動は、うれしくてイイ感覚がありましたね。そういう最初の直感ってすごく大事かなっていつも思っています。光栄な気持ちで引き受けさせていただきました。少し時間が経ってから、ふと恐怖心も出てきたりしましたが」
――ノゾエさんにオファーされたのは約3年前でしたね。作品の内容についてはいつごろ固まってきたのですか?
千葉
「この3人で老いの入り口に立った男たちの話がやりたいと話したあと、3人が壊れていく話にしようと。ある毒婦に殺されそうになった告訴人の男と検事と弁護人が登場する話にしようと変化したのはわりと最近ですね」
――台本を読まれたとき、ノゾエさんはどんな印象をもたれましたか?
ノゾエ
「最初に役者さんたちと台本を読んだとき、いい意味で"何だこれ"って役者さんがおっしゃって。こんなに長く劇団で一緒にやっていて、いまだにこんな感覚になれる台本が提出されたんだ、すごいことが起きてるって思いました」
千葉
「いつもだと最初に台本を読んでもらうときってものすごい胃が痛いし不安なんですよ。しかも今回"何だこれって思った"って彼らに言われたんです。いつもなら書き直してしまうところですが、ノゾエさんに"何だこれって言葉が、20年過ぎた今でも出てくることは素敵だ"と言っていただき、自分を奮い立たせることができました。やっぱり外部から演出家さんをお招きしてよかった」
ノゾエ
「いやでも、本当に感動しましたね。"何だこれ"を聞いた時。"すごいですね!"って」
千葉
「その言葉でどれだけ救われたか」
――台本がすばらしいと演出するうえでプレッシャーに感じることはないですか?
ノゾエ
「ないことはないです(笑)。演出の目標として、新鮮な面白味をどこかで見出したいなとは思っています。ただ、斬新なものや手法というものが先行しないようには常に気を付けています。シンプルに、この本を面白く体現するにはどうすればいいかと」
千葉
「こちらの方が、ノゾエさんにちゃんと台本を託せているのかと、不安とプレシャーがあります」
――猫のホテルの『座長祭り2004』にノゾエさんが客演され、その後千葉さんが「はえぎわ」公演にゲスト出演されたりと、約10年に渡って交流がありますね。千葉さんは今回の企画を"奇跡"と呼んでいますが、そのあたりをもう少し詳しく教えてください。
千葉
「ノゾエさんにお声がけしてOKをいただいて、劇場やキャストのスケジュールも大丈夫で、自分のやりたいと思ったことが当初の思い通りに進んでいる。パズルのパーツがほんとにきれいに揃った感じ。あとは自分がキチっと書けるか。奇跡の枠が90%はまりましたよ」
ノゾエ
「そのような企画にみてもらえているなら、その期待を裏切るどころか超えていきたい。爪あとを残したいですね。稽古は本当に楽しくて、まだまだ迷っている部分はたくさんあるんですけど、分からないことがあるとゾクゾクしますね。想像もしてなかった領域に行き着けるかな」
――それは観る側もワクワクしますね。
ノゾエ
「最初に猫ホテさんと交流したのが座長まつりだったんですが、その時みなさんに圧倒されて
自分としては何もできなかったというトラウマがあったんです。あの時挫折を食らったというか」
千葉
「えーーー!」
ノゾエ
「僕にとっては、ずーっと"敵わない人たち"という記憶が刷り込まれた出来事だったんです。なので今回の現場を想像した時に、話を聞いてもらえるかな?信頼関係築けるかなっていう、急にちょっと怖くなりましたね」
千葉
「座長まつりはみんなが何かやってやろうっていう腹積もりでしたからね。こちらはオープニングで派手に踊るシーンをノゾエさんに作っていただいて、パシッと踊れなくて申し訳ない思いがありましたよ。あの時はほんとにお世話になったから」
ノゾエ
「当時の僕はまだ攻めの考えしかなくて。"なんか面白いことしてやろう"という思考しかなかったんです。ひとつひとつの事をよく覚えてます。空回りとはあのことを言うんですね。自分がしでかしたあんなことこんなことが恥ずかしい」
千葉
「予想外!」
ノゾエ
「その流れがあった上で、こうして今一緒にやれているのが面白い」
千葉
「10年前の出会いがあっての今回。それもふくめて奇跡ですね」
演劇史に新たなページを刻むであろう猫のホテル×ノゾエ征爾の奇跡のコラボ、見逃す手はない。
公演は2/22(金)よりザ・スズナリにて開幕!
取材:金子珠美(ぴあWeb編集部)
【プロフィール】
作:千葉雅子
会社員を続けながら、旗揚げメンバーに加わり、90 年に猫のホテルを結成。
作・演出・役者・劇団代表として幅広く活躍。
1991 年「プレシャスロード」にて脚本家デビュー。以後、猫のホテルのほぼ全作の脚本を手掛ける。月影十番勝負や「江戸の青空」(G2プロデュース)など外部公演やテレビ・ラジオへの脚本提供も数多く、今年では劇団500 歳の会も好評を博す。独特の骨太な題材が特徴でバカ哀しい人間のあり様を描く。2005 年から2011 年には村岡希美らと真心一座身も心もを旗揚げ、座付き作家兼「流れ姉妹」の主演を務めるなど、精力的に活動中。
演出:ノゾエ征爾
脚本家、演出家、俳優。劇団「はえぎわ」主宰。
1975年岡山県生まれ。8歳までアメリカで過ごす。1999年、松尾スズキ氏のゼミを経て、青山学院大学在学中にユニット「はえぎわ」を立ち上げ、2001年に劇団化。全作品の作・演出を手がけ、自らも出演している。2012 年、第23回はえぎわ公演「○○トアル風景」が第56回岸田國士戯曲賞を受賞。また、外部公演にも脚本家、演出家、俳優として多数参加。2010年より世田谷パブリックシアター企画による、特別養護老人ホームでの芝居も展開。その他、ドラマ、映画などで多分野で活躍する。
げきぴあでは開幕に先立ち、「あの女」の稽古の様子をフォトギャラリーでご紹介します。
★★★「あの女」稽古場フォトギャラリー
[左から市川しんぺー、中村まこと]
[左から森田ガンツ、市川しんぺー]
[演出・ノゾエ征爾]
【公演情報】
猫のホテル「あの女」
2/22(金) ~ 3/3(日)
ザ・スズナリ (東京都)
[劇作・脚本]千葉雅子
[演出]ノゾエ征爾
[出演]中村まこと / 森田ガンツ / 市川しんぺー
※前説芝居の出演は千葉雅子 / 佐藤真弓 / いけだしん / 村上航
日替わりゲストが参加する回あり。
最新情報は公式HPにてご確認ください。
公式HP
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