【演劇ニュース】
市川亀治郎が7役もの華麗な早替わりを見せる昼の部『於染久松色読販』と、主人公の与兵衛に扮した市川染五郎による壮絶な"殺し場"が見どころの夜の部『女殺油地獄』。普通の歌舞伎公演とは異なり、昼夜1本ずつに演目を絞ることで作品自体の面白さをたっぷりと味わえる二月花形歌舞伎が、ル テアトル銀座 by PARCOで2月1日、幕を開けた。外部公演や映像作品でも活躍するふたりだけに、ポスター写真を人気カメラマンの蜷川実花に依頼したり、上演時間を他の演劇と同様の2時間半にまとめたりと、随所に工夫を凝らした本公演の初日を観た。
『於染久松色読販』(鶴屋南北作)は商家の娘・お染と丁稚・久松の悲恋と、久松の家の御家騒動とが並行して展開。物語の面白さはもちろん、亀治郎がお染と久松、久松の許婚・お光、久松の姉で奥女中の竹川、お染の母・貞昌、男のような気風の土手のお六、芸者の小糸と、年齢や性別まで異なる早替わりが見どころ。それも衣裳を替えるだけでなく、小道具やセットを使っての舞台上でのトリックも盛りだくさんで、歌舞伎ビギナーでも文句なしに楽しめる娯楽作だ。
一方の『女殺油地獄』(近松門左衛門作)も、大店の放蕩息子・与兵衛が義父や実母、世話焼きの油屋の女房・お吉らの愛情で改心しかけるものの、借金によって殺人に走る筋立てが現代にも通じる一本。とはいえ鈍く光る油にまみれて与兵衛とお吉が揉み合う"殺し場"は、歌舞伎ならではの凄惨な美しさだ。今回は通常上演される部分の前に与兵衛とお吉の本来の仲の良さを表した「野崎参り屋形船の場」、後に与兵衛が捕まるまでを描いた「北の新地の場」「豊島屋逮夜の場」を加え、より物語の輪郭が明確に。小者であるがゆえに衝動的に殺人を犯す与兵衛だが、染五郎は縄を掛けられた後に不敵な表情を見せた。それをどう受け取るかは、観る者に委ねられているのだろう。
終演後の会見では、「10年ぶりの与兵衛役ですが、自分が成長していると信じて挑みたい」と話した染五郎。伯父である市川猿之助から「猿之助四十八撰」として"お染の七役"を受け継ぐ亀治郎も「早替わりや物語のテンポはもっと早く出来るはず。より完成に向けて努力したい」と意気込んだ。同時に「『女殺~』はドラマとしてすごく深い作品」(染五郎)、「ふたつとも分かりやすい演目ですよ」(亀治郎)と、幅広い層に向けてアピールしたふたり。ロビーにはピンクと白の繭玉飾りが溢れ、客席には提灯と、華やかな賑わいも楽しい本劇場で、歌舞伎のダイナミックな面白さを堪能してみては。
公演は2月25日(金)まで、ル テアトル銀座 by PARCOにて。なお、チケットぴあでは一等追加席も発売中。
取材・文:佐藤さくら